表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
32/75

お父様と魔法の特訓

 一年の終わりに、沢山のご馳走やお菓子でお腹を満たし、来年への活力を蓄える冬祭りが終わり──


 私、藤沢流歌ことヴィオレ魔導王国の姫……ルカはというと、いよいよ本格的に魔法の勉強を始める事になった。


 感覚派のエディさんには断られてしまったから、論理的に魔法を扱える魔王のヴェルカズ様……私の新しいお父様を師匠として、一から魔法のレッスンをするのだ。



 朝食を終えた後、私と契約している黒妖犬のシィダは、てっきり一緒について来るかと思ったら部屋で待っているらしい。

 シィダを連れて帰って来てからというもの、この子は私のベッドの上がお気に入りみたいなんだよね。飼い主の匂いがする場所が落ち着くのかな……?

 一応、外と行き来が出来る様にドアは開けてあるから、基本的にはシィダの自由に過ごしてもらっている。


 シィダにお留守番を任せた私は、魔王様……お父様……? と約束している、王宮の地下に向かう。

 勿論、三階から地下までの階段を一人で降りるのは足元がおぼつかないので、お世話係の一人である騎士団長のムウゼさんに着いて来てもらいましたとも!


「さあ、着いたぞルカ」

「あいがとーごじゃいましゅ、ムウゼしゃん!」


 私がお礼を言うと、ムウゼさんが小さく微笑む。

 ムウゼさんって真面目で凛々しいタイプのイケメンだから、こういう日常のふとした瞬間に溢れる笑顔が貴重なんだよねぇ……! 朝からイケメン成分、ご馳走様ですっ!


「昼食の時間に迎えに来る。……ヴェルカズ様のご指導は厳しいだろうが、ルカならばきっとものに出来るだろう。しっかりと励めよ」

「や、やっぱり厳しいんれすね……。でも、わたち頑張りましゅ!」

「うむ、その意気だ。それでは、また後程」

「あい! ムウゼしゃんも、お仕事頑張ってくだしゃいねー!」


 一階へと続く階段を登っていく彼の背中を見送りながら、私はぶんぶんと手を振った。


 さて、王宮の地下に来るのはこれで二度目だったかな?

 一度目は、ムウゼさんに王宮を案内してもらった時だったんだよね。地下には大きな図書館があって、それとはまた別に魔法の訓練用のスペースがあるらしい。

 今日の午前中はその魔法訓練場で、お父様と特訓に励むのだ。

 そして午後からは植物園に行って、管理人のリーシュさんのお手伝い。いやー、幼女にしては充実したスケジュールな気がする!



 しばらく通路を歩いていくと、待ち合わせ場所の訓練場の扉が見えて来た。

 出入り口は両開きの大きなドアになっていて、ちょっと重かったけれど、私の力でも開くことが出来た。


「しちゅれーしまーしゅ……」


 昨日の今日で義理の親子になった魔王様が待っているかと思うと、やっぱり緊張してしまうもので……。

 思わず声が縮こまってしまったけれど、静かな部屋には、それでも私の声が確かに届いていたらしい。


「……来たか、ルカ」


 広い室内に、魔王様の低い声が響く。

 私はそっと扉を閉めてから、頭上から私を見下ろす彼の前に立った。


「魔王しゃま、おはよーごじゃいましゅ! 今日から魔法の特訓、ごしどーよろしくお願いしましゅ!」

「……昨夜、私の事を何と呼べと言ったか、覚えておるか?」

「あっ……お、おとーしゃま……?」

「……そうだ、それで良い。では改めて、挨拶からやり直すが良い」


 そうだったそうだった、魔王様の事は『お父様』って呼ばないといけないんだった……!

 昨日はもう最後の方はあまりにも眠すぎて、ちょっと記憶が曖昧になってるんだよなぁ……。


 ……そういえば私、リーシュさんにお風呂に入れてもらったんだったよね? 後で会ったら、昨日のお礼を言っておかないと。

 ただ、リーシュさんが何か話してたような気もするんだけど……ダメだ! 成長途中の幼女の体力じゃ、夜遅くまでの出来事を覚えていられない……!!


 ひとまずこれは置いておいて、今は目の前の事に気持ちを向けないとだよね!

 私は気合いを入れ直し、ぐっと拳を握り締めてお父様の顔を見上げる。


「……えっと、おとーしゃま! おはよーごじゃいましゅ!」

「………………良かろう」


 うーん……?

 かなり返事に間が空いたけど、お父様の表情からは何も感情が読み取れない……!


