階層ボス、受難の日
レクサムダンジョンは高難易度ダンジョンで、十層より深い階層まで潜る者はほとんどいない。そのため、十層以上、さらに言うならば十五層以上は一月ほど前に二人の侵入者がいて、魔物との戦闘があった程度で、彼らが去った後は平和そのものだった。
魔物といえど、命ある生き物である。たとえ、ダンジョンという特殊な環境で生まれ落ちたとしても、死にたいと思って行動する魔物はいない。
一月ほど前に突如現れた二人組は、数から言えば格好の獲物であったが、異常な速さでの成長に気付いた者はおらず、返り討ちに遭った魔物は「所詮その程度だった」というのが今も生きている魔物たち共通の認識である。
いや、認識だった。
今は立場が逆転している。
「待ちやがれ!」
「追え!逃がすな!」
「ちょ、待て!速いってば!おい!」
長谷川を先頭に見つけた魔物を追い回し、追い詰めて、狩る。追い詰めて、狩る。
魔物だって死にたくはない。逃げる、追う。逃げる、追う。
僅かでも足の遅い者は着いていくのがやっとの状態である。
先頭が足を止めても追いついたときには魔物は倒されている。幹隆の狐火のおかげで経験値は平等に入ってくるのが唯一の救いか。
「おいおい!こりゃすげえな!」
「だろ?」
「ガンガン行こうぜ!」
「ひゃっはー!」
倒し終えてドロップアイテムを確認するとすぐに走り出す。
倒す、走る。倒す、走る。
「まあ……気持ちはわかるけどな」
原因を作ったのは幹隆の狐火だが、長谷川と三馬鹿の異常なテンションはどうにもならない。
「この階層、狩り尽くすぞ!」
「「「おお!」」」
ダンジョンの魔物たちが文字を書き、記録を残すほどの知能があったらこう書き記しただろう。「悪夢の日だった」と。
「お、上に行く階段だな」
どうする?と先頭を行く長谷川が振り返る。
「じゃ、上に行きましょう」
「上がると十七層の階層ボスが相手だな?」
「そうですね。オーガキングとオーガの群れです」
「俺にとっちゃリベンジマッチだな」
「微妙に違う気がしますが」
全員が階段を上り、中の様子をうかがう。確かにオーガキングとその取り巻きだが、その様子を見てユージが目を丸くして質問を投げかける。
「一つ質問があるんだがいいか?!」
「はいそこ、ユージ。どうぞ」
「俺が相手したオーガと見た目が全然違うんですけど!すっげえ怖い見た目なんですけど!」
「ああ、そうか」
「あれ?ユージ、知らなかったの?」
「え?」
「ダンジョンの中にいる魔物って、見た目が凶悪になって、ちょっと強いのよ?」
「え?マジで?」
「そうだな、例外は無い。ゴブリンですら見た目が違うから、予備知識無しで見ると別の魔物に見えるかも知れないな」
「へえ……」
ダンジョンにしかいない魔物、ダンジョンにはいない魔物と言うのもいるが、両方にいる場合、ダンジョン内に満ちている魔素とやらのせいで、凶暴性が増すらしい。
「つーか、ユージって今まで何と戦ってそんなに強くなったんだ?」
「ん?まあ色々。ヘビとか狼とか。一番たくさん戦ったのはロック鳥かな。普通だと思うけど」
「ロック鳥と戦おうと思う奴って、そうそういないんだけど」
「そうなんだ」
ユージとリディの常識は人間の冒険者には当てはまらないようだ。
「ま、俺たちも似たようなもんだけど」
オーガキングはこのメンバー相手に一分も生き残った。
「村田、一つ質問」
「何?」
「お前ら、ここで何食ってたの?」
「ここで?んー、アレだ」
「アレ?」
「そう、アレ」
幹隆の指す先にはケイブベアが一頭……見えた瞬間に誰かが倒しているので、さすがに少し魔物が可哀想に思えてくる。
「ウマいのか?」
「ほのかに香る……」
「ほのかに香る?」
「獣臭」
「うげ」
「マジか」
中山と松島がうんざりした顔をする。
「何々?」
「何の話?」
「ああ、クマの肉が臭いって話」
「へえ」
「クマ肉の鍋とか聞くけどねえ」
「きちんと下処理するからじゃない?」
日野、越智、清水の女性陣はアレコレと話に花が咲く。
「私たちの時はろくに道具も調味料もなかったからね」
「肉を焼けただけでもラッキーだったよ」
「で、この上にいるのは?」
「ミノタウロスの群れと、結構デカいミノタウロス」
「多分、ミノタウロスリーダーって奴だな」
「長谷川さんは戦ったことは?」
「無いな。ミノタウロス自体初めて見る。だが、このメンバーで負ける未来が見えない」
「言えてる」
ハハハと全員が呑気に笑っているところに幹隆と茜が爆弾を投下する。
「ここのボス、牛肉ドロップするよ」
「結構良い肉だよね」
「食ったことないけどA5ランクって奴はあんな感じかもって肉」
「お前ら走れ!」
「遅れんなよ!」
我先に登っていった。
「わかりやすい連中だな」
そこへリディたちがのんびりと追いついてきた。
「いいんじゃ無いか?変に色々思い悩むよりも」
「それはそうだけど、ユージ、急がないとお肉無くなっちゃうかも」
「それは困るな」
慌ててリディが早足になるので幹隆たちも後を追う。
「ところで、エルフって肉食うの?」
「食うぞ。ロック鳥とか焼いて食ったし」
「へえ」
「ちなみに俺も結構ヤバい」
「え?」
「ハリネズミって、肉も食べるからそれは別に」
