ヴェルカズ視点 お父様と呼ばれて
光属性の魔力を有する天使の子……私の義理の娘となった幼子であるルカ。
あの小娘は、その種族からして将来有望な魔法の使い手になる確信があった。
天界に棲まう天使共は、我らの暮らす魔界に居る悪魔とは対局的な存在である。
悪魔達は、我が友であり軍師でもあるエディオンのように、五大国を治めるいずれかの魔王に仕える高位魔族だ。
対して天使はというと、天界の最高権力者である天使長に従っており、我ら魔族とも人類とも異なる組織を築いている。
奴らはただ一人の天使長の命令に従い、職務を全うする生き物。愚かな人類に寄り添い、全ての魔族と魔物を滅ぼさんとしているのだ。
故に、天使は戦闘に長けた一族である。
その血を受け継ぐ子供であるルカもまた、悪魔にも匹敵する強力な戦士となる素質が眠っている……のだが。
今日から始まったルカへの魔法指南にて、我が娘は私の想定を遥かに上回る才能を発揮してみせた。
外見からしてまだ三歳程度の若さでありながら、並みの魔導士では簡単に壊せない強度を誇る訓練用の人形を、文字通り吹き飛ばしてしまったのである。
「……確かに私は『なるべく速く、思い切りぶつけろ』と言った。言いはしたが……
……初めての訓練で、ここまでやるか?」
「わ、わたちにも、何が何だか……わかりましぇん……」
……私も何が何だか分からぬが、魔力弾の速度も威力も申し分が無いのは確かである。
単なる魔力の塊を当てるだけでこの破壊力を出せるのであれば、きちんとした手順を踏んで魔法を発動させた時には、建物の一つぐらい簡単に倒壊させる事も出来るだろう。
魔力のコントロールも早々にコツを掴んだようであるし、この調子であれば手加減の仕方を覚えるのも早いはずだ。
……それはそれとして。
「おとーしゃま、今日はあいがとーごじゃいました! また今度、特訓よろしくお願いしましゅ!」
「……ああ」
それからしばらく指導を続け、昼食の時間が近付いた。
ルカはしっかりと頭を下げ、最後にとびきりの笑顔を私に向けて、迎えに来たムウゼに連れられて去って行く。
……くっ……!
ルカの舌っ足らずな喋り方で『お父様』と呼ばれるだけで、こんなにも心を乱される事になろうとは……!!
これではもう、エディオンと変わらぬではないか……。正統なる魔王であるこのヴェルカズが、天使の小娘如きに骨抜きにされる訳には……いかぬ、のだが……ッ!!
「……深呼吸をするのだ、私よ。あの程度で振り回されていては、この先身が持たぬぞ……」
誰もいなくなった地下室で一人、私は深く呼吸を繰り返して心を落ち着ける。
……この際、ルカが愛らしいのは素直に認めてしまおう。
けれどもあの娘の価値は、その見目の良さだけではない。生まれ持った魔法の才能と、我らには扱えない光属性の魔力──。
魂の根幹に闇を内包する魔族に対して、光の力は効果的だ。
遠い未来にルカが魔王となる時には、その力が全魔族を制する鍵になるだろう。
……けれどもその反面、光の一族である天使の弱点ともなるのが闇なのだ。
ルカにはそれまでに身を守る術を教え、どの魔族にも劣らない戦闘力を身に付けさせねばならん。
闇と光は表裏一体。
この私が魔界統一を果たし、邪魔な天使共も一掃した先の時代──魔族がいずれ来る【勇者】に怯えずに済む世界へと、私とルカが導かねばならぬのだ。
「私の闇と、ルカの光……。その二つが合わされば、我がヴィオレ魔導王国は、魔界五大国のどの国をも凌駕する」
それを実現させる為にも、ルカの身の安全は必ず護らなければならない。
あの天使の娘には、天使長の直属の配下である大天使共にも引けを取らない実力が眠っている。もしも、その力が他国に渡れば……。
「……我らの手で、あの娘を葬らねばならぬやもしれぬ」
……ルカを殺す……それだけは避けたい。
エディオンがあの娘をいたく気に入っているのもあるが、どうやら私も情が移ってしまったらしい。
「しかし……先日のゼルム町跡での件もある。スカレティアとの国境に近いあの場所で、ムウゼ達ですら警戒する殺気を放つ者が現れるとは……」
我が国の南方、スカレティア連合王国。
かの国の魔王は血の気が多く、これまで何かと小競り合いも多い相手ではあったが、ここ最近は妙に大人しいのが気になっていた。
あれも恐らくは、何かの前触れ……なのであろうな。
南の防衛に力を入れるよう、改めてエディオンに忠告しておいた方が良いだろう。
そうして私は、早速エディオンを探しに食堂へ向かった。
エディオンは「ルカとメシを食いたい!」と散々喚いて駄々をこねておったが、「これからもルカは私の娘として我が王宮で暮らすのだから、またの機会に相席すれば良かろう」と一蹴し、私の執務室へと奴を引き摺っていった。
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