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天使すぎる転生幼女は魔族を平和に導きたい!  作者: 由岐
第6章 動き出す世界
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私にも出来ること

 それから私は、アレカさんから根掘り葉掘りと服の好みを尋ねられた。

 やれフリルのある服はどうか、やれボーイッシュな物にチャレンジするのはどう思うか、好きな色や嫌いな色、やっぱりドレスは何着か用意しておきたくはないか……等々、物凄い勢いで()かれまくった。


 別に私としては、元から着ていたこの真っ白なワンピースでも快適に過ごせてたんだけどね……?

 冬の季節は貰った上着を着ておけば寒さは大丈夫だろうし、部屋はあったかいし、寝る時はシィダが一緒だからぽっかぽかだし。

 それにまだまだ幼児体型だから、お洒落をするにしてもどうにも背伸びしてます感があるからさ。


 ……それに、実はつい先日の話なんだけれど、初めてのお給料を貰ってるんだよね!


 植物園管理人補佐のお仕事……とは言っても、やっている事はこんな幼児にも出来るような水やりとか、雑草抜きとか、全部リーシュさんが見守ってくれている中でやれるような事ばっかりなんだけどさ。

 それでも魔王軍の一員として働いているからと、ちょっとした子供のお小遣いに毛が生えたレベルのお金は頂いているのだ!

 そのお金をコツコツ貯めて、何かあった時の為に使おうと考えていたから……衣食住の提供がある王宮で暮らしている分には、特に不自由を感じた事は無かったんだよ。


 服だって確かにこの一枚だけだけれど、王宮の侍女さんに洗浄魔法を掛けてもらえば、庭仕事で汚れても一発で綺麗になってしまう。

 そうなると、本格的に服が破れたりでもしない限り、同じ服を着回す節約生活が出来てしまうんだよ。


「……ルカお嬢様、ご協力ありがとうございます。お嬢様の好みと陛下からのオーダー含め、早速軍師様と詳細な打ち合わせに入らせて頂きますわねっ!」


 私から一通り情報を聞き出した商人のアレカさんは、とてもウキウキした様子でウサギ耳をぴょこぴょこさせた。


「で、でもわたち、そんなにいっぱいお洋服いらないでしゅよ……?」

「どうしてだ?」

「っ……!?」


 私の言葉に、エディさんが不思議そうに首を傾げる。

 アレカさんなんて、ショックで言葉を失ってしまっていた。


「だってわたち、しぇっかくお洋服を作ってもらっても、子供だからすぐに大きくなって着れなくなっちゃいましゅし……。そしたら、お金だってもったいないれすよね?」


 そう、私はまだまだ成長過程にある幼女なのだ。

 今着ているワンピースはまだもうしばらく着ていられそうな余裕はあるけれど、キツくなってきたら貯金で新しい服を自分で買おうと考えていた。

 それなのに、そのうち着られなくなってしまうような服をホイホイと大量に作らせるのも悪い。更には、どうやらそれはお父様とエディさんのポケットマネーから出される事になっているらしいのだ。

 いくら彼らが私の保護者のような存在(現にお父様は本当のお父様になっちゃったし)だとはいえ、中身が大人の私からすると、そんなお金の使い方をされるのは心苦しいのもあった。


 しかし、エディさんはこう返して来た。


「……いいや、ルカはそんな事気にしなくていい」

「でも……!」

「俺様とヴェルカズが、お前さんに必要だと思ったから今回リゼーア商会を呼んだんだ。……それにまだ実感が薄いのかもしれねえが、お前はこの国の姫になったんだぜ?」

「……わたちは、おとーしゃまの娘として、見た目に気を遣わなきゃダメだかりゃ……?」

「何だ、ちゃんと分かってんじゃねーか!」


 それなら尚更、金の事なんざ気にすんな……と、エディさんが私の頭を撫でながら言う。


「これは必要な投資でもあり、俺とヴェルカズからの祝いのプレゼントでもあるんだぜ? 我らがヴィオレ魔導王国軍へようこそ……ってやつだ。……まあ、アレカのスケジュールを抑えるのに時間が掛かっちまって、予定が遅れちまったがな」

