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天使すぎる転生幼女は魔族を平和に導きたい!  作者: 由岐
第3章 いざ、お仕事スタート!
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垣間見たもの

 ナザンタさんが落ち着いてから、私はリーシュさんと植物園の仕事に戻った。

 そのまま夕方まで、色々な植物のお世話の仕方や、簡単な見分け方なんかを教わった。


 ……途中で少し眠くなっちゃったから、お昼寝休憩も貰ったりしたけどね! やる気はあっても、残念ながや体力は幼児レベルだからなぁ。

 流石に今日一日だけでは覚えきれないことだらけだったけれど、これから少しずつ出来ることを増やしていこうと、私は心に誓う。



 それから実は、王宮内には私のお部屋を用意してもらっていたりするのよね。

 その場所というのが、魔界に来た最初の日にエディさんが私を寝かせていた、あの部屋だったのだ。


 部屋は、王宮三階の突き当たり。ベッドとテーブルと椅子の他に、クローゼットも置かれている。バルコニーから外に出ることも出来るのだけれど、危ないから一人で出ないように言い付けられている。

 仕事が終わってから夕食の時間までは、この部屋で待つようにしているんだよね。


 こうしてしばらく窓から外の景色を眺めていたり、ベッドでゴロゴロしていると……。


「お待たせ、ルカちゃん!」


 コンコン、とドアをノックする音がしてから、ナザンタさんが私の部屋にやって来る。

 部屋に戻る時は、リーシュさんが付き添ってくれる。そして、夕食の為に食堂に向かわなくてはいけない時は、私の世話役であるナザンタさんかムウゼさん。それか、エディさんが迎えに来てくれる約束になっているのだ。

 だって、階段の登り降りが大変だからね……。この短い手足が、早いところスラリと伸びてくれることを願うばかりだよ。


 私は「うんしょ!」という掛け声と共に、ベッドからもそもそと降りる。


「お仕事おちゅかれさまでしゅ、ナジャンタしゃん!」


 トテトテッとナザンタさんの側まで駆け寄ると、彼が私の目線に合わせてしゃがんでくれた。そうしてニッコリと、けれども申し訳無さそうな笑みを浮かべて言う。


「ルカちゃんも、初仕事お疲れ様。それと……お昼のパネトーネのこと、本当にごめんね」

「そのことはもう、気にしないでくだしゃい!」

「……ありがとう、ルカちゃん。キミって、本当に優しい子だね」


 そう言って、籠手越しに私が痛くないようにと気遣いながら、ゆっくりと頭を撫でてくれるナザンタさん。


「しょんなこと……ないれすよ?」

「いいや、優しいよ。……優しすぎて、困っちゃうくらい」


 僅かに声を震わせながら、彼は眉を八の字にして、私にそう告げた。


 大食堂で彼がパネトーネを試食させてくれた時、彼は大の大人がそう簡単に見せるはずのない泣き顔を見せていた。

 あの恐ろしいぐらい顔が整っていて、魔界統一の為に軍や騎士を揃えている魔王様に仕えているはずの、近衛騎士であるナザンタさん。


 そんな彼が、他にも多くの人が居る場所であんな風に泣くだなんて……あの時、何かが彼の中で引き金となって、心の奥底にあった感情が爆発したとしか考えられない。

 お菓子を食べるのも、作るのも大好きだという彼。

 きっと私の知らない昔に、ナザンタさんのトラウマになるような出来事があったのだろう。


「…………」


 私のような見知らぬ子供にも、リーシュさんや魔王様にだって、明るく元気な笑顔を振り撒くナザンタさん。


 ──私よりもずっと優しい心を持っているであろう彼の負担を、少しでも和らげることは出来ないのかな……?


