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青い色の物語  作者: yusa
第一章 再会
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8. 運命の人

「遥空の絵があると、雨の日もお母様と話ができるんだよ」

「お母上と?」

「僕が小さい頃に亡くなったの。お母様のことはよく覚えてないんだけど、星空を一緒に眺めたことは覚えてるんだ。星空を見ながらだと、お母様とお話ができるんだよ」

「ほぉ?」

「シエロはお母様と一緒に見た星空の色なんだ。だから、シエロで描かれたこの絵を見た時に、あの星空が帰ってきたと思って、すごく嬉しかったんだよ」


 星麗の自室で絵を見ながら話しているうちに、すっかり打ち解けて敬語もどこかに行ってしまった。

 星麗は自分でも驚くほどおしゃべりだった。言葉が次から次へと勝手に口から出てきた。遥空の話を聞きたいのに、どうしても〝再会〟がどんなにすばらしいのかを伝えずにはいられなかった。


「雨が降ると星空が見えなくて、お母様とお話ができないんだ。だから、雨が大嫌いだったんだ。でも、遥空の絵を見ていると、お母様が話かけてくれるような気がするんだよ。だからこの絵が大好きなの」

「なるほど」

「だからお兄さん、じゃなかった。遥空に会ってお礼を言いたかったんだ」


 遥空は、星麗の話の腰を折らないように、時折相槌を打ちながら優しく頷いていた。

 星麗は話したいことを全部伝えてようやく落ち着いた。気が付くと、いつの間にか遥空の手を握っていた。


「そうか。だから会いたいって言ってくれたんだね」

「遥空はシエロを気に入ってくれた?」

「ああ。小瓶に入ったシエロをパレットに出した時に、その深い青と、記憶にある星麗の瞳が交錯して不思議な気持ちになったんだ。ぞくぞくするような不思議な感覚だった」


 遥空が星麗を見つめて、ごく自然に星麗の頬にそっと片手をかざして話し出した。触れられても星麗はまったく驚かない。会って間もないのに、以前からの知り合いのようにすっかり打ち解けている。


「僕の瞳?」

「ああ。そして、次の瞬間、筆が動き出したんだよ。手が勝手に動いたんだ。頭に浮かんだイメージを吐き出すように、一気に書き上げたよ。気が付いたら、この絵ができていた」

「シエロが星空の色だって伝わったんだね。なんだか嬉しいな」

「完成した絵を見て、猛烈に君に、星麗に会いたくなったんだ。だから、〝再会〟っていう題を付けたんだ。願いを題に込めたんだよ」

「画題の意味は僕にも伝わったよ。絵を見てすぐにでも会いたかったけど、〝再会〟を信じて何か月も待ったんだよ。あははっ」


 遥空は照れくさいような笑いを浮かべ、再び星麗をまっすぐに見た。星麗は嬉しそうに頷く遥空に無邪気に笑いかけた。


 星麗は屋敷内にある父の工房を案内することにした。

 工房は、屋敷の東側に流れる小川の近くにあった。館とは渡り廊下でつながっている。工房の前は大きく開け、手入れの行き届いた広い庭の自然の草花が見渡せるようになっている。


「ここでシエロを作ってるんだ。お父様の工房の隅っこを借りてるんだよ」

「気持ちいい場所だね。すごいね。さすがディオスだ。アズールがたくさんある」


 遥空は目を丸くしてアズールの山を見つめている。


「よそ者の私に工房を見せてしまっていいのかい?」

「かまわないよ。いくら作り方を見ても、アズールがないと作れないから。あははっ」

「ははっ。それもそうだな」

「こっちのアズールは新しい鉱山から掘り出されたものなんだ。少し琥珀色が混ざってるでしょう?」


 星麗はアズールの山ではなく、テーブルにあったアズールを一つ手に取り、遥空に渡す。

 遥空は、アズールを光にかざして、色々な角度で見る。


「本当だね。琥珀色が混ざってる」

「遥空の瞳と同じように柔らかくてきれいな色だね」

「遥空の瞳はとっても優しい色なんだよ。お母様と見た優しい星の光によく似てるんだ。大好きだよ」

「星麗の瞳も魅力的な青い色だよ。深くて、それでいて澄んでいて、少しの濁りもない」


 星麗に好きと言われて、遥空は恥ずかしいのか、頬を少し赤らめた。星麗は瞳を褒められた嬉しさを素直に顔に出して喜ぶ。

 そこに、にこやかな顔で傅がお茶を運んできた。


「今日は七夕です。お二人とも今日再会できるなんて、織女と牽牛の伝説のようですね。まるで運命の恋人のようです」

「織女と牽牛は男と女じゃないか」


 星麗が口を尖らせて傅を睨む。

 遥空は、二人の顔を見くらべながら、星麗の仕草に自然に微笑む。


「恋人はともかく、五年ぶりに巡り合えた運命の人って感じですかね」


 遥空のこたえに、傅は納得したように大きく頷いた。


「遥空はいつまでここにいられるの?」

「しばらくここで絵を描きたいと思うんだけど、大丈夫だろうか?」

「大歓迎だよ!」


 星麗は満面の笑みで答える。喜びを隠さない。傅も頷いている。

 そして、星麗を後押しするように、すかさず傅が言う。


「この郷の詳細は外部には明らかにしていませんが、だからと言って、特に秘密があるわけではないのです。安全のためにそうしているだけなのです。いったん、入郷の許可が出た方でしたら、いつまでいていただいても構わないのですよ」

「そうですか。では、しばらくこちらに留まらせていただきたいと思います。貴星様にその旨、改めてお願いをしなければ」

「もう、貴星様はそのおつもりです。こちらに遥空様がいらっしゃると連絡が来た時点で、お部屋の用意と、滞在中のお世話をするよう申し付かりました」


 星麗はただただニコニコして話を聞いている。遥空も嬉しそうだ。


「ありがたいことです。でも、滞在させていただくからには、ご挨拶をさせていただかないと心から寛げません」

「それでは、そのように。星麗様、貴星様にお会いになられた後、遥空様に郷の案内をして差し上げないとね。しばらく滞在されるのですから」

「うん。わかった。時間はたっぷりありそうだからね」


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