「アレカしゃんの、しゅけじゅーる……?」


 今度は私が首を傾げて尋ねると、エディさんが即答してくれる。


「アレカは昔からの顔馴染みなんだが、コイツは商会の専属デザイナーでもあるんだ。それも、魔王ヴェルカズ御用達の一流デザイナーなんだぜ?」

「ふふっ……事実ではございますが、こうもストレートにお褒めの言葉を頂戴してしまうと、照れ臭いものですわね。先日の冬祭りで陛下がお召しになられていた服も、実は私がデザインさせて頂いたものだったのですよ」

「あっ、あの時のカッコいいお洋服でしゅか!?」

「ええ、左様にございます。……ただ、ルカお嬢様のお洋服に関しましてはお時間が足りなかったので、サイズの合いそうな品を何点か貸し出す形になっておりましたが」


 そうか……アレカさんはただの商人じゃなくて、デザイナーさんでもあったんだ……!

 あの時のお父様は、普段よりイケメンオーラが何割も増してて凄かったよね……。

 相手の魅力を引き立てる服を作れるアレカさんなら、確かに魔王様御用達のデザイナーとして、こうして今日も指名されたのも頷けるわ。


 するとアレカさんは、私の目を真っ直ぐに見てこう言った。


「……確かにお嬢様がおっしゃられたように、子供服というのはすぐに着られなくなってしまうものですわ。けれどもそれは発想を逆転すれば、“その時にしか似合わない服”でもあるのです。着る方の年齢と体型……それが目まぐるしく変化するのが、子供服なのです」


 ……そういえば、昔お母さんが言ってたっけ。

 私が子供の頃のアルバムを眺めながら、弟と一緒に写っていた写真。それを私に見せながら、お母さんは『これ、とっても可愛い服でしょ? でも今の流歌じゃ、もうこんな子供っぽいのは着れないもんね。だから、こうして沢山写真に残しておいて良かったわ』と、満足そうに笑っていた。


 アレカさんの言う“その時にしか似合わない服”という意味が、何だか重く感じる。


「そうだぜぇルカ! 今この瞬間のルカだからこそ似合う服ってのが必要だからこそ、こうしてアレカに直接お前さんの魅力を肌で感じてもらう為に来てもらってんだ。寿命の長い魔族にとって、子供でいられるのなんざ、ほんの一瞬だ。その一瞬を大切にしたいっつー俺様達の気持ち、ルカなら分かってくれるだろ?」

「……わかりまちた」

「よっし! それじゃあ決まりだな!」


 嬉しそうにガッツポーズをするエディさんと、早速ペンを持って紙に何かを描き始めるアレカさん。

 ……もしやアレは、服のデザインを始めてるのかな? ここである程度服のデザインを決めて、その中からエディさんに選んでもらうのかも。


 ……それでもやっぱり申し訳なさは残るから、今度お父様とエディさんには、服のお礼に何か考えておかないとなぁ。




 *




 それからエディさんとアレカさんは、何十枚もの紙と睨めっこしながら、ああでもないこうでもないと意見をぶつけ合っていた。

 私はそれを少し離れた所で眺めながら、途中で二人に意見を求められれば答えていた。


 どうやら私に作ってもらう服は、普段着だけでなく植物園で働く際の作業着や、特別な日に着るドレスなんかも含まれているらしかった。

 ……こんな私でも、肩書きとしては【魔王の娘】で【次期魔王】なんだもんね。

 これまで日本で暮らしていた頃の感覚で考えていたけれど、今の自分の立場をもっと客観視して動いていかないといけないんだろうなぁ。思っていた以上に大変そうだ。


 二人のやり取りをぼんやり眺めている間も、アレカさんの護衛として雇われているという傭兵のティズさんは静かだった。

 商会の正式な一員じゃないというものあるんだろうけど、余計な事に口を挟まないようにしているのかな? プロ意識っていう奴だろうか。

 ……そういえば、傭兵っていう事は戦うのが仕事なんだよね? 現に王宮の周りの森には強い魔物が出るらしいし、ここに来るまでにもアレカさんを護る為に戦っている可能性が高い。

 それに魔族なら、魔法の扱いだって得意かもしれない。実戦に身を置いている人の意見を聞いてみるのも、悪くないよね? 打ち合わせが終わるまで、まだ時間が掛かりそうだし!


