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青い色の物語  作者: yusa
第三章 シエロ工房と芸術の都
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11. シエロ工房の長

 早朝からシエロ工房に行き、星麗は頭をフル回転させていた。

 今朝、起き掛けに何か閃いたはずだ。何かが確かに頭に浮かんだのだがモヤっとしている。あたりを見回すが何だったのか思い出せない。


「さあ、星麗様、お食事ですよ。その間にお掃除しますからね。しばらくいなかったので埃を払わないと」


 このまま少し工房で考えたかったが、傅は星麗を促し館へとさっさと先に行ってしまった。


「待ってよ。傅はご飯食べないの?」

「一緒にいただきますよ。どうしてですか?」

「だって、掃除って言ってたでしょう?」

「ほほほっ。私は星麗様の食事の世話で手一杯です。掃除は別の者がやりますから」


 早く食卓につけと言わんばかりに、星麗を座らせる。


「あれっ? いつもそうなの?」

「まったく、シエロ以外は本当に関心がないのですね」


 傅は本当にあきれ顔で星麗を睨む。


「工房ができてから一年近くも経とうというのに、誰が掃除しているのかも知らなかったのですか?」

「だってさ、いない間にいつもきれいになってるんだもん」


 星麗は口を尖らせて傅を睨む。


「私が一から十まで星麗様のお世話をしていたら、傅が何人もいなければなりませんね」


 傅は笑いながら、星麗のお茶を入れている。

 その時、星麗は気がついた。


「そうか、僕一人で全部やらなくてもいいんだ。僕は、僕でないとできないところをやればいいんだよ」


 ようやく今朝の閃きを思い出した星麗は、お茶もそこそこに工房に行きたかったが、襟足を傅に掴まれた。


「大学のお時間ですよ」

「はい」


 傅には逆らえない。


 午後、大学から帰ってくるなり、おやつも食べずに工房にこもりぶつぶつ何か言いながらドタバタやっている。こういう時には、傅はおやつを無理強いしない。黙って好きにさせてくれる。


「他の工房と同じじゃなくてもいいんだ。僕の工房なんだから」


 ひとり言を言いながら道具や椅子を他の場所に移動したり、戻したり、忙しく動く。


「ここで粉にして……」


 からっぽの容器を前に、あたかもアズールを手にしているように、空で動作を繰り返しながら、少しずつ道具の場所をずらしていく。何度も同じようなことを繰り返して調整を重ね、ようやく思い通りの並びができた。山の村の人たちも、傅や召使たちも、皆手分けして作業をしていた。だから、シエロもそうすればいいんだ。


 最後にもう一度、シエロを作る手順と作業者を頭に思い浮かべながら、工房内の配置を確認すると、貴星の下へ走った。廊下の奥から傅ににらまれるが、顔の前で手を合わせ、ごめん! という仕草でやり過ごし、そのまま貴星の執務室に入った。


「お父様!」

「どうしたんだい? そんなに慌てて」

「シエロを分業で作ります!」

「ほぉ?」


 貴星は書類から目を離し、顔をあげた。


「考えました。顔料を砕くとか、粉にするとか、いくつかの工程は熟練すれば他の人にもできます。僕は、僕じゃないとできないところに集中したいのですが、どうでしょうか?」

「ほお。いいと思うよ。よく考えたね。やってみなさい」

「三光を戻してもらえますか?」

「ああ、すぐに連絡しよう。やってみて不具合が出てきたら、また調整すればいいさ」


 三光が再び戻ってきた。シエロ工房に活気が戻る。

 三光は再びシエロ工房に呼ばれて嬉しい気持ちを抑えきれないでいた。

 久しぶりに訪れたシエロ工房は、他の工房とちがって独特の配置になっていた。三光は驚いたが、星麗の話を聞いてなるほどと納得した。そして、実際に働いているように、自分の椅子に腰かけ、粉を砕く動作や、水で洗いだす仕草をした。そして、うんと大きく頷いた。


「星麗様、あらためてよろしくお願いします!」


 三光は早く始めたくて落ち着かない。


「こちらこそ、よろしくね。もっと考えて、三光のできる範囲を増やすようにするから」

「ありがとうございます。さっそく始めましょう」



 貴星と傅は〝暁の空〟の前にいた。


「星麗が自分で考えたんだよ」


 貴星は嬉しくて仕方がないというように、顔をほころばせている。


「貴星様はとうに気づいていらしたのでしょう?」

「まあね。言うのは容易いが、星麗が自分で考えないと意味がない」

「そうですね。よく辛そうな星麗様のご様子を見ながら言わずに我慢できましたね」


 傅はやさしい笑顔で貴星を見る。


「シエロ工房の長は星麗だからね。自分の工房だという意識を持ってほしかったんだ」

「星麗様はどんどん大人になっていきますね。少し寂しいです」

「ああ、目まぐるしいくらいに変わっていくね。いつまでも子どもでは困るが、大人に成長してしまうのも寂しいものだな」

「聖明様も喜んでいらっしゃるでしょう」

「ほんとうに聖明はいい子を産んでくれたよ。そして、傅も星麗をいい子に育ててくれた。二人には感謝している」


 〝暁の空〟をじっと見ている貴星に傅が話しかける。


「ところで、シエロ工房の奥には遥空様のアトリエを作って差し上げるのですよね?」

「よくわかったね。遥空殿が帰ってきたら、それがいいと思ってね」

「一目でわかりました。なぜか星麗様はまだ気づいていらっしゃらないようですが、そういうおっとりしたところも星麗様の魅力ですね。遥空様が戻られたら、また忙しくなりますね」


 ほほっと傅は笑って、廊下の奥に入っていった。


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