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青い色の物語  作者: yusa
第三章 シエロ工房と芸術の都
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2. 天才と凡人

 シエロ工房に三光がやって来た。

 三光とは年が近いので、北斗工房に行った時には話をする顔なじみだ。

「星麗様、よろしくお願いします」

 三光は丁寧に頭を下げて挨拶をする。星麗と二人きりなので少し緊張気味だ。

 星麗はこの郷でも特別な存在だ。貴星も星麗も王家の一員というだけで特別なのだが、それ以上に星麗の奇才ともいえる色彩感覚に、郷中は一目置いている。たった五歳でシエロを作った時には、郷の皆が驚いた。王家特有の青みがかった髪、ひときわ澄んだ青い瞳は近寄りがたい神聖さをも感じさせる。その風貌と、誰にでも分け隔てなく親しみを持って接する愛くるしさのギャップに皆魅了される。年の近い三光にとっては、憧れの存在でもある。


「こちらこそ、よろしくね」


 星麗は自然体で挨拶し、工房を簡単に案内する。


「北斗の工房とだいたい同じでしょう?」

「そうですね……」


 三光はあたりを見回している。ふと、奥のドアに目を留めた。


「星麗様、あちらのドアは?」

「それはね、そのうちにわかるってお父様が言ってたんだ。僕もよくわからない」


 三光の問いに笑顔で答える。星麗はご機嫌だ。



「星麗様、起きてますか?」

 今日も朝から星麗はぼーっとしていた。

 遥空が目の前で手を振る。

 星麗は口を尖らせて傅を睨む。


「起きてるよ」

「星麗、遅くまで起きていたのかい?」


 貴星も心配そうに星麗を見ている。


「すみません。いろいろ考えてたら眠れなくなって……」


 今日もいつも通りに朝食後に大学へと出かける。


「はぁ……」


 星麗は気が付くとため息をついていた。ここ数日はため息しか出ない。こんなはずではなかった。こんなはずでは……


 さかのぼること一か月ほど前。

 独立したシエロ工房ができると、星麗はがぜんシエロの制作に力が入った。遥空の創る芸術の都ではシエロが必要になる。今までは、遥空のために、時には徹夜をして作り続けた。それで何とか間に合った。でも、今後は遥空の絵の枚数も増えていくだろう。ある程度の量が必要になるはずだ。だから、星麗はシエロの工房を作ろうというお父様の提案に喜んだ。そして、無事、工房が完成したのが一か月前だ。


「三光をシエロ工房に通わせることにしたよ」


 貴星は、あらかた工房に必要なものを揃え、星麗に歳の近い職人に声をかけてくれた。北斗工房の若手の三光だ。最初に、まず一人を育てるようにとの助言に素直に従った。徐々に人を増やしていこうと貴星は言ってくれた。


 星麗はやる気満々だ。三光に作り方を教えて、同時にシエロの改良にも取り組むつもりだった。毎日午後にシエロ工房に行き、作り方を三光に教えた。三光はもともと北斗の下で修業をしていたので基礎技術は充分だ。手順を教えて、星麗と一緒に作ると、シエロはできた。


 思いのほかうまく進んだので、星麗はご機嫌だった。しかし、日を経るごとに気持ちがしぼんでいくような感じに襲われた。


「星麗様、お疲れになっているようですが、何か気になることでもあるのですか?」

「傅、どうしてなんだろう。僕と一緒に作った時はシエロができるのに、三光が一人で作るとシエロができないんだよ」


 三光がシエロ工房にきて半月ほど経つ。


「まだ、慣れないのではないですか?」

「そうかな……そうだよね? もう少し様子を見てみるよ」


 さらに半月ほどたち、とうとう三光がシエロ工房に来てから一月経った。



 そして今朝、星麗が大学に出かけた後に、貴星が傅に話しかけた。


「傅、星麗はどうしたのだ?」

「貴星様、シエロがうまく教えられないようです」

「やはりそうか。星麗が帰ってきたら教えてくれ」


 貴星はそれだけ言うと、執務室へ入っていった。


 きのう貴星は、北斗工房に行き、北斗に三光の様子を聞いてみた。星麗の最近の様子がおかしいので気になっていたのだ。


「三光が言うには、星麗様と一緒に作るとシエロはできるのですが、一人で作るとシエロにはならないようです」


 貴星には北斗の言う事がよくわからない。首をかしげていると、北斗が言葉を足した。


「星麗様が、他の材料を混ぜたり、青色を揉みだしたりと工程ごとにタイミングを教えて下さるのですが、『澄んだ音が聞こえたら』とか『星がキラキラ輝く音がしたら』などとおっしゃられて、三光には、それが何のことなのかよくわからないようなのです。音など聞こえないと言うのですよ」

「星麗にそれを言ったのかい?」

「はい。でも、星麗様は『音が聞こえないの? おかしいなぁ』とおっしゃっているようですが、他に教えようが無いようでして、行き詰っているようです」


 北斗も困っているようだ。


「星麗様も悩んでいらっしゃる様子ですが、三光も『星麗様はまさに天才です。凡人の自分とは全く違う』と、すっかり元気がなくなってしまって」


 貴星はそれを聞いた瞬間に、どういうことなのかすべてを理解した。星麗がうまくいかない理由が分かったのだ。


 貴星は星麗が大学から帰ってきたと傅から知らされ、すぐにシエロ工房に向かった。

 星麗は一生懸命に三光に教えている。


「今だよ。ほら、この音、聞こえる?」


 三光は悲しそうな顔をして、首を振る。


「もう一度やってみようか。大丈夫。できるようになるよ」


 貴星は星麗に近づき、そっと肩に手を置いた。


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