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転移


 幹隆と茜がユージがリディの手の上に残ったままだと気づいて騒ぎ出す。


「あー、俺、こっちに残るから」

「何で?!」

「私たちの中で、一番頑張ったの、ユージじゃないの?!」

「まあ、それはそうかも知れないけど、俺……戻ったらどうなるんだろうって考えたんだ」

「どうって……」

「俺、日本では既に死んでるだろ?」

「あ……」

「戻る過程で体が無いからいきなり死ぬか、ハリネズミとして戻るか。ハリネズミとして戻ったとき、今のままなのか、それともただのハリネズミになっちまうか」


 まともに戻れる可能性はかなり低いだろうな。


「あ……」

「それ……は……」

「俺、魔物としては結構強くなってるから、こっちにいるぶんには長生きできるみたいなんだ。戻るリスクがでかいことを考えるとこっちに残る方がいい。俺の家族とかへの伝言は長谷川に任せた」

「ああ、任された」

「それに、皆を送り出したあと、ここを壊してその後を見届けるのも大事だし」


 そう、これ以上同じ思いをする者を生み出さないためにも。そして、あえて残した五人に報いを受けさせるためにも。


「あとこっちに残る八人にも話はしてある。何かあったら俺を頼れって……ハリネズミに頼るのもどうかって気がするけどな」


 アハハ、とユージが笑う。


「えと……あの……ユージ……じゃなくてユージさん!」

「おう」

「色々ありがとうございました!」

「え?」

「だって、そうでしょ。ユージさんが色々動いてくれたからこうして戻ることが出来るんだ」

「そうそう」

「だから、ありがとう!」

「そっか……そう言ってくれるなら、頑張った甲斐(かい)があったな」

「ユージさん、それにリディさん、ラルフさんにヴィルさん、ステラさん、ティアさんにそのご家族の皆さん……それからえーと、えーと」

「ミキくん落ち着いて」

「あ、うん……その、皆さんありがとうございました!」

「「「ありがとうございました!」」」


 全員が声を揃え、頭を下げる。


「どういたしまして。じゃ、俺から一つだけ。戻っても頑張れよ」

「「「はい!」」」

「ま、こっちでの生活に比べればあっちはぬるま湯みたいなもんだよな」

「あははは」

「そうかも」

「そうだね」


 一通りの挨拶を終えたところでラルフがトン、と杖を突く。


「さて、準備は良いか?」

「「「はい!」」」

「では魔法陣を起動しよう」


 ラルフが作業にかかったところで、一人が騒ぎ出した。


「冗談じゃねえ!俺は残る!残るぞ!」

「竹本!黙れ!」

「俺は残る!」


 気絶させていた竹本がよりにもよってこのタイミングで目を覚まし、騒ぎ出した。全くこんな時まで面倒な奴だ。


「む……どうする?」

「ラルフ、続けてくれ」

「お、おう」

「リディ、奴の正面まで行ってくれ」

「ん、わかった」


 リディが魔法陣の縁ギリギリに立つ。


「竹本だっけ?お前……黙れよ」


 ドスッ


「うがっ」


 弱めに調整した電撃針を数発撃ち込むとさすがに大人しくなる。時々、ビクン!と痙攣するのがとても気持ち悪い。


「転送魔法陣、起動するぞ」


 ラルフの声と共に、魔法陣がぼんやりと光り始める。


「んーー!!ん--!!」

「ム!ム!」


 生贄と残される者達が必死に何かを訴えるが、無駄なことだ。


「第一段階から第二段階へ」


 ヴィルの言葉と共に、生贄たちの床が強く光り始める。


「魔力変換開始」


 同時に生贄たちの体が光り始め、やがて光の粒になり、床の魔法陣に吸い込まれていく。そして、吸い込むたびに魔法陣全体の光が強くなっていく。


「第三段階へ」


 さらに光が強くなり、転送される全員のいる場所に光の柱が生まれる。


「三、二、一……」


 生贄の最後の一人が消滅した。


「転送開始」


 室内が真っ白になるほど光が強くなり、消えた。




「あああああ!」


 残された国王たちが騒ぎ出した。まともに体は動かせないが、明らかに敵意を持った目でユージたちを睨み付けてくる。


「お前の家族は……消滅した。おそらく死んですらいない。天国なんて行けるわけが無いが、地獄にすら行っていない。お前らが今までにやったことが、これだ」


 ユージが冷たく告げるが、睨む目は変わらない。人にされてイヤなことはしてはいけませんって親に(しつ)けられていなかったんだろうな。


「お前たちはこれから……生き地獄を味わうことになる。覚悟しておけ。今まででかい顔をしてきた分、隣国は優しくないぞ?」


 そう告げると、リディを促し魔法陣へ向かう。


「ヴィル、そいつらを外に引っ張っていってくれ。俺はここを破壊する」

「わかった」


 ヴィルが縄で繋いだ連中を引きずっていくのを見送ると、改めて魔法陣に向き直る。


「婿殿、これも一緒に」


 ラルフが紙の束を魔法陣の中央に置く。


「今回の解析の時のメモだ。どうせ使わんし、燃やした方が安心だろう?」

「ありがとう……ところで、婿じゃ無いって何回言えばいいかな?」

「そうだな、婿殿が諦めるまでかな?」

「そりゃ大変だ」


 ラルフたちも去り、部屋に残ったのはリディとユージだけになった。


「リディ、色々ありがとうな」

「ユージ。これでおしまいって言い方やめて」


 リディがジト目で見てくる。美少女エルフのジト目とか、特殊な性癖ならそれだけでご飯三杯いけそうだが、ユージにそんな物は無い。


「スマン。だが、一応区切りとして言っておきたくて。色々巻き込んじまったかなって」

「そう……かな?」

「え?」

「ほら、腐り神の原因、突き止められたんだし」

「あ、そうか」

「だから、エルフを代表してお礼を言わないとね」

「はは」

「で、お礼として私とけっ「それはいいや」

「ちぇ……」


 ハリネズミって、結婚相手として魅力的なのかね?


「じゃ、破壊するか」

「ん、わかった」


 ユージが爆発針と振動針を混ぜて撃ちまくると、ラルフの置いていった紙があっという間に燃え尽き、床に描かれた魔法陣が粉々に砕けていく。


「よし、ドアまで下がってくれ。天井と壁を壊す」

「わかったわ」


 5分もかからずに魔法陣は跡形も無く破壊され、召喚を行った部屋も原形を留めていない。


「ん、ヤバい」

「え?」

「ちょっと調子に乗って壊しすぎたかも」

「えっと、どういうこと?」

「この建物全体が崩れる!」

「逃げるわよ!」

今回ちょっと短いですが、話の区切り的にこうなりました。

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