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天使すぎる転生幼女は魔族を平和に導きたい!  作者: 由岐
第2章 王宮の皆さん、はじめまして
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植物園でのお茶会 前編

 王宮の庭の一画に建てられた、ガラスドームの植物園。

 その中は、通路を挟むように様々な草花が並ぶ空間だった。


 ムウゼさんの後に続いて歩いていくと、少し開けた場所に出る。

 どうやらここは、植物園の中心部らしい。白い石で造られた噴水と、その近くで花に水をやっている女性の姿が見えた。桃色のショートヘアの若い女性が、ジョウロを手にしながら鼻歌を歌っている。

 彼女が次の花に水をやるべく動く度に、長いスカートがフワリと揺れ動く。上機嫌で花の世話をする彼女の動きは、まるで花とワルツを踊っているように軽快だった。

 思わずその光景に見惚れていると、彼女がこちらに気付いた。


「……あら、珍しいお客様ね?」


 ついさっきまでにこやかに花に水をやっていたその女性は、私とムウゼさんに気が付いた途端に、何故か無表情になった。


 このお姉さん、もしかして人見知りだったりする……?

 いや、知らない幼女にルンルン気分で鼻歌交じりに水やりをしているのを見られたら、私だって咄嗟に誤魔化(ごまか)したくなるけどさ!


「近衛騎士団の団長さんが、小さな女の子を連れて何のご用かしら」

「この娘は、名をルカという。今日から我らの一員として、ヴェルカズ様がルカをこの王宮に置くと決められたのだ」

「ルカでしゅ。よろちくおねがいしまちゅ!」


 ムウゼさんに促され、ペコリと頭を下げる私。

 すると、お姉さんが噴水のふちにジョウロを置いてから、私に目線を合わせて屈んだ。


「ルカっていうのね。ちゃんと挨拶が出来る子は、とても好きよ? あたしのことは、リーシュって呼んで頂戴」

「リーシュ……おねーしゃん?」

「んんっ……! そ、そうね。それで良いわ、ルカ」


 おや……?

 この反応、何だかエディさんの時とよく似ているような……。何でだろう、全然見当が付かないわ。

 するとリーシュさんは、一度コホンと咳払いをする。彼女の綺麗な青い眼に、首を傾げている私の顔が反射しているのが見えた。


「……ところでルカ、貴女はどうして団長さんと一緒にここへ来たのかしら? それに、そのカップケーキ……とても美味しそうな匂いがするわね。団長さんに頂いたの?」

「わたち、ムウゼしゃんに王宮を案内ちてもらってるんでしゅ。カップケーキは、ナジャンタしゃんにもらいまちた!」

「ナジャンタ……?」


 あーん! 私の滑舌のせいで、リーシュさんに上手く伝わってない……!

 しかし、私が上手く話せないもどかしさを感じていると、ムウゼさんが助け舟をだしてくれた。


「……私の弟、副団長のナザンタの事だ」

「ああ、あの甘い物好きの彼ね」


 どうやらナザンタさんの甘い物好きは、近衛騎士団の外にまで知れ渡っているようだ。

 もしやナザンタさん、お菓子を訓練場に持ち込むだけじゃなく、普段からお菓子を持ち歩いているのでは……?


「そうね……それなら丁度良いわ。ルカも今日から王宮暮らしになるようだし、親睦を深めるのも悪くないでしょう。お時間頂けるかしら、団長さん?」

「構わん」

「それじゃあ決まりね」


 リーシュさんは立ち上がると、私に小さく微笑んだ。


「あたし、この植物園の管理人なの。せっかくの機会なんだし、あたし自慢のお茶をご馳走するわ」




 *




 噴水の横にセットされていた丸いテーブルと椅子は、リーシュさんのお気に入りの休憩スポットなんだとか。


 彼女が用意したのは、見慣れない金属製の細長いお鍋のような物に、蛇口が付いた謎の器具。そのお鍋の蓋を開けると、真ん中にパイプのような物が伸びていた。

 そのパイプの穴の中に、リーシュさんがポイポイッと茶色い何かを投入している。

 お茶の用意をしているみたいだけれど、異世界だとこんな風にお茶を()れるものなのかなぁ……? 流れで同席する事になったムウゼさんはノーリアクションだし、やっぱりこれがこの世界のスタンダードなのかしら。


 私が興味津々に観察しているのを見て、リーシュさんが言う。


「……もしかしてルカ、お茶の用意をするところを見るのは初めて?」

「あい! わたち、お茶っ葉をティーポットに入れたものに、お湯を入れるやり方は知ってるんでしゅけど……」


 というか、それが普通のお茶の淹れ方なんじゃないの?

