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青い色の物語  作者: yusa
第三章 シエロ工房と芸術の都
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10. 地底湖の青い音

 星麗は春日の工房で耳をすまして、春日の器作りをじっと見ている。


 星麗は幼いころから春日の工房で器の作り方をまねて遊んでいた。もともと手先は器用なので、今では器を作る職人並みに上手に作れるようになっている。


 朝から星麗は、瞼の裏に焼き付いた青い色を出すために、春日の釉を参考にしようと、一生懸命に耳を傾ける。


「この青がどんな音色なのか、春日も聞いてみたいですよ」

「すごく澄んだきれいな音だよ。カナンに見せてもらった地底湖の音にさらさら感が似てるんだけど、春日のは地底湖の青色よりも少し高い音なんだ。」

「そうですか。カナンと地底湖に行かれたのですよね。さぞ、きれいだったでしょう?」

「うん。すごくきれいで、今まで聞いたことのない音がしたんだ。あの青を出してみたいんだ」

「ほぉ?さぞきれいな音なのでしょうね。本当に春日は色の音が聞けなくて残念です」

「ははっ、音が聞けなくても、こんなにきれいな器を作ってるじゃないか。すごいよ」

「お褒めいただき、ありがとうございます。地底湖の色は出せそうですか?」

「うん。春日の作り方は音色でしっかり覚えたから、やってみるよ」


 それから数日、満足に睡眠もとらずに器づくりに取り組んだ。



「星麗がおとなしいと思ったら、工房で器を作っているのか?」


 母屋で貴星と春日が話している。


「はい。なにやら作りたいものが閃いたそうでして」

「ほぉ、カナンに刺激されたのかな? 何ができるのか楽しみだな」

「カナンと見た地底湖の色を再現したいのだそうです。今、音を頼りに試行錯誤をされていますよ」

「音を頼りにか……星麗が聞く音の世界はどんなんだろうね。あの子には毎日どんな音が聞こえているのだろう」

「それはきっと、きれいな音ですよ」

「そうだといいね」

「きっとそうですよ。星麗様の瞳はきれいなものを見るための瞳なのでしょう? 聖明様がよくおしゃっていたじゃないですか。きれいなものはきれいな音がします。きっと。だから星麗様は毎日きれいな音を聞いていますよ」

「はははっ。すごい理屈だね」

「はい。なんといっても星麗様は神使のカナンにも守られているお人なのですよ」


 カナンはめったに人前には現れない。しかし、不思議なことに昔から星麗が村に来た時には必ず姿を現す。


「カナンはとっておきの景色を星麗様に見せています。それは、聖明様が星麗様と一緒に輝く星空を見ていたのと同じだと思うのです。星麗様にきれいなものを沢山見て、感じてほしいのです。そして、その美しさを再現してほしいのだと思うのです」

「なるほど、そうかもしれないね」


 春告鳥が庭先で鳴いている。季節が変わり始めたようだ。


「どうやら星麗の季節も冬から春へと変われたようだな」



 三日目に星麗がようやく顔を見せた。


「あー疲れた」

「できたようですね」


 傅は星麗の顔を見るなり、席を立ち、食事を運んできた。


「ありがとう、傅。匂いが刺激的すぎるよ。お腹が急にすいてきた」


 星麗は席に着くなり、かき込むように食べだした。あまりにも急いで食べたので咳き込んでいる。


「まあ、そんなに慌てては危ないですよ」

「へへっ。面白すぎて集中しすぎちゃったよ。その分お腹がすいたんだ」

「明日の朝には焼きあがってますよ。窯出しは春日がやっておきますから、ゆっくり休んでください」

「ありがとう。じゃあお願いね。僕、すこし眠たくなってきた……」


 しゃべっていたと思ったら、星麗は、もうその場で寝てしまっていた。傅はしかたがないというように、星麗を抱き上げ寝台に寝かせてやる。


 それから、二か月もすると少し暖かくなり、すっかり雪は解けた。

 雪の下からは、春の気配がしっかり顔を出していた。

 村では春を迎える準備が始まった。道を整備する者、雪の重みで壊れた屋根などを修理する者、畑を耕し、種まきの準備をするもの。それぞれ役割を持っていて、皆が無駄のない動きをしている。

 村の活気ある様子を見ていたら楽しくなってきた。


「僕もお手伝いします」

「じゃあ、星麗様にできることをしてもらいましょうか」

「はい」

「庭の池に落ちた葉っぱや枝を掬い取ってもらえますか?」


 道具を渡される。

 星麗は一生懸命に葉っぱを掬い取って池の淵に積み上げる。すると、積み上げた葉っぱを幼い子どもが畑のほうへ運んでいく。そこには大人が待ち構えていて、あちこちから集まる濡れた葉っぱや枝を積み重ねていく。ある程度の高さになると、その隣にまた積み始める。星麗も含めて、一連の流れになっていて、作業はスムースに進んでいく。

 貴星が池のほとりまで来た。


「すっかりきれいになったね」

「はい。一生懸命に掬い取りました。あの子が葉っぱを畑に運んでくれたので、おかげで早く済みました」

「そうだね。子どもには池を掬えないからね」

「はい。でも、葉っぱを運ぶのはできますからね」


「皆さん、召し上がれ」


 傅が近所の人たちと一緒に昼食を作ってくれた。

 体を動かして働いたので、ことのほか美味しくいただいた。

 村中が総出で働き、春を迎える準備は整った。


「皆でやると早いですなぁ」


 春日が、きれいに整った村を満足そうに眺めなている。


「すごいよね。村の人がみんなで、小さな子どもまでもがお手伝いしてた」

「そうですな。やることは色々ありますから、あの子らにもできそうな仕事を選んであげれば、小さくてもりっぱに役立ちますよ」


 春日はすっかりきれいになった池を覗き込んだ。


「魚もそろそろ目覚めたようですよ」


 春の準備を終えて、村にはほのぼのとした空気が漂ってきた。星麗の様子がなんとなくそわそわしてきたように見える。


「そろそろ帰る時が来たようだね」

「はい。星麗様の様子がそう言ってますね」


 早くシエロを作りたい。星麗の頭の中は、シエロのイメージで爆発しそうになっていた。

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