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何がどうしてそうなるの?

 私達が出掛けていたのはほんの数日だというのに、王宮に帰って来た途端、胸に押し寄せるような安心感があった。

 ゼルムの町跡では、何か得体の知れないものに襲われかけちゃったけど……頼まれていた薬草を、無事に持ち帰る事が出来た。


 魔馬車が着地したのは、王宮の正門前。

 大きな黒い扉の前で、私達三人の帰還を待っていた王宮の面々が出迎えてくれる。


「待ってたぜ、ルカ!」


 まずは、人狼と悪魔のハーフで、魔王様の右腕のエディさん。


「お帰りなさい、ルカ」


 次に、私の上司で、美人なお姉さんのリーシュさん。

 二人の後ろには、近衛騎士団の人達がずらりと並んで礼をしていた。

 騎士さん達の方は、ムウゼさんとナザンタさんのお出迎えが主なんだろうね。

 でも、騎士さん達も私に笑顔を向けてくれている。やっぱり良い人達ばっかりだね、王宮の人達って!


「皆しゃん、ただいまれしゅ!」

「予定通りに帰還出来たな。ではナザンタ、私は魔馬車を戻してくる」

「はいはーい。じゃ、ルカちゃんは先に王宮に戻ろうね〜」

「あーい!」


 そうして私はナザンタさんに手を引かれて、皆と一緒に扉を潜って王宮に入ろうとした、その時だった。

 私の足元から、「キュウンッ!」と元気な鳴き声がした。シィダの声だ。


「黒い……仔犬、かしら?」

「コイツは……おいおい、どうしてルカが黒妖犬なんて連れ歩いてんだ!?」


 身体が小さいから、皆シィダの事に気付いてなかったのかな……?

 リーシュさんは分からなかったみたいだけど、エディさんはシィダを一目見ただけで、この子の正体を見破った。

 エディさんも人狼だから、そういう動物系の生き物に詳しいのかな? それとも、よく色んな場所に出掛けてるから、同じ黒妖犬に会ったことがあったりしたのかも。


 すると、あの人見知りですぐに私以外の相手に威嚇するシィダが、何故かエディさんの周りをぐるぐる駆け回る。


「キュッ、キュウ! キュキュ!」

「はぁ? な、何だよちびっ子! えぇ……? いやまあ、確かに俺様は強いし、ルカとも仲良いけどよぉ……」


 急に飛び出してきたシィダに、どうしたものかと頬を掻いて困っているエディさん。

 ……なんだけど。


「……もしかちてエディしゃん、シィダの言ってることが分かるんでしゅか?」

「ま、まあな? 犬系の魔物とか、理性のあるヤツ相手なら、話してる内容は伝わるぜ」


 人狼ってすごーい!

 私でも何となくしかシィダの考えてる事は分からないのに、エディさんならシィダが何を喋ってるのか、全部分かっちゃうんだ!


「ところで軍師さん、そのワンちゃんは何て言ってたの? あたし達にも分かるように教えてほしいのだけれど……」


 リーシュさんの言葉に、エディさんが「よっこらしょ」と掛け声を出しながら、快く話してくれた。


「あー……コイツ、シィダってんだっけ? 何かコイツがな、『強い狼、ご主人の仲間なの? シィダ、強い狼と一緒に、ご主人守る!』とか言ってて……」

「ああ、それでいきなり『俺様は強い』とか言ってた訳ね」


 と、納得したように頷くリーシュさん。


「ちゅよい狼……って、エディしゃんのことでしゅよね? エディしゃんがシィダとすぐ仲良くなれたのも、そのお陰なのかも……?」

「エディオン様は、人狼族としても高位な方だからね〜。そういうのも、シィダくんは敏感に察知出来るんだと思うよ」


 ナザンタさんも言っていたように、シィダは自分と相手の力量を理解出来る子なんだろう。

 と言うことは、やっぱりエディさんって魔王様のお友達なだけあって、軍の中でも最上位に近い実力者……なんだよね。


「……あ! そういえばわたち、エディしゃんに相談ちたいことがあったんでしゅ!」

「お、何だなんだ? 俺様に叶えられない願いなんて、ほとんど無いぜ。何でも言ってみな、ルカ!」


 腕に抱えたシィダに頬をペロペロ舐められているエディさんに、私は初任務で思っていた願望を、彼に打ち明ける事にした。


「えっとでしゅね……エディしゃん! わたち、魔法のおべんきょーがしたいれしゅ!!」




 *




 私とムウゼさんとナザンタさんが王宮に戻ったこの日は、ちょうど冬祭りが催される当日だったらしい。

 王宮の人達は、数日前からお祭りの準備に追われていたという。

 今日も朝からあちこちで忙しなく働くメイドさんや、高い場所に煌びやかな飾り付けをしている騎士さんが、至る所で見受けられた。


 けれども今、私が居るこの部屋は……とてつもなく静かだ。

 その理由はというと……。


「…………あ、あにょ……」

「……何だ」

「はうぅ〜……」


 私の目の前には、超絶美形の黒髪ロングヘアーの男性──この王宮の主にして、ヴィオレ魔導王国を治める魔王様がいらっしゃるのである。


 ……実はエディさんに魔法を習おうとしたのだけれど、エディさんが『いやぁ、俺は感覚で魔法使ってるから、教えるのは苦手なんだよなぁ。俺よりヴェルカズの方が適任だと思うぜ!』なんて言って、私を魔王様の研究室まで連れて行ってくれたんだよね。