 ヴェルカズお父様……って呼ぶのもまだ全然慣れないけど、お父様って男の人なのに、物凄い美人なんだよね。

 エディさんはワイルド系イケメン、ムウゼさんは正統派イケメン、ナザンタさんはワンコ系イケメンに分類すると、お父様って……何というか、セクシー系イケメンって感じなんだよ。

 そこに更に魔王特有のラスボス感というか、冷酷な悪役っぽさも加わるんだよね。冷たい美しさ……っていうの? 長い黒髪もサラサラのツヤツヤで、切長の青い眼もクールビューティーさに拍車を掛けててさ。

 そんな簡単に触れたら怪我しそうな危険な妖艶さのある彼は、ほとんど表情を変えないんだよ。何を考えているか分からない……まあ、思っている事が顔に出たらまずい立場だから、自然とそうなっちゃうのかもしれないんだけどね?


 ……そのせいというか何というか、エディさん達に比べると、お父様って近寄りがたい雰囲気が凄いんだよね!

 私みたいなちんちくりんの幼女が、ホイホイと側で『お父様〜!』なんて呼んで良いのかどうか戸惑うっていうかさ!?

 そりゃまあ私だって、日本で普通に暮らしていた頃は、こういう感じの悪役系イケメン大好物でしたけども! だけど、いざ本物の超絶イケメン魔王様(それも義理の父)への距離感とか、全然分からないからね!!


 ……けどまあ、それでもこの世界で生活していかなくちゃならないからには、魔法が使えないとこの先色々と不便だとも思うワケでして。


「……それではこれより、このヴェルカズが直々に、貴様に魔法の何たるかを教示してやろう」

「あい! よろしくお願いしましゅ!」


 綺麗だけど物凄く怖いお父様と、マンツーマンの魔法レッスンに挑むしかないのです……!




 *




 王宮の一階には近衛騎士団の訓練場があるけれど、この地下の魔法訓練場は、魔法に特化した構造になっているらしい。

 ここではどれだけ強力な魔法を使っても、簡単には壊れないように出来ている。だから色々な魔法を試せるし、秘密の特訓だって出来てしまう。


 ……そう。魔族には扱えない、光属性の魔法だって!


「そのまま魔力を両手の間で留め、球体を維持するように意識を集中するのだ」

「こ、こう……でしゅか……?」

「そうだ。その状態を、私が良いと言うまでキープし続けろ」

「あい……!」


 私は今、自分の魔力をボール状の形で維持する特訓をしている。

 どうやらこれは、魔力コントロールの基礎練習の一つだそうだ。魔力の渦が綺麗な球体であればある程、それが早く出来れば出来る程、上手に魔力を操れる証になるらしい。


 私の両手の間には、真っ白な光の塊が浮いている。

 これが私の魔力であり、私の魂から生まれるエネルギーなんだとか。


「……ふむ。覚えが早いな。貴様の年齢でここまで安定して球を形作れる者は、そう滅多におらん」

「そ、そうなんでしゅか……?」

「ああ。これだけ魔力コントロールに長けているのであれば、あらゆる分野で活躍出来る可能性もあるだろう。……では、次はその球をあの人形に当ててみよ。なるべく速く、思い切りぶつけるのだ」

「あ、あい!」


 お父様が指差した先には、カカシのような練習台の人形が立っていた。

 私は言われるがままに、両手の中の魔力をカカシに向けて投げ飛ばすイメージで、両手を前に突き出してみる。


「……えーいっ!!」


 五メートルぐらい先にあるカカシに、私が放った魔力弾が勢い良く飛んで行く。

 ……想像以上のスピードと、とんでもない破壊力で。


「…………え?」


 ポンッ、とぶつかる程度で弾けて消えるかと思った魔力弾は、逆にカカシの方を消し飛ばしてしまっていた。

 片手で収まるぐらいの、野球ボールサイズの魔力の塊が……バァァンッ! と大きな音を立てて、人形を吹き飛ばす。残ったのは人形の残骸と、呆然と立ち尽くすばかりの私。

 そして、そんな私を見下ろす美形すぎるお父様だった。


「……確かに私は『なるべく速く、思い切りぶつけろ』と言った。言いはしたが……








 ……初めての訓練で、ここまでやるか?」

「わ、わたちにも、何が何だか……わかりましぇん……」


 基礎練習でこんな火力を出せる幼女だったとか、規格外にも程があるでしょ……!?

 で、でもでも、これだけ威力のある攻撃が出来るなら、私ってかなり将来性があるんじゃなかろうか!



 その後は、お父様からもっと細かく魔力をコントロール出来るように練習するように言われた。

 今のままだと、攻撃魔法を覚えていくにしても、威力が強すぎて味方に被害が出る危険性があるからだ。

 これから私がどんな風に魔王軍で活躍していくにしろ、想定以上のパワーで被害が拡大したら大変だもんね。

 それに、過剰に魔力を消費すると体力を消耗するらしいから、その都度適切な威力で魔法が使えるようになる方が良いそうだ。最低限の消費で、魔力を節約しながら動けるようにならないと……!


 よーし! もっとしっかり魔力を扱えるように、頑張るぞー!!

広告下↓↓の☆☆☆☆☆のところから、 1〜5段階で評価出来ます。

このお話が面白かったら、ブックマークやいいね等でも応援よろしくお願い致します!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ツギクルバナー
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