さらに合流
翌朝、自由に移動できるようになったので早速街から出て近くの森へ。結構な距離になるので全員が走ったのだが、どう見ても人間止めてるだろって連中ばっかりなので十分ほどで着いてしまった。このまま地球に戻ったら各種スポーツの世界記録は全て塗り替えられてしまうだろう。
そして、リディがとある木の前で立ち止まる。ユージには馴染みのある木だった。
「これね」
「これ……ヘジの木?」
「そうよ」
「これで連絡を?」
「うん」
「まあ、任せるよ」
「任せて」
リディが皆に少し離れるように言うと、トンッと飛び上がり、実を一つ取って降りてきた。
「えーと、とりあえず私たちがレクサムに行くからそこで合流しましょうって連絡でいいのね?」
「そうだな……長谷川、ここからだとレクサムまで何日かかる?」
「んー、村田君のおかげで荷物を大量に運べるから無補給で行けるとして……十五日くらいか?」
「そんなに早く着くんだ」
「今の全員の速度なら。それに街にも寄らず一直線に行けるだろ?」
走る速度がリディの飛ぶ速度並みだな。
「と言うことで十五日後にレクサムで、と」
「了解」
リディが木の実を指でつまみ、「えいっ」とやると、実が光り始めた。俺、アレを食ってたのかよ……大丈夫か?
そして何かをささやき、そっと幹に当てると……スッと吸い込まれていった。
そしてすぐに幹が光り始め、枝が光り、葉が光る。ちょっとしたイルミネーションだ。そして、光が集まっていき、てっぺんからドンッと光が打ち上げられ、どこかへ飛んでいった。
「はい、連絡終わり」
「すごいな」
「伝えられる内容に制限があるけど、すぐに届くよ」
どういう魔法なんだと聞いてみたいが、どうせエルフの秘伝なんだろうな。
「ああ、クソ……どうにもわからんな」
「そうね。この部分なんて、本当に必要な部分なのかしら」
「おそらく相当な無駄がありそうだな……ん?」
「どうしたの?」
「通信が来るぞ」
「あら、これはリディね」
やがて開いた窓から光る球が飛び込んできてステラの前で止まる。
「やっぱりリディから」
トンッと叩いて球を開く。
「えーと『レクサム行く十五日』」
「レクサム?」
「こっちに来るって事かしら」
「十五日ってのは……」
「十五日後ってことかしら」
「フム……」
「もしかして、何かをつかんだのかも」
「なるほど……だとしたら」
「したら?」
「時間が惜しい、こっちから行こう」
「場所の見当は?」
「方角がわかっておるし、十五日かかるって事はだいたいあの辺だろうという見当もついた」
「さすがね」
「何、そっちの方角でヘジの木が生えているところなんてたかが知れている」
「へえ」
「何だ、知らんのか?」
「んー、あっちの方角……やだ、砂漠と高い山脈ばかりじゃないの?」
「はっはっは。苦手なところに行きたがらないのは昔っからだな。だが、そう言うのは良くないと何度も言ったはずだぞ?」
「はいはい。で、行くの?」
「無論だ」
簡単に荷物をまとめて外に出る。
「じゃ、行くぞ」
同時にシュンッと丸く風が二人を包み、浮上する。
「方角はこっちだな……行くぞ。少し揺れるが我慢しろ」
「はいはい」
ドンッと音を置き去りにして飛び出した。
「なかなか派手だったな」
「夜中だったら怪奇現象扱いで調査依頼がでそうだ」
「……何かひどい言われようなんですけど」
「リディ、気にするな。エルフの魔法のすごさに驚いてるだけだから」
「そ、そうなの?」
「元いた世界には魔法なんて無かったし、こう言うのを色々はやし立てたい民族性なんだよ」
「そう……うん、そうだよねぇ……えへへ」
きっちりフォローしている辺り、ユージもだいぶリディの扱いに慣れている。
リディには昨夜のうちに色々と話をしておいた。
俺が元は人間だと言うこと。そして、絵描きこと長谷川たちと同じ別の世界の住人だったこと。黙っていたのは悪かったが、信じてもらえるか自信が無かったと告げたら、とりあえず許してくれた。
フニフニ一時間で。チョロいと言えばチョロいのか?
