うちの子が可愛すぎて困ります
顔を洗ってスッキリした後は、シィダも連れて朝ご飯を食べにお店探しが始まった。
どうやら私達が今日泊まったこの町は、旅の中継地点であるらしい。
宿も多い事から、旅行者向けの食事処があちこちにある。
けれどもシィダは、私以外の人にはすぐ威嚇し始めてしまう。なので、他のお客さんと離れた場所に座れるテラス席のあるお店を選んだ。
朝食が済んだら、予定通り再び魔馬車に乗り込んだ。
今回も、御者をするのはムウゼさん。シィダは私の膝の上に顎を乗せながら、落ち着いた様子で大人しくしてくれている。
……実は、てっきりシィダは魔馬を怖がるかと思っていたものだから、そんな事は無くて一安心していたりする。
だってシィダは何かに襲われて怪我をしていたみたいだったから、自分よりも何倍も身体の大きい魔馬を警戒するんじゃないかと予想していたんだよね。
それに、一晩同じ部屋で過ごしたからなのか、昨日よりはムウゼさんとナザンタさんに威嚇しなくなっていた。
少しは安心してくれた……って事なのかな?
私は穏やかな表情で私に寄り添うシィダの頭を、優しく撫でた。
すると、向かいに座っていたナザンタさんが口を開く。
「ゼルムに着くまでまだかかるだろうし、せっかくだからルカちゃんにバーゲスト──黒妖犬について、ボクの知ってる事を話しておきたいな」
「シィダのことでしゅか?」
「うん。救命行為だったとはいえ、キミはその子のご主人様になった訳だし……ね」
そうしてナザンタさんは、シィダの種族について話し始めてくれた。
「昨日も少し兄さんが話してくれてたけど、本来黒妖犬っていうのは、天界から追い出された犬型妖精の一種なんだ」
「確か……聖域? っていうところで暮らしている妖精しゃんなんでしゅよね?」
「普段は聖域で生活していて、主人である天使に従っているものなんだよね」
チラリ……と、彼がシィダに目を向ける。
「……でも、命令違反をしたりすると、聖域からも天界からも追放される。それを天使達は『魔界堕ち』って呼んでて、聖域から取り入れる魔力が枯渇していくと、白かった毛並みが黒くなっていく」
「それがシィダ……黒妖犬なんでしゅね」
「うん……天使達は侮蔑の意味を込めて、黒妖犬をバーゲストって呼ぶんだ。あっ、侮蔑なんて難しい言葉だったよね!? えっと……侮蔑っていうのは、その、相手を嫌いに思ってるってこと……かな?」
幼女の私に難しい話をしてしまったと思っているんだろうけど、安心して下さい。
中身は二十代なので、めちゃくちゃ理解出来てます……!
でもでも、そうやってちゃんと配慮してくれてる優しさに感謝ですっ!
「そっ、それでね? 黒妖犬って元々天界の強力な妖精だった存在だから、契約してくれる主人さえいれば、魔界でもとっても頼もしい使い魔になれるんだよ!」
「シィダ、そんなにしゅごい子なんでしゅね!」
「キュウッ!」
と、自慢げに一声鳴くシィダ。
キュートな顔をしているシィダだけど、私には分かるよ。
今のシィダ、めちゃくちゃドヤ顔してる……!
ふふーんっ! 凄いでしょ〜? って言いたげな顔してるんだよ!!
ああっ……!
私の使い魔ちゃん、可愛すぎか……!? 尊みレボリューションなんですが??
元々ワンコは好きな方だけど、生身のワンコってこんなに可愛いもんでしたっけ……?
ヤバい。私、この子を置いて日本に帰れないです……。
自分が帰る手段だけじゃなくて、シィダを連れて行く方法も探さなくちゃいけなくなっちゃったじゃないですかぁ!
「んん〜〜っ! シィダ、きゃわいい〜〜〜!!」
もう思いっきり声に出しながら、私はドヤ顔シィダをわっしゃわっしゃと撫でくり回す。
シィダも撫でられるのが嬉しいみたいで、私もそんなシィダと戯れる事が出来て大満足。win-winにも程があるってもんですわ、ええ。
……あ、ナザンタさんに苦笑いされてる!
「しゅ、しゅみません……話を戻ちましょう!」
「ふふふっ、良いんだよルカちゃん。そんなにシィダくんが懐いてくれてるんだもん。その子が可愛く思えるのは、当然の事だよ」
ひとまず私が我に帰ったところで、ふと疑問に思った内容をナザンタさんにぶつけてみる。
「そういえばなんでしゅけど……さっき黒妖犬は強いって言ってまちたけど、どれぐらい強いんでしゅか?」
「うーんと……まだシィダくんは幼体だけど、契約者が居るからその辺の魔物には大体勝てるんじゃないかなぁ。例えば、魔馬なら一対一で勝てちゃうと思うな」
「ま、魔馬を倒せちゃうんでしゅか!? こんなに早く走れるお馬しゃんを!?」
予想外の高評価に、私は思わず身を乗り出しそうになってしまう。
危ない、危ない。膝の上のシィダを落っことしちゃうところだむたわ……。
「単純なパワー勝負だと、魔馬の方が有利だろうね。シィダくんは身体が小さくて小回りが効くし、ルカちゃんからの魔力供給があれば魔法も使えるだろうからねぇ〜」
「魔法……でしゅか」
植物園の水晶花で判明した、私の魔力属性──光の魔力。
それを受け取っているシィダであれば、私の魔力を使って戦えるって事だよね。
うーん……。
私はまだ全然魔法の使い方が分からないけど、やっぱりこういう世界だと、魔法で戦えるのは便利だよね。
剣や弓なんかと違って手ぶらでいつでも使えるし、しっかり練習さえすれば、幼女の私でも自分の身を守るぐらいは出来るようになれる……よね?
……王宮に帰ったら、簡単な魔法の基礎とか習ってみようかな。
魔法……誰が得意なんだろう?
ムウゼさんとナザンタさんは騎士さんだから、多分剣術とか槍術が得意なんだよね。
エディさんならどうかな? よし、今度会ったら相談してみようっと。
それからしばらくナザンタさんと色々な話をしていると、魔馬車が着地するのが分かった。
「ルカ、ナザンタ。目的地に到着したぞ」