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ラルフ先生の魔法陣解説

 黒板にチョークを走らせる。


「まず、こちら側で魔法を起動すると、生贄の魂を魔力として消費し、最初に向こうの世界に鏡で映した形の魔法陣を構築する」

「向こう側にも魔法陣を?」

「そうだ。だからこの魔法陣は複雑な作りになっている。鏡に映しても意味が通るように、な」

「そして鏡に映す上で、無駄が出る」

「無駄?」

「そうだ。例えばこちら側ではAという効果をもたらすように記述しても鏡に映すと何の意味も無い模様になる。逆に向こう側でBという効果を出すための文字がこちら側では何の意味も無い模様になる。そう言う部分がどうしても出来てくる」

「それが無駄な部分」

「一つ質問」

「ほい、ユージ」

「その無駄な部分ってもしかして、無駄に魔力を消費するんじゃないか?」

「正解だ。そのせいで魔法陣全体を動かす魔力が膨大になる。さて、向こう側に魔法陣が構築されると、向こう側で魔力を集め始める」

「向こう側での生贄……大勢の人間の魂をかき集めるということか」

「そうだな。だが、一定範囲内を適当につまみ食いするような感じだな。とある地域の人間を全滅させるとか言うほどでは無い」

「それでも迷惑な話だが」

「そうだな。いきなり殺されるわけだからな」

「とにかくそうやって魔力を集めて魔法陣を起動するのだが、向こう側での起動は時間がかかる」

「時間が?」

「鏡映しだから効率が悪いのが大きな理由だが、今回使われた規模の場合、およそ十二時間かかる」

「……村田たちは昼過ぎに転移してるんだよな?」

「うん」

「つまり、俺たちをエネルギーに変換して十二時間後に転移開始」

「時間の理屈は通ったな」


 そしてラルフが黒板に「両方から穴を開ける」と書く。


「魔法陣によって、世界の壁に両方から穴を開け、一番近くにいる条件に合う者を吸い上げる」

「今回の場合は十代の若者、百五十名弱という条件が記されている」

「そしてこちらの世界へ吸い込むのだが、その時向こう側で余った魔力を一緒に吸い込む」

「余った魔力……つまり、消費されなかった魂か」

「そうだ」

「一人分まるまる残っているものもあれば、ほとんど消費されて残り(かす)のようにされてしまったものもある。言い方が悪くて申し訳ないが」

「いや、そこは気にしないよ」

「すまない」

「こちら側から開けるときにも余った魔力は一旦吸い上げられるのだが、その後世界と世界の狭間で攪拌(かくはん)され、もう一度こちらの世界へ吸い込まれ……ばらまかれる」

「世界の狭間だからな。時間の経過はぐちゃぐちゃになる。未来へ飛ぶか過去に飛ぶか、さすがにそこはわからなかった」


 それこそ、世界を作った神のみぞ知ると言う奴だろうと補足する。


「そしてばらまかれた魔力……魂は、一人分がほぼ残っていれば、ばらまかれた地点の近くにいる魔物と融合する」

「例えば俺みたいになるわけか」

「そうだ」

「そして、一人分に満たない魂はぐちゃぐちゃに混ぜられてそのまま落ち……その魔力だけで魔物になる」

「それが腐り神になるのね」

「そういうことだ」


 魂が中途半端に集まる一方で、同じ魔法でこちらに来たユージと共鳴して、記憶イメージを伝えてきたのではないか、というのがラルフの推測だが、さすがに腐り神の詳細までは解析できなかった。