「さて、それじゃ出かけようか」
長谷川の言葉に一同うなずき歩き始めようとして、ヴィルとリディが止まった。
「何かが来るな……恐ろしく速い」
「あー、多分……」
リディには心当たりがあるようだ。
「ああ、確かに何か来るな」
「え?どこどこ?」
「ほら、あそこ」
幹隆は直接目で見えているらしい。
「えっと……リディ?」
「何?」
「ちょっと避けた方が良さそうな感じ?」
「そうね」
全員が木の近くを離れて数秒、ドゴンッと言う轟音と土煙を上げながら何かが着地。数十メートルそのまま地面を滑りちょっと大きな岩に当たって止まった。
「痛てて……ちと勢いがつきすぎたか」
「年甲斐も無く張り切るからよ」
「何だと!俺はまだ若い!」
「この間二千五百歳になったでしょ!」
「むう」
土煙の向こうから聞き覚えのある声が聞こえてきた。
「リディの母ちゃんと……もう一人は誰?」
「母さんのひいおじいさんで魔法の師匠」
「二千五百歳か……」
「この間って言っても、百年くらい前よ?」
「エルフの基準はハンパねえな!」
ユージの突っ込みが伝わったのか、スタスタとこちらに歩いてきたのは二人のエルフだった。
「あらリディにユージさん、こんにちは」
「ども」
「よおリディ、じいちゃんだぞ。元気だったか?」
「うん、元気だったよ」
エルフの年寄りなんて気難しいかと思ったら意外に気さくな感じだ。
「それで、こちらがユージ。リディのいい人よ」
「ほう、なかなかいい面構えだ。ステラの魔法の師匠でもあるラルフだ。よろしくな」
「ユージです。よろしく……って、リディのいい人じゃ無いってば!」
「あ、スルーしなかった」
いい加減、諦めて欲しいんだけど……
「ところで……伝言だとレクサムで合流ってことにしておいたと思うんだけど」
「それなんだが、ちょうどそのレクサムの近くにいたんで、迎えに来た方が速いかなと思ってな」
「せっかちなじいさんだな」
「そうなのよ。生き急いでる感じで早死にしそうで心配なの」
生き急いで早死にするエルフ……新しいな。
「さて、そっちも色々あったようだが……こっちも色々あるぞ?」
ラルフが一同を見渡して言う。いろんな種族の混成もここまで来ると、何もなく平穏無事な旅でしたとは思うまい。
「そうか」
「フム。込み入った話をするなら街に戻るか?」
「いや、どうせレクサムに行くんだろ?なら、今から行こうか」
「え?」
「ほれ、集まれ。行くぞ」
慌てて全員がラルフの周りに集まる。
「行くぞ!」
かけ声と共に空へ舞い上がる。この人数を運ぶとはかなりの魔法の使い手だ。
「出発!」
いきなりトップスピードまで加速しやがった。
「ひゃああああ!」
「うわああああ!」
「ひいいいいい!」
そして、リディが飛ぶより十倍以上は速い。ぶっちゃけ音速を超えている。
「はっはっは!もうすぐで着くぞ。着地のときに舌を噛まないようにな」
「待て!着地ってさっきみたいな感じか?」
「そうだぞ」
「ええええええ!」
「おいいいいいっ!」
それぞれが――エルフ以外――悲鳴を上げている中、あっという間に地面が迫り、ドガンッと地面を抉り、勢いそのままに地面を滑り始める。激突の衝撃はさほどでは無かったが、すぐ目と鼻の先で地面が抉られていくのを見せられるのはなかなか心臓に悪い。
いろいろな物を吹き飛ばしながら地面を滑り、しばらくして止まった。
「これ、毎回地面を抉るのかよ……」
「はっはっは」
「一人の時はもう少し静かに下りるのよ?」
「どうしてそうしない?」
「垂直に落ちてクレーターを作りたい?」
「遠慮します」
それでも静かな方なのか……
抉られた地面を少し戻る。
「さて、これが俺の……い……え?」
「瓦礫の山だな」
「えーと」
「今ので」
「衝突&破壊ってことか」
全員がラルフをジト目で見る。
「ま、まあ……こんな時のために!復元魔法!トォッ!」
何やら唱えてエイヤと腕を振るうと、瓦礫の山が逆再生のように戻り、家の形になる。
「これがエルフの魔法!叡智の結晶!」
「その叡智とやらで壊さない着地は出来なかったのか?」
「そうだな。今後研究しよう」
何年かかるんだろうか……