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青い色の物語  作者: yusa
第四章 夜明け
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6. 道しるべ

 鉱山事故から一か月ほど経った。

 事故の後はすっかり片付き、鉱山は今、安全性を高めるための工事の真っ最中だ。

 星麗は自分のせいで鉱山が閉山してしまわないよう、自分に非があったことを関係者に自ら足を運び説明してまわった。関係者だけでなく国王であるお爺様にも説明した。そして、なんとか穏便な対応にしてもらうよう何度も何度もお願いした。その甲斐あって、王族を巻き込む事故が起きたにもかかわらず、責任者は厳重注意のみにとどまり、鉱山も閉山とならずに済んだ。



「調子はどうだ?」


 遥空がアトリエから顔を出して星麗に話しかける。


「うーん。だいぶイメージに近づいたんだけど、もう少しだけ手を入れたいんだ」


 鉱山から帰ってきてからは、星麗は専らシエロの調整にかかっていた。試し塗りしては首をかしげ、また修正して試し塗りしてみるということを繰り返していた。


「もう少しなんだけどな」


 そんな二人を見ていた三光は、話しかけたくてむずむずしているようだった。今、シエロ作りは三光が手伝ってくれる。三光の働きで、だいぶ星麗の試作の時間が増えた。


「三光、どうしたの?」


 三光の様子に気が付いた星麗が手を止めて話しかける。


「すみません。鉱山でのことがお聞ききしたくて。シエロが関わっていると聞いたので、どういうことなのか知りたくて……よろしいですか?」


 星麗と遥空がそろって頷く。鉱山でシエロが救出に役立ったことはすぐに噂が広まり、皆が知っていた。三光は自分が携わるシエロがどう役立ったのかを知りたいのだろう。


「坑道でキラキラ音がしたとおっしゃってましたが、本当ですか?」

「うん。暗い中で立ち止まっていたら、微かだけど音がしたんだよ。シエロの音だってすぐわかったよ」

「遥空様は、星麗様に音を聞かせようと思ってシエロを壁にちりばめたのですか?」


 三光の目が見開かれ、遥空のこたえを待っている。先程からの落ち着きのない態度は、このことが聞きたくてしかたがなかったという事らしい。


「そうだね。星麗に届くように祈りながら壁に撒いたよ。星麗はキラキラ光るものに音を感じることができると言っていたのを、あの時、突然思い出したというか、頭に浮かんだんだよ。私の声よりもシエロの音のほうが遠くに届くと思ったんだ。あの状況で、よく思いついたと自分でも驚いているよ」

「それよりも、よくあの時にシエロがあったね。鉱山に持っていったってこと?」


 星麗も疑問に思っていたことを聞いた。


「ああ、シエロの改良のために行くのだから、念のためにと持っていったんだ」

「虫の知らせってことでしょうかね?」


 三光が腕を組みながら口をはさむ。そして、さらに好奇心にあふれた目で話を進める。


「星麗様は音の方向へ?」

「うん、暗闇の中でも道が分かれているのが分かったんだ。どっちに行こうか迷って、僕はなんとなく右側に行こうとしたんだ。でも、歩き出そうとしたときに左側から音が聞こえたように感じたんだよ。耳を澄したらシエロの音だったんだ。だからシエロの音のする左の方に歩いたの。そしたら、遠くに星空が見えたんだよ」

「それは、シエロが撒かれた壁だったのですね?」

「そう。本当に星空みたいに輝いて見えたんだ」

「遥空様、すごいですね。遥空様の機転が星麗様を救ったんですね。ちなみに、もし反対の右の道を進んでいたら、その先は崖になっていたんです。シエロの音が聞こえ無かったら、大変なことになっていました」


 三光は、本当によかったというように星麗を見つめる。


「そうなんだってね。後から聞いて身震いがしたし、思い出すと今でも怖いよ。遥空ほんとうにありがとう。僕、遥空に命を助けてもらったんだね」

「いや……よく覚えてないけど、とにかく必死だったんだ」

「そう言えば、あんなに取り乱した遥空様は初めて見たと左幻殿がおっしゃっていました」


 遥空は慌てて三光の口を塞ごうとするが、星麗に邪魔をされて三光に届かない。


「そうなの? 遥空が?」

「いや、恥ずかしい限りだ。ああいう時こそ落ち着かなければいけないのに」


 遥空は恥ずかしそうに頭を掻く。


「僕も見て見たかったな」


 遥空は星麗の頭にごつんと拳をあてる。


「ごめんごめん。でも、あの時に竪穴に降りてきてくれた遥空を見て、すごく嬉しかったし、なんだかすごく安心したんだ。遥空と一緒に暖かい空気が周りに漂っていて、あー助かったんだなぁって思ったんだ」

「それもシエロのなせる業なのかもな」


 照れくさそうに遥空が頭を掻く。


「音は星麗様のような特殊な才能がないと感じられませんが、シエロの輝きは皆見られます。シエロは道しるべにもなるのですねぇ」


 三光が感心したように腕を組む。



「道しるべか……」


 そうだ、あの時のシエロは輝いていた。とても暖かい輝きだった。星麗は再びシエロ作りに集中する。


「もう少しなんだ。何かがつかめそうなんだ」


 星麗はシエロに取り組んでいるが、なかなか最後の一歩が遠い。でも、星麗は平和な気持ちでシエロ作りに集中できていた。

 遥空は芸術の都、エスペランサへ定期的に出かける。拠点を天空の郷に移したと言っても、まだまだ、エスペランサは遥空を必要としていた。天空の郷とエスペランサは馬で青の街道を駆けて半日。出かけると数日は帰ってこない。

 エスペランサの街と空画伯の名声は既に周辺国から東西の遠い国まで広がっていた。遥空の描いた通りに芸術の都が出来上がっていくのが、星麗には嬉しく、励みにもなった。

 遥空の不在も、星麗はもう寂しくなかった。遥空の家はここなのだから。だから、帰って来るのを待っていればいいのだ。遥空が隣にいるという安心感が星麗の心の平穏につながっている。



 空画伯の人気はますます高まり、絵の依頼が殺到しているらしい。依頼窓口はサロンの店主だ。店主には、今は依頼を受け付けないよう伝えてある。


「今、自分が描かなければならないものがある。それを描かなければ次は描けない」


 店主に伝えた断り文句だ。店主に空画伯のことは任せてある。店主ならきっと上手く依頼をさばいてくれることだろう。


 遥空のアトリエには、仕上げを待つ〝天使の涙〟が置かれている。

 遥空はエスペランサでの所用をこなしながら、辛抱強く待っている。星麗の納得のいくシエロが出来上がるのを。

 星麗は集中している。その姿を見ていると、最後の一歩は、そう遠くない先にあると感じる。自分は星麗を信じて待っていればいいのだ。


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