「一方で、本来の目的というと胸糞悪い言い方だが、転移する対象は、これまた周囲の魔力で攪拌される。魔力が多いほど、な」

「魔力が少ないと攪拌されないのか?」

「そうだな。多少は攪拌されるようだが、せいぜい特殊な能力がつくくらいだろう」

「長谷川さんが元の姿のままなのは、一人分の転移だから生贄が少なく、魔力も少なかったからと言うことか」

「俺たちが全然違う見た目になってるのは」

「たくさんの生贄で、大量の魔力で、ということか」

「はあ」

「何だかな」

「うん」


 あまりにひどい内容に一同が黙り込む。


「さて」


 パン、とラルフが手を叩く。


「魔法陣の解析結果は以上。とんでもない魔法……人道にもとるとはこのことだという手本のような、クズの使う魔法だ」

「そうだな。魔王討伐とか言う、根拠ゼロの身勝手な理由で大勢の人を巻き込んで」

「ひでえ話だ」

「次に、元の世界に戻る方法だ」


 一同がハッと息を飲む。


「あ、ある……のか……?」

「ああ。可能だ」


 ラルフが腕を組み、上を見上げる。


「だが、覚悟がいる」

「覚悟?」

「解析した結果とヴィルの知識を元に、向こうへ帰るための魔法陣はあらかた構築できた」

「「「おお!」」」

「ただし、問題が三つ」

「問題?」

「三つ?」


 ラルフが指を立てる。


「一つ目。魔法陣の規模が大きい。それにその性質上、無闇に作っていいものでも無い。出来れば一度使って皆を送り返したらすぐに破棄したい」

「なるほど」

「そうすると」

「城の地下。つまり俺たちを召喚した部屋を使い、終わったら城ごと破壊する、そんな感じか?」

「そうだな。それしか無いだろう」

「ま、城の制圧なら問題ないだろ?このメンバーに不安がある奴いるか?」


 長谷川の問いに全員が首を振る。


「場所の問題はたいしたことは無いな。二つ目、相変わらずだが生贄が必要だ」

「やはりか……」

「ちなみにどのくらい送り返すんだ?」

「生き残っているのは百人以上?」

「多分」

「俺たちが逃げ出すときにはそのくらいいたから」

向こう側(・・・・)の生贄は?」

「そこは問題ない。こちら側からの魔力供給だけで動くように改良した」

「なら」

「なら?」

「王族、貴族まとめて放り込んでやれ」

「そうだな」


 異存のある者などいない。


「じゃあ、それはそういうことにしておこう。三つ目。向こうに戻ったとして」

「戻ったとして?」

「元の姿に戻れるかどうか不明」

「そうか」

「最低でも今の姿は維持できると思うが、向こうでの元の姿に戻れるかどうかはわからん」

「戻れる可能性があるって事?」

「ウム。要するに魂の形だ」


 ヴィルが推測だが、と前置きして説明する。


「魂の?」

「形?」

「そうだ。魔力による攪拌は肉体を変容させたが、魂、つまり心の有り様は変わっていないだろう?」

「あ」

「確かに、向こうでのことをちゃんと覚えてるし」

「ちょっとしたクセとか残ってるもんな」

「世界を超えるときに魂に肉体が引っ張られれば、元の姿に戻るだろうが、さすがにそこまではわからない。すまない」

「いえ、ヴィルさん、元の世界に戻れるってだけでも充分です」

「さて。説明は以上だ」


 ラルフがパン、と手を叩いて閉めると、長谷川が立ち上がる。


「皆、聞いてくれ」


 全員の視線を集め、長谷川が続ける。


「俺としては、城に乗り込んで王族以下、召喚にかかわった連中を捕縛し、二度とこんなことが出来ないようにしたいと思う」

「それはもちろん」

「二度とこんなことはさせちゃ行けないよな」

「当然だ」

「で……皆、元の世界に戻りたいか?」


 その質問の意味するところは重い。

 戻るという選択は、生贄を必要とする。

 戻らないという選択は、元の世界との完全な決別だ。


 幹隆が手を上げる。


「俺は、戻りたい。元の姿に戻って不自由になるかも知れないけど戻りたい。伯父さん伯母さんに心配かけてるから安心させたいし。それと……両親に、何があったのかちゃんと、報告したい」

「そうか」

「私も。ミキくんの身内だから、余計に色々心配かけちゃってるから」

「わかった」

「あと、戻っても今の姿のままだったら、色々たのし痛い!ミキくん痛いっ!」


 幹隆による無言のアイアンクロー。


「俺も戻りたい。何だかんだ言ってもさ、食いもんとか……その……な」

「私も」

「俺も」

「わかった。俺も戻りたいと思ってる。三年前のあの事故について……自分に責任があるとか無いとか関係なく、向き合うべきだと思うから」

「長谷川さん……」

「村田君、俺なりのケジメだよ。誰が悪いとかでは無く、きちんと伝えるべき者が伝えないとダメなんだ」

「わかりました」

「あと一緒にこっちに来ている百名以上は……多分戻りたいだろうな」

「多分ね。精神的に参ってるのが多いみたいだから」

「と言うことで、ラルフさん、戻りたいという意見多数です」

「わかった。だが」

「だが?」

「魔法陣の精度を上げるために色々準備をする。城に突撃してアレコレしても構わんが……一日だけ待ってくれ」

「あらダメよ?」


 ステラが反対した。


「せめて二日」

「え?」

「ずっと根を詰めてたのよ?一日くらい休みなさい。師匠だけじゃ無いわ、皆も」


 もっともな意見だった。

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