「……あの、ティジュしゃん?」

「……その『ティジュ』というのは、俺の事ですか?」

「あい。……お名前噛んじゃうのは、許ちてくだしゃい」

「構いません。……それで姫様、俺に何かご用があって話しかけられたのでは?」

「あ、あい! その……わたち、最近魔法の特訓を始めたんれす。今はまだ無理だと思うんでしゅけど、大きくなったらおとーしゃまの為に、もっと役に立ちゅ人材になりたいんでしゅ! 基本的な訓練はしているんでしゅが、どういう魔法から覚えていった方が良いか、傭兵のお仕事をしているティジュしゃんの意見が聞きたいれす!」


 ティズさんは幼女の話も真剣に聞いてくれて、私の為にちゃんと答えなければと、しっかりと返事を考え込んでいるようだった。


 ファンタジー小説とかゲームで得た勝手なイメージだけど、傭兵ってもっと物騒な感じの人達を想像していた。

 だけどティズさんは、話し方も丁寧だし、実は傭兵じゃなくて騎士なんですと言われても納得するようなイケメンでもあった。

 長い前髪を真ん中で分けて、少し伸びた後ろ髪は簡単に一つに纏めている。傭兵って色々な場所を転々としているから大変そうだけれど、ティズさんの青い髪は艶が良いから、ちゃんとご飯を食べられるぐらい稼げてるんだろうなぁ……。


 彼と似たタイプだと、ムウゼさんも礼儀正しい人だけど、冷静で厳しい所もある堅物マジメ系。

 対してティズさんの方は、同じ真面目なタイプでも、執事っぽい優雅な雰囲気があるんだよね。

 それこそ本当に、どこかの貴族の息子だけど家出して傭兵稼業やってます……とか言われたら信じちゃいそうなぐらいだ。何というか、育ちが良さそうなんだよね。現に私の事を『姫様』って呼んでくれたし、騎士とか貴族の息子っぽい佇まいなんだよ!


 ティズさんは顎に手を当てて、しばらくして口を開いた。


「……そうですね。最初は危険の少ない魔法から、一つずつ確実に習得していった方が良いのではないでしょうか? 例えば……そう、治癒魔法だとか」

「それ、おとーしゃまに聞きまちた! 怪我を治す魔法でしゅよね?」

「はい。光属性を持たない魔族には不得意な物が多いですが、ちょっとした切り傷や打撲を治す程度のものであれば、日常生活にも応用が効くでしょう。それに、攻撃魔法と違って暴発する危険もありませんから」


 ひ、光属性……!

 そうだよね……魔族は普通、光属性の魔法なんて使えないはずなんだもんね。

 それなのに光属性を持っている私の身体って、本当に何の種族なんだろう? 見た目は人間と変わらないから、まさか人間だったりして……?


 ……とにかく、これは絶対にお父様達以外の人達には知られちゃいけない秘密だからね。ティズさんには、普通の魔族の子供っぽい返事をしておかないと!


「……そうれすね! 治癒魔法なら危なくないし、皆の役にも立てましゅもんね!」

「ええ。治癒術師は成り手が少ないので、もしも姫様に治癒の才能があれば、俺も姫様に治療して頂く機会もあるかもしれませんね」


 まあ、姫様が今後俺を雇って下さればの話ですが。

 そう言って、ティズさんは小さく笑った。



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既にブクマ済みの方、最新話にもいいね付けて下さっている方、ありがとうございます。日々の執筆の励みになります!

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