「リディの兄貴が俺を焼いて食うための調味料を求めて旅してる」
「マジか」
ミノタウロスたちは頑張った。三十秒も。
「肉うめぇ!」
「すげえなこれ!」
ワイワイ騒いでいる面々に幹隆が一つ追加の爆弾を落とす。
「俺たち、二回戦ったんだよ」
「「「マジで?!」」」
「と言うことで、ここまで上ってきたわけだが」
「これ、地上へ帰る転移魔法陣って奴だよな?」
「ま、時間もいい感じだし、帰るか」
「待った!」
「ん?」
「どうした?」
「村田、俺たちを止めるつもりなら羽交い締めにするくらいしないとダメだぜ」
「そうそう、後ろからガシッと密着してな」
その視線の先に気付いた幹隆が棍を握りしめて答える。
「全力で殴られたいか?」
「サーセン」
ついさっきの戦闘で幹隆が振り下ろした棍がダンジョンにめり込んだのを見ていた三人が震え上がる。破壊不可と噂されるダンジョンにめり込むってどんだけだよと。
「つーか、今の俺が羽交い締めにしたら、お前ら色々まき散らして破裂すると思うんだが」
「サーセンっした!」
三馬鹿を正座&土下座させたところで、長谷川が疑問を口にする。
「これ、乗っちゃダメなのか?」
「詳しく確認したわけじゃ無いんだけど……上の十五階層のボスを倒さないとダメっぽいんだ」
「ダメ?」
「多分、今の状態で使うと、また落下する」
「うげ」
「私たちも一度落ちたんだよ」
「マジか」
ついでに落ちた階層が一つ下がったことも付け加えておく。
「と言うことで、十五層の階層ボスを倒そう」
「何がいるんだ?」
「確か、ゴブリンキング」
「ぶっちゃけ雑魚だな」
ゴブリンキングは善戦したハズだ。
「開始五秒で見事な命乞い土下座とは」
「魔物も土下座するんだな」
「感心するとこがズレてないか?」
「でもなぁ」
「他にコメントのしようも無いし」
土下座されても見逃すわけには行かない。
「時間もいい感じだから戻ろうか」
「そうですね」
「そろそろ魔法陣のこと、分かってるといいな」
「自信ありそうだったし、大丈夫でしょ」
そんなことを話しながら階段を下りる。
「まあ、そっちはそっちでいいんだけど」
「ハリネズミって魔石食うんだな」
リディの手の上でゴブリンキングの魔石をボリボリ食べるユージを皆が見る。
「あー、これな。なんて言うか、体力の最大値が上がるみたいなんだよ」
「へえ」
「そうなの?」
「リディにも説明してなかったっけ?」
聞いたっけ?と首をかしげるリディ。
「てっきり歯ごたえが気に入っているのかと」
「いや、これ結構固くて食べるの大変だからね!」
村田幹隆
狐巫女 レベル997 (1249/9970)
HP 59470/59470
MP 52/59470
STR 5947
INT 5947
AGI 5947
DEX 5947
VIT 5947
LUC 5947
川合茜
ハーフエルフ・斥候 レベル413 (33516/413000)
HP 6501/6501
MP 7083/7083
STR 79
INT 97
AGI 266
DEX 182
VIT 55
LUC 90
稲垣健太
槍聖 レベル108 (521/108000)
HP 2257/2257
MP 913/1515
STR 63
INT 17
AGI 33
DEX 32
VIT 36
LUC 14
塚本幸子
ビーストマスター レベル107 (90995/107000)
HP 1513/1513
MP 1913/1913
STR 22
INT 32
AGI 31
DEX 39
VIT 22
LUC 42
中山徹
猫獣人・斥候 レベル108 (331/108000)
HP 1748/1748
MP 1734/1734
STR 30
INT 24
AGI 80
DEX 57
VIT 20
LUC 29
松島浩平
剣士 レベル108 (109/108000)
HP 2153/2153
MP 1456/1456
STR 55
INT 21
AGI 29
DEX 26
VIT 38
LUC 20
日野のどか
治癒術士 レベル108 (31/108000)
HP 1807/1807
MP 1302/2002
STR 22
INT 44
AGI 26
DEX 24
VIT 32
LUC 22
越智香緒里
猫獣人・格闘家 レベル108 (1024/108000)
HP 2069/2069
MP 1449/1449
STR 55
INT 14
AGI 78
DEX 43
VIT 22
LUC 22
清水聡子
ドワーフ・重戦士 レベル108 (331/108000)
HP 2309/2309
MP 1512/1512
STR 61
INT 23
AGI 22
DEX 41
VIT 39
LUC 23
長谷川昭文
錬金術師 レベル106 (81552/106000)
HP 2021/2021
MP 1891/1891
STR 56
INT 50
AGI 21
DEX 54
VIT 26
LUC 28
ティア・バートン
レンジャー レベル106 (31569/106000)
HP 1652/1652
MP 1308/1308
STR 30
INT 20
AGI 49
DEX 38
VIT 15
LUC 25