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プリンセス、爆誕。

『心臓が口から飛び出そう』っていうのは、こういう感覚なんですね……!


 突然魔王様から「お前は弟子であり、私の後継となるのだ!」と宣言されてしまった私は、そりゃもうビビり倒しました。

 私みたいな身元不明の幼女──中身はただの日本人なんですが──を王宮で雇ってくれるだけでなく、家族も居ない私の為に居場所を作ってくれようとしている……と、思うんだけどね?


 それにしたって、どうして私が魔王様の養女に?

 だってだって、魔王様の娘=次期魔王ってことになるんだよ!?


 確かに魔王様はまだ結婚してないみたいだから、跡継ぎが必要になるのは分かる……分かるんだけどもっ!


「さあ、ルカ様。こちらのワンピースの袖に腕をお通し下さい」

「あ、あい……」

「お背中の方、リボンで結ばせて頂きますね」

「あい……」


 冬祭りのこの日、私は魔王様の義理の娘となるのを発表される事になっている。

 なので私はメイドさん達にされるがままに、用意された別室で綺麗なお洋服に着替えさせられているのでした。


 元々着ていた白いワンピースも、上等な物だった。

 けれど、今回用意されたのは、黒と紫のグラデーションが綺麗で上品なデザインのワンピース。

 夜空に浮かぶ星空のように、光に反射してキラキラ光るビーズみたいな粒が散りばめられていて、布地がとっても滑らかで柔らかい。これ、めちゃくちゃお高いんだろうな……ひぇぇ〜。


 それから、髪の毛は既に結われている。いつもは下ろしていた金髪の髪は、今日はちょっと大人っぽく見えるポニーテールで、毛先をクルッとカールさせてもらった。

 スミレ色のリボンで結われたポニーテールが、私の淡い金髪と合っていて、ちょっとだけ心が弾む。


 だけど……だけどね。

 これが次期魔王の発表会の為じゃなく、単なるパーティーの為のおめかしだったら、どれだけ気が楽だったことか……!


 すると、外から扉をノックする音がして、


「ルカ様、魔王陛下がお見えになりました」


 と声が聞こえたので、私はほぼ反射的にそちらの方に目を向けた。

 そこには、いつもの黒いローブ姿より数段ゴージャスさが増した美の化身が立っていた。


 魔王様が羽織った黒を基調とした外套(がいとう)に、銀糸で細かな薔薇の刺繍が入れられている。

 ローブを着ていた時よりもスタイルの良さが際立っていて、魔王様の長すぎる脚に、私は思わず目が釘付けになっていた。


「ほう……悪くはないではないか」


 そう言って満足げに口角を上げた魔王様の顔は、今朝見たのと同じ悪役顔だった。

 けれどもそこで、私はある事実に気が付いたのだ。

 魔王様は普段、研究の邪魔になるからなのか、腰まで届くような長い黒髪を三つ編みにしている。

 しかし今日の彼はというと、その髪を顔の横から胸の方に垂らすように髪を結んでいた。


 それも私とお揃いの、スミレ色のリボンで。


 何というか、外堀をしっかり埋められている気がします……!

 お揃いのアイテムで、親子アピールですか。

 いやぁこの人、他人との距離感どうなってるんですかね!?

 顔が良すぎるだけに、謎の圧迫感があるんだよなぁ〜!


 というか、黒と紫のコーディネートっていうのも、何か意味があるのかな?

 平安時代だったか忘れたけど、日本だと紫って高貴な色だとか言われてた気がするし。

 そもそもこの国の名前……ヴィオレ魔導王国っていうのも、ヴァイオレットが由来だったりするのかな? だから王族は、紫を身に付ける風習があったりとか……なんて思ったり。


 いや、地球の言語が異世界とどこまで似通っているのかなんて分からないんですけども。

 もっと深く考えたら、どうして地球の日本で育った私に異世界人の会話が理解出来てるのかとか、全然意味が分からない。


 まあ、人生いつ何が起こるか分からないからね。そんな事もあるもんだよね、きっと。

 だってほら、こんな風にいきなり魔王様の娘になる事もあるんですし……へへっ……。もう、訳分からん……。




 ちょっと気が遠くなりかけながらも、お着替えを済ませてバッチリめかし込んだ私と魔王様。

 冬祭りの会場となるのは、王宮の食堂と大広間の二ヶ所になるらしい。

 着替え中にメイドさん達から教えてもらった話によると、食事やお酒を楽しみたい人は食堂で、会話やダンスを楽しみたい人は大広間で過ごすんだとか。


 私はふと、隣で私の手を引いて歩く魔王様の顔を見上げた。

 その視線に気付いたのか、魔王様がチラリとこちらを見下ろした。


「……どうした? この私に手を引かれて歩くのは、不満か?」

「いっ、いや、そういうのじゃないれしゅ……!」

「……そうか」


 ……言える訳がないじゃない。

 魔王様だと、皆で食事を楽しんだり、ダンスを踊ってるようなイメージが全然わかないなぁなんて、あまりにも失礼すぎる事を考えてました〜だなんて、言えるはずがないじゃない……!


 そんな事を考えていたら、とうとう開会宣言の場である大広間の前まで来てしまっていた。



 私達の到着を合図に、いよいよ大広間の大きな扉が開かれる。


 会場の中には、魔王様の登場を待っていた大勢の人達が集まっていた。

 その顔触れの中には、勿論エディさんやリーシュさん達といった見知ったメンバーも居る。

 けれども、私が魔王様と手を繋いでやって来たのを見て、ムウゼさんが大きく目を見開いて、ナザンタさんはむせて咳き込んでいるようだった。


 そりゃあ、誰だって驚きますとも。

 私だって未だに実感無いんだから、突然ですよね……!


 パーティー衣装に身を包んだ人々の間を抜け、魔王様は私と共に大広間の奥に設置された壇上に上がった。


「……皆の者、よく聞くが良い。我が(げん)を!」


 一体何事かとざわつく会場に、魔王様の恐ろしくも美しい声が、稲妻のように喧騒を裂く。

 時が凍ったかのように、一瞬でこの場に静寂が訪れた。

 今この空間において、彼以外に声を発する者は誰も居ない。

 私も含めて、誰もがこの偉大なる存在の言葉に、耳を傾けていた。


「この冬祭りの場にて、我が国の未来に等しい存在を、皆に改めて紹介する。この娘……ルカは、本日よりこの私、ヴェルカズの娘として、次期魔王となるべく教育していく事となった!」


 魔王様の宣言に、会場の全員の視線が私に向けられているのを、ひしひしと感じる。

 ど、どんな顔をして立っていれば良いんだろう……!?

 わ、私、緊張しすぎて変な顔してないかな? 全校集会で表彰された時より、何倍も心臓がバックバクするんですけど!!


 そんな私の声無き悲鳴にも気付かぬまま、魔王様は更に言葉を続けていく。


「これより我が娘ルカの言葉は、私やエディオンの発言と同義と心得よ! この件は、国内には追って触れを出す。……それではこれより、冬祭りの開会を宣言する!」


 ……え、ちょっと待って下さい。

 私の発言が、魔王様とその軍師のエディさんと同レベルに重いんですか!?


 う、迂闊な事を言ったらとんでもない事件に発展したりしませんか!?

 あの、幼女にどれだけ強い権限を持たせるおつもりなんですか、魔王様……いえ、お父様〜〜〜っ!?

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