 魔法を教えてもらえるのは、とてもありがたい。

 だけど……だけどさ、魔王様とはあんまり話した事がないから、この重い空気が辛過ぎるんですよぉ〜!



 魔王様は私が王宮で暮らすのを認めてくれて、将来的にこの国の役に立つのなら……という条件で、私を植物園管理人補佐に任命してくれた恩人の一人だ。

 エディさんともかなり前から一緒に居るみたいだし、ムウゼさんやナザンタさんにも慕われている魔王様。

 王宮の他の人達だって、魔王様のことを悪く言うような噂話なんて聞いた覚えがない。


 現代日本人からしたら、魔王だなんて怖い称号でしかないけれど……。

 ……眉間に深〜いシワが寄っていて、いつも機嫌が悪そうに見える魔王様だけど。




 私はこの人のことを、悪者だとは思えないんだ。




「……あの、でしゅね」


 私は一度気合いを入れ直して、魔王様の顔を見上げた。

 そして、前もってポーチに入れておいた布袋を、両手で持って差し出す。


「ま、魔王しゃまに頼まれていた薬草、お届けにきまちた……!」


 すると、魔王様は私の手元に視線を落として、


「……ご苦労」


 とだけ言って、薬草の入った袋を受け取った。

 そのまま彼は中身を確認し、次に私に目を向ける。


「ふむ……パーポポの根には、傷が付いている様子は見られぬな。丁寧に採取したものなのであろう。……これを採ったのは?」

「わ、わたちでしゅ」

「フッ……その(よわい)でありながら、上々の仕事振りよ。初仕事ではあったが、私の期待通りの結果を出した事を高く評価しようではないか」

「あ、ありがとうごじゃいましゅ!」


 ま、魔王様が……若干笑ってる!

 整ってるけどめちゃくちゃ冷酷そうな物凄い悪役ヅラだけど、間違い無く笑っていらっしゃる!!

 私、褒めてもらえたんだ! やったぁぁ〜!


 内心で歓喜に打ち震えていると、今度は魔王様の方からこんな事を言い出した。


「……ところでルカよ、用件はこれだけではあるまい。エディオンがわざわざ私の研究室まで連れて来たのだから、何か私にしか頼めぬような何かがあるのではないのか?」

「あっ……その事なんでしゅけど……」


 流石は魔王様というべきか、そんな事までお見通しなんですね。

 褒めてもらえたばかりで、緊張が和らいだせいかな。今なら、お願いしても大丈夫そうな気がする!


「エディしゃんから、魔法をおちえてもらうなら、魔王しゃまの方が良いって言われたんでしゅ。だから、その……出来れば、魔王しゃまに魔法のせんせーになってほしいんでしゅ」

「この私が、魔法の先生……だと?」

「ああっ! 魔王しゃまが大変なお仕事をちてるのは、分かってるちゅもりでしゅ! わたちなんかの為に、魔王しゃまがわざわざ時間を割くだなんて──」

「フッ……フハハハハハッ!」


 無茶なお願いだから怒られるかと思って焦っていたら、いきなり魔王様が笑い出してしまった。

 魔王の名に恥じぬ、これまた迫力のある笑い方で。


「……良いだろう、面白いではないか! この私を師として仰ぎたい、と。それはとても都合の良い話ではないか!」

「…………?」


 都合が良いって、何が……?

 彼の話に全くついていけずにポカンとしていると、魔王様が何かを企んでいるような極悪顔で続けて言う。


「私もルカがゼルムから帰還次第、ここへ呼び付けようと考えておったのだ。……よく聞けよ、ルカ」

「あ、あい!」

「貴様は本日より、私の弟子として……そして、我が後継として教育していく事とする。良いな? まあ、拒否権は無いのだが」

「あい! ……ん? こーけー?」


 こうけい?

 こうけい……えっと、後継者とかの後継のこと?

 誰が? ……え、私が?


 ……ま、魔王様の後継者!?

 何で!? 弟子入りはともかくとして、どうして私が魔王様の後継者になるって話になんです!?


「今晩、冬祭りの開催宣言と共に、皆に公表するつもりだ。ルカ……貴様は今日から我が軍の一員であると同時に、私の後継者──養女となるのだ!」


 わ、私……魔王様の娘になるんですかぁ〜〜!?

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