今日も今日とて、魔界のごはんが美味しいです
植物園でのお仕事に没頭していたら、少し遅めの昼食になってしまっていた。
私の職場となった植物園を出て、中庭から王宮の中央部に向かう。
一階には、初日にお邪魔した近衛騎士団の訓練場がある。そことは反対側の方に、王宮で働く人達の為の大食堂があるのだ。
私とリーシュさんが食堂に着いた頃には、大半の人達が食事を終えて去った後のようだった。三つ並んだ大きな長テーブルは、ほとんどが空席だ。
ここでは騎士さん達も食事をするので、時間が合えばムウゼさんやナザンタさん、エディさんと相席する事もあるんだよね。
「うーん……。今日はムウゼしゃんとナジャンタしゃん、いないみたいれしゅね……」
ざっと見回したところ、エディさんの姿も見えなかった。
知っている顔が少ないのは、ちょっと寂しい。でも、今日はあの三人と朝食を一緒に食べているから、あんまりワガママなことは言っちゃダメだよね。
元々、ムウゼさんとナザンタさんは近衛騎士の偉い人だ。そんな二人が私の世話役を任されている事自体、普段から忙しいであろう彼らに負担を掛けているはずだもの。
彼らが騎士の仕事や訓練に参加出来るのは、主に私が植物園で働いている日中。その間は、上司であるリーシュさんが一緒に居てくれるからだ。
それに、エディさんだってこの国のとっても偉い人みたいだし。私なんかの相手をしてもらえている時点で、きっととても贅沢なことだと思うのだ。
……そうそう。偉い人といえば、もう一人。
「……あの、リーシュおねーしゃん。魔王しゃまって、ここには来ないんれしゅか?」
初日の朝を抜きにして、私はこの三日間、朝昼晩とこの大食堂で食事をさせてもらっている。
けれども今のところ、どの時間帯でも魔王様の姿を見た覚えが無かった。
私の質問に、リーシュさんが私の為に椅子を引きながら答えてくれた。
「ええ、彼は食堂を使わないの。気を許した相手以外とは、あまり同じ空間に居たくはないみたいね。まあ、特別な日にだけは顔を出しに来るけれど……」
「とくべちゅな日、れしゅか?」
「とっ、とくべちゅ……! ん、んんっ」
リーシュさんは軽く咳払いをしてから、今度は私を抱っこして、席に座らせてくれる。
私一人だと、椅子が高すぎて座れない。なので、こうして誰かに補助をしてもらわないと大変なのよね。ああ、今日もお手数おかけします……!
「……例えば、ヴィオレ魔導王国の建国記念日だとか、新年会とか、祝勝会とか……。そういう、お祝いの席には来るのよ。本当に少しだけ顔を出して、ちょっとお酒を飲んだらすぐに帰っていくんだけどね」
「そうなんれしゅね……」
……それじゃあ魔王様は、普段は一人でご飯を食べてるってことなのかな?
彼の友人だというエディさんとなら同席するんだろうけど、それ以外は独りぼっち……ぼっち飯ってやつ?
いやまあ、下手に大勢の前で食事をするっていうのも、毒殺とかにも気を付けないといけなくて大変なのかもしれないけどさ。私みたいな普通な幼女には、とても想像出来ない苦労があるんだろうなぁ……。
私は椅子に座らせてもらったお礼を言って、リーシュさんと同じメニューを選ばせてもらった。
王宮では様々な魔族が働いているので、食事の好みもバラバラだという。なので、お肉中心のメニューや、野菜類のみのメニューといった中から日替わりで食事が提供される。
リーシュさんがどんな魔族なのかは、彼女外見からは判別出来ない。彼女が物凄い美女だというのは分かるけれど、身体的特徴は人間の女性と全く変わらないからだ。
私も魔力があること以外は人間と変わらないので、その日の気分で色々なメニューを頼める。
リーシュさんが近くの給仕さんにメニューをリクエストすると、しばらくして私達の席に料理が運ばれてくる。
今日のランチは、彩りの良いサラダと、魚と貝のスープ。それから取り放題のパンと、デミグラスソース風のものがかけられたミートボールだった。
「ルカさんには、全て子供用のサイズでご用意させて頂きました。どうぞ、お召し上がり下さい」
「あいがとーごじゃいましゅ、おにーしゃん!」
料理を運んで来てくれた給仕のお兄さんにお礼を言うと、
「いえ、この程度当然のことですから」
と、はにかみながら答えていた。
ちなみにこの給仕さん、白目の部分が真っ黒で、肌は青白い。
これが一般的な悪魔の特徴なのだと、朝食の時にエディさんから教わった。
エディさんは悪魔と人狼のハーフだけれど、見た目は人間と変わらないワイルド系イケメンだ。
自分の中に宿る魔力のコントロールが上手い人は、形態変化にも長けているらしい。だからエディさんは半分悪魔だけれど、目の色を変えられるし、人狼の証である狼の耳も隠すことが出来る。
最初は、どうして自分の姿を変えるんだろう? と思ったのだけれど、実はこれが意外と重要みたいなのよね。
魔族によっては、外見から自分の弱点を探られてしまう場合があるんだって。だから、自分の身を守る為にも、強い魔族はその特徴を隠すのだそうだ。
けれども、人によっては自分の種族に誇りを持っているから、その特徴を隠さずに生きる人も居る。多分、この給仕のお兄さんも、自分が悪魔であることに誇りがあるんだと思う。
それは悪いことではないし、そもそも悪魔は魔界では高位魔族に分類されるらしいので、それを隠す方が珍しいみたい。
高位魔族は魔導王国内の重要施設で働いたり、貴族の人も多いらしい。だから、この王宮にも悪魔族の人が多いんだよね。
……そういえば、ムウゼさんとナザンタさんは何の種族なんだろう?
まだ聞いたこと無かったなぁ……と思ったのだけれど、
「んんんん〜〜〜っ!」
口に運んだミートボールが絶品すぎて、一気に目の前の食事に意識が持って行かれてしまいましたとさ。
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