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負ける気のしないクーデター

 一日のんびり過ごして疲れをとり、翌朝、ラルフとステラが魔法陣の改良材料を集めに出かけた。

 薬草や木の実を集めるのだが、「大陸最北端」とか「最南端」というキーワードが出てくるので任せることにした。

 植生の問題だけで珍しいものでは無いと言うことなので、専門家に任せておけばよい。


 その日のうちに二人とも帰ってきたが、帰ってきて早々にラルフはヴィルと共に部屋に籠もってしまった。


「今から徹夜してでも完成させるつもりみたい」

「パワフルなじいさんだな」

「全くよ。ユージからも言ってちょうだい。歳を考えろって」


 それ、ハリネズミの俺がエルフに言っていい台詞?


 翌朝、「準備できたぞ」という二人と共に城へ向けて出発する。




 街壁は……ほぼ飛び越えたようなものだった。




「さて、城が目の前だが……どうする?」

「壊す」

「穴を開ける」

「ぶっ飛ばす」

「全くお前ら……最高かよ!」


 長谷川の(あお)りを受けて、幹隆が棍を手に城壁へ駆け出す。

 そして、ゴルフスイングのように根を振り上げて城壁に叩きつける!


 ドゴン!という破壊音と共に城壁が砂粒のように粉砕されて舞い上がる。


「良し!」

「いいね」

「破片が落ちて町の人に迷惑をかけないように配慮する、さすがだねぇ」


 音でバレるとかそういう心配はしない。むしろ、無関係な人を巻き込まないように気をつけたい。少なくともこの国の国民の多くは王国上層部の腐った実態については知らないのだから。


 崩れた壁を越えて中に入るが、さすがにこの辺りに来た記憶が長谷川にも幹隆たちにもない。


「えーと、どこに行けばいいんだ?」

「この時間でしたら謁見の間にいるかと」

「さすがティアさん」

「ちょうどこの建物の二階です」

「入り口は?」

「反対側ですね」

「開ければいいだろ」


 言いながらユージがドドン!と針を撃ち出し、壁に穴を開けて入り口を作る。


「何の問題も無いな」

「だが、中はこれ以上壊すなよ?建物が崩れると面倒だ」

「では、私が案内を」

「頼みます。露払いは俺らが」




 同時刻、城門。


「ん?今の音は何だ?」

「おい!城壁が吹き飛んでるぞ」

「何だって?!」

「急げ!緊急事態だ!」


 門番をしていた衛兵たちが騒ぎ出すのは勝手だが、俺を放置するな。


「……通っていいか?」

「あ……い、いいぞ」

「フン……何かあったのか……行ってみるか。恩を売るにちょうどいいかも知れん」




「こちらです」


 ティアが案内した場所、使用人だけが使う通路で、他の者はほとんど知らない、いわば隠し通路だ。


「これなら誰かに見つかる心配も無く、謁見の間に行けるということか」

「はい。最短距離で移動できます」


 壁一枚隔てた向こう側では警備の騎士たちが壁に開いた穴の前で騒いでいる声が聞こえる。いちいち相手をしていたらキリがないのでありがたい。




「こちら、謁見の間の扉のほぼ正面です」

「ありがとう。行くぞ」


 長谷川を先頭に廊下に飛び出し、扉の両側に立っていた騎士を瞬時に気絶させる。


「さてと、一度やってみたかったこと!」

「お、何だ?」

「デカいドアを蹴破って開ける!」


 言うなり長谷川がドアを蹴り飛ばす。蝶番(ちょうつがい)が古くなっていたわけでもないだろうに、ドアが吹き飛び、中にいた全員の視線が集まる。


「邪魔するぜ!」

「き、貴様は!」




 騎士団団長ボリスの動きは速かった。

 躊躇(ためら)うこと無く剣を抜き長谷川に向かって斬りかかるので慌てて避ける。


「っとぉ!いやあ、真面目で職務に忠実で、感心感心」

「どこぞで野垂れ死んだと思っていたが生きていたか。何の用だ?」

「楽しい旅行から帰ってきたところさ。土産もあるぜ?」


 チラリと後ろに並ぶ面々を見る。


「土産ねぇ。ティアにこの間逃げ出した勇者候補の才能無さそうな連中、エルフに……あのでかい図体は何モンだ?……アレか?クーデターとかそう言うつもりか?」


 ボリスが一歩下がると共に部下たちが前に出て並び、中の者を護るような位置に立つ。


「って、俺の相手三人かよ!」


 面倒くせえと愚痴りながらも剣は抜かない。


「舐めやがっ……」


 デコピン三発で三人が倒れる。下手に武器を使うと、瞬殺してしまいそうなので。


「ほう?少しはやるようになったか?」


 ボリスが一歩出る……が、


「あなたのお相手はこのわ「俺が」


 一歩出たティアのさらに前に幹隆が出る。


「あの」


 ティアの抗議は無視して幹隆が告げる。


「アンタ、この国の最高戦力なんだろ?かかって来いよ……才能ゼロだと思ってた奴がどこまで成長したか見せてやる」

「ケッ……ガキが思い上がりやが……って!」


 ボリスが無拍子で斬りかかるが、ヒョイと避ける。


「フン!フン!」

「よっ、ほっ、はっと」


 何度斬りかかっても当たらない。だが、それがボリスの狙い。少しずつだが剣の速度が上がってきている。大丈夫だろうと思いつつもティアが声をかける。


「幹隆さん、お忘れ無く。魔剣ですよ」

「あー、そう言えば……当たらないほど身体能力が上がる魔剣、だっけ?」

「知っていたのなら話は早い。諦めるんだな」


 ティアの言葉に、そう言えばそう言う魔剣だったなと思い出すが……いやぁ、身体能力が追いつく前にあなたの体力が尽きるんじゃないですか……とは言えないし、そんなに気長に付き合う気もない。


