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海辺の町で

作者: 久光 月夜

キーワード[夏を満喫]

Tさんへ捧ぐ←書いてみたかっただけ


「夏を満喫、かぁ…」


海の近くの喫茶店でため息をつきながらクリームソーダをかき混ぜる。


「どーしたの?楓?なんかあったの?」

「ん~、アレ」

「ポスターのこと?」


視線の先には観光地ポスター、キラキラした海と入道雲がマッチした絵に「○○市で、夏を満喫!」と書いてある。…なんとも懐かしい仕様である。


「紗和…このポスターいつからあったかな」

「もはや景色の一部だったからわからん…というかポスターまだあったんだ。」

「小学校からあったよ」

「絢美がいうなら間違いないね」


私と紗和と絢美は、この町で育ってもはや二十年以上ここに住んでいる。いわゆる地元組の三人娘だ。

おそらく、ここのカフェに一番貢献してるに違いない。


「夏を満喫ってなんだろーなーって」

「んー、外で遊べってことじゃない?」

「クーラーの効いた部屋でアイス一択」

「絢美に一票」

「なんと!」

「我々には紫外線という敵がいるのだよ」

「く、そのための帽子!日焼け止めクリームPA++++!」

「一度出来たらもう消えないんだよ?まさか『ひと塗りでシミがなくなったんですぅ』なんて広告に騙されてないよね紗和?」

「なんたる無慈悲!」


カランカラン


「…ヒロ?」


ボードをもってこちらへ向かってきたのは、クラスメートの広海だ。いわゆるインドアの私たちとは真逆のアウトドア派で,名前の通り海が好きな子だった。高校から別になったから一瞬誰か迷ってしまった。


「やっぱり!変わってないじゃんなつかし~!えー楓っち時止まってる?まんまじゃーん!っていうか三人揃ってるの本当に変わんないねー」

「ヒロも相変わらずだねー」

「ボード?」

「うん、最後にボードしに来たんだ」


最後に…広海の言葉に引っ掛かる。定期的に海に来てる話は聞いていたので、ずっと来るものだとおもっていたからだ。


「ヒロどっか(遠くに)行くの?」

「うん、(遠くに)嫁に行く」


……


「おめでとー!」

「おめでとー!で名前と写メと年し「こら!」

「おめー」

「ありがと~」


約一時間質問してしまった。まだまだ聞きたいことは山ほどあるが、最後のボードの時間を奪うのは申し訳ない。


「一緒に行く?」


私たちはさっきまでの会話を思い出したけれど、忘れることにした。


「足毛の処理が甘い…化粧が剥げる…」

「水着なんて…あそこしかないやん」

「何でうんっていったのさ!楓!」

「逆に問うが、あそこでNOといえるクラスメートは何人いるよ」

「お~い、本人もいるよ~」


考えてみよあのキラキラの笑顔の前では、毛の処理も紫外線の恐怖も大したことではないではないか!


仕方なくイオン(地元のなんでも屋)に4人で向かう,インドア派の3人は当然のように水着など学生の時のものしか持っていなかったからだ。


「これかわいー!」

「肌の表面積を減らしたい。もっと丈長いのは無いの?」

「もういっそのこと上着で誤魔化すか…」

「ヒロのそれみたいなの,ないんだけど…どこで買ったの?」

「ポチった」

確かにどう見てもサーファーな見た目のそれは,イオンにはない。

結局肌の健康を意識して私は膝丈スパッツとスカートが一体型の黒めの水着をチョイスした。紗和は淡めの水色と白の水着に白い耐水のロングパーカー似合ってる。絢美は紺のパレオみたいなやつだ。


…当然我々はボードなどもっていない妥協策として車で考えたのがこれだ。


「いい大人が浮き輪…」

「じゃああの長いシャチにしろと?」

「私…海の奥まで行ける勇気はない」

「まあ,海ってだけでいいよね」


小さい頃私たちは,何度か海に来ている。私は貝拾いに夢中だったし,紗和はビーチバレー,スイカ割りに燃えていた。絢美は日陰で人ウォッチングを楽しんでた。やるとしてもちょっと水を掛け合うとかでそれで満足だった。海辺に住んでるから毎回泳ぐわけではないのだ。汗で砂がつくし,下手すりゃ虫が這う感触もセットだ。しかもしょっぱい!


「冷た~!」

「そういえば楓は昔溺れてから絶対来ないっていってたよね」

「そうだね,おかげで思い出したよ。海水の味を!」

「いいじゃん。わりと浮き輪楽しい」

「ヒロに引っ張ってもらっていることを忘れてないかい?」

「あはは!」


ひとしきり遊んでいたら,ヒロが「行ってくる」といって浮き輪を離してボードへ向かった。波が来るのであろう。わりと泳ぎが得意な紗和が浮き輪にしがみついてる私たちを仕方ないな~と言いつつ引っ張る。

私は波に飲み込まれることに恐怖しか感じないけど,ヒロは違うのだろう。


さっきまで泳いでいたスピードとは全然違う,あんなに大きいボードを抱えているのにするする進む。

乗るまでの一連の動きに無駄がないのはさすがだと思う。息も忘れて見入る私の横で二人がぼそっと呟いた。


「すごいね…」

「『大きな音が聞こえるか』っていう本思い出してた。」


波に乗る姿に見とれた私はヒロがほんの数秒の波にキレイに乗り切って海に落ちてから絢美に訊ねた。


「なんて本だっけ?」

「本には食いつくね。楓」

「つかささんの本だよ。大きな音が聞こえるかってやつ」

「ふ~ん」


よく知らないけど,その本はきっと今見た景色と同じようにすごいことが書いてあるのかなと思う。


その後波に向かって泳いでいく回数は10回を超えていたけど,最初ほど長く乗る姿は見られず,後できいたところ,その日の波はあまり大きくなかったそうだ。まあ,大きい波だったら私は海に入っていない。



「ごめん,付き合わせて…」

「いや,むしろありがとう」

「ヒロすごいね!よく乗れるね!」

「すごかった」


その後私たちは一旦解散してからファミレスに移って,とりとめのない話をいつまでも続けた。

そこでいくつかの爆弾発言


「実は私も実家通い辞める予定なんだ」

まさかお家大好きっ子な紗和が一人暮らしを選ぶとは思ってなかった。


「私は実はお付き合いしてる人がいて…」

さらなる爆発!いや,いないわけ無いと思ってたよ絢美みたいな物件をほっとく男はバカでしょうとも。


いくつかの爆弾発言にテンションがおかしくなりつつ日付が変わる前にファミレスをでた。


田舎だから電灯は少ないけど月明かりがキレイだ。

4人で並んでゆっくり階段を降りる。


「三人に会えてよかった。またね!」

「また会おうね」

「集合はカフェコロポックルね!」

「連絡早めでよろ」


月に照らされるヒロの顔が笑っているのに、少し寂しそうに見えるのはなんでだろう。


そしてふと両隣を見た。紗和も絢美も月明かりに照らされた横顔は美人で…


「ほら、乗せてよ楓!ぽーっとしない」

「一緒に帰るよ、つーか乗せて(笑)」


もしかしたら私たちはもう夏を満喫していたのかもしれない。


そして、いつか思い出すのはきっと

喫茶店のクリームソーダの味なのだろう。




















楽しかったのでまた,機会があればよろしくお願いします。

読んでいただきありがとうございました。

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