 日本茶だって急須にお茶っ葉を入れて、そこにお湯を注いでしばらく待つよね。お婆ちゃんの家に行った時、そうやってお茶を淹れてたはずだもん。


「基本的には、それと同じ淹れ方をするのよ? 確か、二百年ぐらい前はその淹れ方が主流だったわね。けれど、王都ではティーポットじゃなくて、この道具で淹れるのが一般的なのよ」


 そんな話をしていると、さっきリーシュさんが何かを入れたパイプの中から、炎がチラチラと見え始めた。

 もしかして、このお鍋でお湯を沸かしてるのかな? 異世界で言うところの、ヤカンみたいな道具なのかもしれないね。

 それじゃあ、あの時パイプに入れていたのは燃料だったのかな。小さい松ぼっくりみたいな、ゴツゴツした物を入れてたように見えたけど……。


 すると今度こそ、リーシュさんが金属のティーポットに茶葉を入れ始めた……んだけど、茶葉を入れる量がやけに多いような気がするんだよね。

 まさかとは思うけど、この世界では濃いめの渋いお茶を飲むのが常識だったりするの……? 幼女の舌には、ちょっとキツそうなんですが!?


 そんな私の不安は的中し、リーシュさんがカップに注いだお茶は、まるでコーヒーみたいに濃い茶色をしていた。

 飲める……かな、私。大人の頃ならいざ知らず、人生経験の浅い幼女舌で、失礼の無いように飲み干せるかな……?


 内心ヒヤヒヤしていると、リーシュさんは何故か途中でカップにお茶を注ぐのを止めた。まだ半分ちょっとしか入ってないのに、どうして……。

 するとリーシュさんは、私に手本を見せるようにして、自分の分のカップにお鍋の蛇口からお湯を注いだではないか。


「後はこうして、自分の好きな濃さに調整するのよ」


 へぇ〜! 濃いめに淹れたお茶を、自分の好きな味になるようにお湯で薄めて飲むんだね!

 だからお鍋なのに、こうして横に蛇口が付いてたんだ。新体験すぎる!


「このお鍋、しゅごいでしゅ! お茶を淹れるせんよーのお鍋なんでしゅか!?」

「ふふっ。これはお鍋じゃなくて、サモワールっていう道具よ」

「さ、さもわーる……?」


 サモワール……初めて聞いた名前だわ。

 何となく、脳裏に幽霊タイプでボールの中に捕まえる系のモンスターの姿が浮かんじゃうネーミング……!


「……元は、魔力に乏しい人間共が使っていた道具だという。我ら魔界の民は、燃料に頼らずとも火を起こすことが可能だ。しかし、珍しい物好きのエディオン様が人間の大陸より持ち帰り、瞬く間に拡まって今に至る」

「人間の、大陸……」


 魔界があるんだから、人間界? みたいなのもあるんじゃないかとは薄々思ってたけど……やっぱりあるんだ、人間の大陸。

 ファンタジーのお約束だと、人間と魔族はいがみ合ってるから、交流なんて無さそうな先入観があった。

 でも、エディさんが人間の大陸に行った事があるなら、意外と魔族と人間は仲が良いのかもしれない。いくらここが異世界だからって、ムウゼさん達が人間と戦う所なんて見たくないからなぁ……。


 それにしても、エディさんって色んなものを持って帰ってくる癖でもあるのかな? このサモワールっていう道具だけじゃなく、私まで連れて帰るんだもん。

 何となくだけど、私がこの世界に来るずっと前から、エディさんが王宮の皆を振り回していた気がしてならない……。

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