 そう思った、次の瞬間だった。




 *




「……だ…………嫌だよ、兄さん!」

『えっ……!?』


 気が付いたら、私は見知らぬ場所に立っていた。


 燃え盛る炎。


 焼ける家。


 泣き叫ぶ少年と、家の中に引き返そうとする彼を必死に引き止める、もう一人の少年。


「やめろ! 今から戻っても、お前まで戻れなくなるぞ!」

「それでもいいッ! だって兄さん! まだ……まだ家の中には、父さんと母さんが居るのに……!!」


 会話の流れから、私はあの二人の少年が兄弟であると察した。

 そう感じた理由は……もう一つある。


『あの二人、金ぱちゅだ……ムウゼしゃんと、ナジャンタしゃんと同じ……髪の色……』


 私が知っているムウゼさんとナザンタさんは、二十代ぐらいの外見をした大人だ。

 けれども、この燃え盛る町の中に居る二人の少年は、近衛騎士の彼らによく似た外見をしている。

 幼女になった私よりも暗い色をした金髪に、緑色の目──その特徴は、ムウゼさん達兄弟と同じだったのだ。


「止めないで、ムウゼ兄さん! このまま父さんと母さんが焼け死ぬのを待つだなんて、ボクには耐えられないッ……!!」

「……ダメだ! あの炎は、ただの炎じゃない。誰かがこの町を襲って、魔法で発生させた魔力の炎だ! 俺やナザンタだけでは、父さん達を助け出す前に死んでしまう……!」


 ああ……これは、もしかして……。


『ムウゼしゃんとナジャンタしゃんの……過去の記憶……?』


 呆然と立ち尽くすしかない私の目の前で、少年時代のナザンタさんがボロボロと涙を零しながら叫ぶ。


「やってみなくちゃ分からないでしょ!? お願い兄さん、離して……離してよぉぉぉ!!」

「無理だ……お前まで失うわけにはいかない……! 分かってくれ、ナザンタ……!!」


 ……素人目から見ても、火の手の速さが異常だった。ナザンタさん達の住んでいたであろう家は、既に屋根が焼け落ちて崩れている。


 今から行っても、彼らの両親はもう──




 *




「…………ん、ねえ……ルカちゃん、どうしたの?」

「……ふぇ?」


 深い水の底に潜った後、急に水面から顔を出したような感覚で意識が浮上する。


 きょろきょろと辺りを見回すと、ここは王宮……私の部屋に戻って来たようだった。


「ナジャンタ……しゃん……」

「急にボーッとしたかと思ったら、返事もしなくて……心配したよ!」

「ご、ごめんなしゃい! わたち……ずっとこの部屋にいまちたよね?」

「え? ……う、うん。ボクとルカちゃんは、ずっとキミの部屋に居るけど……それがどうかしたの?」

「それならいいんでしゅ!」


 どうやら私は、さっきからこの部屋に居て、ナザンタさんの目の前でいきなりボーッとして、返事もせずに立っていた……らしい。

 ナザンタさんの話を疑う理由も無いので、彼の言うことは間違いないはずだ。


 だけど……私が今まで見ていたあの光景は、何だったんだろう?

 どこもかしこも炎で埋め尽くされた町の中で、子供の頃のムウゼさんとナザンタさんが居た。あれは一体、どういう事なの……?


 ……もしも、あれが実際に過去に起きたものだったとしたら。

 ナザンタさん達は、あの大火災を生き延びたってこと……だよね?


 でも……それを彼に直接聞く勇気が出ない。あれが事実だったとするなら、尚更だ。

 ナザンタさんの古傷を(えぐ)るような残酷なこと、私には出来ないよ……。


「……ナジャンタしゃん、そろそりょ食堂にいきましぇんか? ムウゼしゃんとエディしゃんと、リーシュおねーしゃんとも一緒に食べたいれしゅ!」

「そうだね。皆で楽しく食べようか!」


 私が見たのは、単なる白昼夢のようなものだったのかもしれない。

 仕事でとっても疲れたせいで、立ったまま眠ってしまった可能性だってあるからね。


 ……今はまだ、そういうことにしておきたい。

 あんな悲惨な出来事が現実にあったことだなんて、思いたくないから。

今回はシリアス回ですが、今後癒し回もあるのでお楽しみに!



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