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天使すぎる転生幼女は魔族を平和に導きたい!  作者: 由岐
第4章 小さないのち
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もう一人の『私』

 これは、夢の中……なのだろうか?


 見渡す限り、真っ白な場所。


 ……よく観察してみると、そこは壁も床も真っ白な、何もない部屋の中であるらしい。


『ほんとに……何も、ない……』


 ぐるりと部屋を見回して私が見付けられたのは、ドア一枚だけ。

 家具らしい家具は何も無く、壁には窓すらも無い。


『……何なの、この部屋』


 それに、この感覚には覚えがある。

 これが【夢の中】だと意識した状態でいる、この感覚──ムウゼさんとナザンタさんの少年時代の夢を見た、あの時と同じだった。


『それじゃあ……これも誰かの身に起きた、過去の出来事なの?』


 そう思っていると、目の前のドアが外から開かれた。


『あっ……!』


 そこから現れたのは、金髪の美しい女性。


 ……私、どうして今まで忘れていたんだろう。あの女の人は、この前夢の中で見た女の人じゃない!


 どこか寂しそうで、辛そうな思いを押し隠したような……そんな人。

 背中に大きくて真っ白な翼が生えたその女性は、幼女に転生した私とよく似た、古風なデザインの白いワンピースを着ている。


 彼女は私の姿を見付けると、チラリと背後を気にしてから、そっとドアを閉めた。


「……おはよう。外は今日もよく晴れているわ。体調はどうかしら?」


 貴女は誰なの?


 そう問おうとした私の口は、心で思っているのとは全く違う動きをする。


「……べちゅに、フチュー……」

「普通……ね。元気だと解釈しておくわ」


 あれ……?

 喉から出ているのは私の声だけど、私が喋りたい内容とは全然違う。どうして……!?


 それじゃあ、身体は動かせる……のかな?


 けれども、一歩前に踏み出そうとした私の足は、うっすらと透けていた。まるで、幽霊のように……。


『えっ……!?』


 驚いて振り向くと、そこにはやけに可愛らしい顔をした金髪の幼女が、ボーッとした表情で立っている。


『わ、わたちが……もう一人……!』


 ……いや、正確には違うのか。

 これは多分、私の身体の持ち主が過去に体験した記憶だ。


 私……【藤沢流歌(ふじさわるか)】としての意識を持つ自分は、幽霊みたいに透けた姿で。

 そして、この身体の持ち主である女の子──【もう一人のルカ】は、部屋の中央から一歩も動かずに立っていたのだ。


 どうしてこんな事が起きているのか、全く理解が追い付かない。

 だけどもこれは、ルカという女の子の謎を突き止めるチャンスでもある。


 私がこの子の肉体に宿ってから、この子自身の意識はどうなっているのか。

 何故彼女は、たった一人で紫の森に放置されてしまっていたのか。

 そして、この子の両親はどこに居るのかを知りたい。


 ……私に子供は居ないけれど、こんなに小さな娘が行方不明になって平気でいられる親なんて、そうそう居ないはずだもの。

 せめて、王宮で無事に暮らしている事ぐらいは伝えられたら……と、思ったから。


「……ルカ。今日は貴女に、大切なお話があります」

「おはなち……?」


 そんな風に考え事をしていると、綺麗な女性が【ルカ】の前に両膝を付いて、しっかりと目線を合わせて言う。


「これから私が話す事は、誰にも言ってはなりません。……【あのお方】にも、です」


 そうだ……【あのお方】。

 前に見た夢の時にも、彼女が口に出していた人物だったはずだ。

 それが誰なのか、分からない。

 しかし、彼女の震える指先を見るに、【あのお方】とやらに知られては不味い話をしようとしているのは確実だった。


「もう少ししたら、貴女はここから離れなければなりません。……いいえ、逃げるというのが正しいわ」

「にげりゅ……?」

「ええ。私が、その機会を作ります」


 例え、この命と引き換えにしても──と、彼女は続ける。



 この女性は、自身の死を選んででも【ルカ】をここから逃がそうとしているのだ。

 ……そうしなければいけない()()が、この場所にはあるのだろう。

 その()()に【あのお方】が関係していて、それを知られないよう、彼女は内密に行動しようとしている。

 それが成功したから、私は紫の森でエディさんに見付けてもらえたんだね。


『……あれ? 待ってよ……それじゃあこの人は今、どこでどうしてりゅの……!?』


 目の前で【ルカ】を抱き締めている彼女の頬を伝う涙を見ながら、私は背筋が凍るのを感じた。




 *




「……キュ、キュウ!」

「んぅぅ……?」


 甲高い鳴き声で、私の意識が浮上していく。

 と同時に、生温かいものが私の顔をしっとりと濡らすのが分かった。


「なっ、舐めにゃいで〜!」

「キュッキュウ!」


 どうやら私より先に目を覚ましていたらしい黒妖犬のシィダが、私の顔をペロペロと舐め回して、早く起こそうとしていたらしい。


「あっ、おはようルカちゃん! そろそろ朝食を食べに行こうと思ってたから、ボクが起こそうと思ってたんだけど……」

「んむむっ……シィダが、起こちてくれまちたね……!」


 シィダに舐め回された顔を手の甲で拭っていると、それを見たナザンタさんがクスクスと笑っていた。


「兄さんは顔を洗いに行ってるから、ルカちゃんも行っておいで! 戻ったら朝食を摂って、それからすぐに魔馬車でゼルムに出発するからね」

「あーい! シィダも一緒にきましゅ?」

「キュウ!」


 昨日シィダを洗った水場に行けば、顔を洗えるかな? 多分、ムウゼさんもそこに居るんだろうね。

 私がベッドから降りると、シィダもピョンッと軽々飛び降りて、私の後ろをついて来る。


 ……うーん。何だか私、大事な事を忘れてるような気がする。


 でも思い出せないって事は、そこまで大した内容じゃなかったのかなぁ?

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