 それに、なんか当たってもかすり傷一つ付かない気がする。


「よっと」


 ガンッ


「痛ってぇ!」

「ぬ?!」


 足を止めたら、真上から剣を振り下ろされた。仮にも見た目美少女の自分に対して、その躊躇(ちゅうちょ)無さは感心する。

 が、普通ならば魔剣そのものの力で両断されるはずの頭は……なんとも無さそうに見える。


「ってて……痛いことは痛いな……うう……」


 頭をさすりながら少し後退。


「……ちょっとコブになってるかも」

「「「その程度かよ?!」」」


 周囲の突っ込みと共にボリスも一歩下がる。


「なん……だと……?!」


 斬り込む速度も、当たった角度も申し分なかったはずなのに、コブが出来たかも程度だと?


「馬鹿な!あり得ん!」


 再び斬りかかる。が、


「ほいっと」


 ペシッと剣を掴まれた。


 素手で。


「く……この……ぐっ……」


 どう見ても華奢な左手に掴まれているだけなのに、びくともしない。しかも素手で刃物をつかんでいるのに、血の一滴も見えない。


「き、貴様っ……」

「えーと、えい」


 どう対処しようか少し悩み、結局デコピンの要領で刀身を軽く叩いたら……折れた。仮にも魔力で強化された魔剣が。


「なっ!!」


 そして一歩踏み込み、


「ていっ」


 軽くみぞおちに一発。


「ぐあっ」


 そのまま水平に吹き飛んで壁にめり込み、鎧が粉々に砕け散った。


「よし!」

「よしじゃないわよ!」


 スパン!と茜がどこかから出したハリセンではたく。


「いきなり叩くなよ。さっきの所とかまだ痛いんだぞ」

「もう少しこう……見せ場を作りなさいよ!」

「見せ場?」

「ちょっとピンチになって服がはだけるとか!」

「誰が得するんだよ!」

「主に私!」

「お断りします!」

「じゃあ、最低でもここぞとばかりに謎の力に目覚めるとか、そう言うの!」

「目覚める必要ないくらいになってるんですけど?!」


 キャイキャイと騒いでいるが、周りの騎士たちはドン引きどころではない。この国の最高戦力であり、実力ナンバーツーの副団長すら軽くあしらう団長を、赤子の手を捻るのが重労働に見えるほど簡単に倒したのだ。


「えーと……あの痴話喧嘩はまあ気にしないでくれ。いつものことらしいから。で、こちらとしては降伏を勧告する。今は(・・)命を無駄にしたくないんでな」

「む……むう……」

「ぬぬぬ……」


 宰相以下、国の重鎮と言える貴族たちが、さすがに従うしかないかと国王を見る。が、国王もまだ切り札は残している。


「やれ」

「はっ」


 号令一つで王宮魔術師数名が呪文を唱えると、すぐ目の前の床に魔法陣が展開される。


「アレは?」

「おそらく召喚魔法だな」

「多分、ドラゴンだろう」


 魔法に詳しいラルフとヴィルの見立てだが、ドラゴンの召喚って……


「この狭い部屋に?!」

「違う意味で正気を疑うレベルだな!」


 慌てて止めようとするが、既に魔法陣が輝き、ゾウほどの大きさのトカゲの姿をした魔物が現れた。


 召喚魔法にも色々と種類があるが、これは術者の魔力により作り出した人造の魔物で、召喚魔法と言うよりも魔物生成魔法らしい。違いとしては普通の召喚魔法が時間制限こそ無いが、召還後に言うことを効かない可能性があること。魔物生成魔法にはが時間制限があるが、魔物は確実に言うことを聞く。ただし、魔物は通常のものよりかなり弱いらしい。


「ドラゴンの亜種。小型の地竜だな」

「ヴィル、なかなか詳しいな」

「地元じゃ、時々現れて村を襲ってたからな。何度も討伐したぞ」

「そうか。で、どうする?」


 いくら、本物より弱いと言ってもドラゴンに類する魔物だ。


「何、問題ないだろう。ユージが全部粉砕したぞ」

「スゴいな、ステラ!!」

「え?」

「あれならリディの婿にふさわしいな!」

「だからそう言ってるじゃないの」

「フム。式の日程を早急に決めようか」

「そこ!勝手に話を進めないでくれる?!」


 せっかく手間暇かけて召喚した地竜が秒殺されて、さすがに国王もどうやってこいつらを押さえ込めばいいのかと悩み、周囲を見るが、誰一人名案はないようだ。

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