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天使すぎる転生幼女は魔族を平和に導きたい!  作者: 由岐
第4章 小さないのち
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はじめての外出任務

 私はエディさんからの命令で、魔王のヴェルカズ様から依頼されたある薬草を採取に向かうことになった。


 その行き先というのが、何とムウゼさんとナザンタさん兄弟の故郷──ゼルムという町の、跡地だったのだ。


「まさか、今年はルカちゃんも一緒に行くことになるなんてね〜。あ、小腹が空いたらおやつがあるから、いつでも言ってね?」

「あーい!」

「全く……ピクニック気分か、お前達は」


 溜息を吐くムウゼさんは、馬車の手綱を握っている。



 エディさん達との夕食から数日後、私は彼ら兄弟と一緒に馬車に揺られていた。

 二人は休暇を取って、故郷へのお墓参りに。私は植物園管理人補佐として、依頼された薬草を採りにゼルム町跡へ行く最中なのだ。


 ……ムウゼさん達の故郷と聞いて、私は嫌でもあの日見た白昼夢が脳裏にフラッシュバックした。

 燃え盛る町の中で、泣き叫ぶ少年時代のナザンタさん。

 そして、彼を引き留めるムウゼさん。


 あれが単なる夢なら良かったと思っていたけれど……町の跡地ということは、あの光景は実際に起きた出来事だったのだろう。

 この件に関しては、結構デリケートな話題だし、私からはあんまり触れないようにしないとだよね……。


 兄弟二人は毎年こうやって休暇を取って、お墓参りに行くのが恒例らしい。そのついでに、魔王様からゼルムの町近くでしか採れない薬草を持ち帰るように言われていたんだとか。

 今年は植物園の新人として私が入ったから、そのお役目が私に回ってきたみたいだね。

 エディさん的には、ずっと王宮から出られないのも窮屈だろうからという気遣いもある。こんな風に遠出することが出来るのも、エディさんのお陰だなぁ。




 ゼルム町跡までは、馬車で二日程度で到着するらしい。

 まあ、馬車とは言っても普通の馬車じゃないんだけどね?

 魔界の馬は地球で見るような馬とは違って、目が赤くて黒い毛並みをしている。そのうえ体格も立派で、スタミナもスピードも尋常じゃないのだ。


 しかも、だ。馬の背中には、何と大きな翼が生えているのです……!

 正確には馬じゃなくて、魔馬(まば)と呼ばれる生き物らしい。つまり、私達が乗っているのは空飛ぶ馬車。椅子の付いた箱型の車体を、黒い魔馬が引っ張って飛ぶ乗り物──魔馬車なのだ。


 ゼルム町跡は、ヴィオレ魔導王国の最南端にあるという。

 王国は西側が海に面していて、それ以外は隣国と接しているんだとか。

 町跡付近には国境があるらしく、目当ての薬草もその辺りに生えているらしい。

 私は魔馬車の前方についた小窓越しに、御者を務めるムウゼさんに訊ねた。


「ムウゼしゃん、今はどの辺りを飛んでるんしゅか?」

「王宮から南下し続けて……そろそろ、途中の村を通り過ぎる頃だな。二つ山を越えた先で、今夜の宿となる町に降りるぞ」

「朝になったらまた魔馬車に乗って、昼過ぎぐらいにはムウゼに着く頃かな?」


 言いながら、ナザンタさんが小袋からクッキーを取り出した。それをポリッと齧りながら、私にもどうぞと差し出して来る。


「いただきましゅ!」

「お食べ、お食べ〜」

「……二人共。菓子の食い過ぎで、後で食事が入らなくなるようなことがないようにな」

「「はーい!」」


 ナザンタさんと声を揃えて返事をしてから、私は貰ったクッキーを口に運んだ。

 魔馬車での移動はなかなか長くなりそうだけれど、美味しいものがあれば楽しく過ごせそうだね!




 *




 魔馬車での空の旅は、ほとんどお昼寝で終わってしまった。

 ナザンタさんとおやつを食べたり、たまにムウゼさんを交えてお喋りしたりもしたんだけど……基本的には座っているだけになる。だからしばらくすると、どうしても暇な時間が出来ちゃうんだよね。


 でも、かなり馬車の中で寝ちゃったなぁ……。夜、ちゃんと眠れるか不安になるレベルで惰眠を貪ってしまったよ……!

 空飛ぶ馬車なものだから、変にガタガタ揺れたりしなくて、意外と快適に寝られたんだよねぇ。


「おはよう……いや、おそようかな? もう町に着いたから、魔馬車を降りて宿に向かうよ」

「あい……今、いきましゅ〜」


 先に馬車から降りたナザンタさんが、私を抱っこして地面に降ろしてくれた。

 到着したのは、途中の町にある宿の一角だった。ムウゼさんはそこに魔馬車を預けると、三人で泊まれる部屋を取った。



 部屋は王宮ほどじゃないけど、中はそれなりに広くて、清潔なベッドが用意してあった。

 ただ……置かれていたベッドは、二つしかない。

 となると……私はナザンタさんとムウゼさん、どちらかと一緒に同じベッドで寝ることになるんだよね?


「……ねえ、兄さん」

「……何だ、ナザンタ」


 私を挟んで、ベッドの前で睨み合う二人。部屋の中には、ピリピリとした空気が流れている。


「ルカちゃんと同じベッドを使うの……ボクで良いよね?」

「ハッ……何を言うかと思えば、そのようなふざけたことを」


 これを一触即発と言わずに、何と呼ぶのだろうか……!

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