合流
「レクサムへ?」
「そうだ。勇者召喚という……意味が無い行為をやめさせるためにな」
「でもどうやって?だって……魔王を倒すという目的があるんじゃ?」
「魔王なんていないぞ」
「「「え?」」」
長谷川の言葉に一同がポカンとなる。
「実際に確認してきたからな」
まあ、予想していたことだが……
「詳細はまた追って話すから簡単に。魔族は十二の国に分かれていてそれぞれ民主主義国家として運営されている」
「民主主義?」
「そうだ。国の形態は様々だが、トップやそれに準ずる議会、そう言った者たちが選挙のような形で選ばれる」
「へえ」
「そして、比較的平和に治められているが、国ごとに考え方の違いはあるから、ちょっとしたいざこざはどうしても起こる。そこで、その十二ヶ国の中から一人、調停者とでも言うのかな?そう言う者が選ばれる」
「国連みたいなもんか?」
「そうだ。で、その調停者は十年に一度選ばれるんだが、便宜的にこう呼ばれるんだ。魔王と」
「……魔王は確かにいたんだな」
「ああ。だが、その魔王も民主的に選ばれるぞ」
「民主的に選ばれた魔王……威厳とか無さそうだな」
「確かに。実質的に何かの権限が有るわけでも無く、国同士でちょっとトラブったときに、『まあまあ、ここは一つ俺の顔に免じて』とかやるだけだからな。面倒な仕事ばかりだ」
不意にローブの人物が口を挟んだ。
「えっと……もしかして、もしかすると……」
「塚本君、正解。こちら、今の魔王」
「改めて名乗らせてもらおう。調停者のヴィルム・ダルムデンだ。ヴィルと呼んでくれていい」
「ちょっとだけ、厳つい顔してるから、フードの中身はまた今度で」
「「「はあ……」」」
さて、色々とこんがらがってきたな。
「質問、魔王が生まれたって言うのは?」
「彼が調停者になったのは五年前。先代の調停者よりも魔法の素質があり、頭脳明晰で優秀だと評判だってさ」
「それを、王国の諜報員が勝手にスゴい魔王が誕生したって勘違いしたって事?」
「そうだね」
ダン!と幹隆がテーブルを叩く。割らない程度に加減して。
「そんな適当な憶測で!生贄とかそう言うのも!」
「そうだな……ん?生贄の実態をどこまで掴んでる?」
「五十年程前、王宮魔術師だったエドガーという人物に会いました」
「そうか……って、五十年前?」
「知らない間に生贄扱いされて……魂だけ残ってゴーストになってました」
「ゴーストに?それで五十年も彷徨っていたのか」
「いえ、気付いたのはホンの少し前だそうで」
「えーと……タイムトラベル的な感じ?」
「みたいですね」
「フム……勇者召喚の儀式で五十年未来に飛ばされたと言うことか……」
「どうも、生贄にする人数が多すぎると魂が余るんじゃないかって」
「元々がおぞましい魔法だから……そう言うこともあるんだろうな」
色々と情報が多すぎると、少し長谷川が首を捻ったところで、唐突に声が聞こえた。
「勇者召喚とか生贄とか五十年過去から現在とか、そこんとこ詳しく」
「え?」
「誰?」
「今の声、どこから?」
慌てて周囲を見るが、人払いの魔法のせいで近くに人はいないようだ。
「えーと、誰でもいいや。お約束の台詞を頼む」
謎の声が続く。
「お約束の?」
「台詞?」
はてなんだろうと思ったら、塚本が手をポンと叩く。
「わかった!」
え?わかったの?と一同が塚本を見ると、スッと額に指をあてて一言。
「コイツ、直接脳内に?!」
「正解!」
「やったね」
「褒美に俺の居場所を教えよう。テーブルの下だよ」
「下?」
全員がテーブルの下を見ようとしたところに、割り込んでくる人物がいた。
「ユージ!こんな所に!もう……ごめんなさい、勝手にこんな所に来ちゃって」
すみません、と謝りながらテーブルの下にいたハリネズミを抱え上げるのはエルフの女性。
「リディ、待ってくれ」
「何よ?」
「こいつらだ」
「え?」
「ってか、そこ。そこにいるのが俺たちの探していた絵描きだ」
「え……あ!」
なるほどと、うなずくリディと呼ばれたエルフ。
「スマン、君たち……誰?」
「ですよねー」
長谷川の質問にハリネズミが顔を向けると声が聞こえた。
「これ……そのハリネズミの念話?」
「あ、ハイ。えと……」
「続きはWebで!」
「ユージ、うえぶって何?」
「はっはっは!」
「いや、自慢げに笑われても」
「スマン、何か色々情報が多すぎるんだが……」
「それはまあ……そうだな」
「場所変えて落ち着いて話そうか」
「賛成」
「賛成」
「さすがにここで話すのはやめた方がいい内容でしょうね」
「賛成の賛成」
「中山、それ意味わかんない」
「がーん」
ユージはそんな連中を横目にリディに告げる。
「こいつら、結構楽しい奴らかもな」
「そ、そう?」
相変わらずエルフ以外がグイグイ来るのは苦手みたいだな。ま、話すのは主に俺だろうけど。
「えーと、それぞれ、宿はどこなんだ?」
「ここ」
「ここだな」
「お前らは?」
「ここ」
えーと
「「「全員ここか!」」」
「偶然?」
「偶然?何を言っている、必然だ」
「これが世界の選択か……」
「ククク……前世からの因縁だよ……」
若干名、おかしなのが混じってるな。
「単にこの宿が一番大きくて部屋数があるからでは?」
「ですよねー」
とりあえず、長谷川が一番大きな部屋を取っているので、そこに移動することにした。ついでに注文したメニューは部屋に運んでもらうことに。
「なんで、こんなでかい部屋を取ったんだ?」
「いや、ここしか残ってないって言われてな」
「長谷川様、いつ宿を取ったので?」
「ん?ああ、緊急クエストが終わって帰ってきてからだ」
「一番遠くまで行っていたから戻ってくるのも遅くなって、空いているのはこの部屋だけだった、と言うことなんですね」
「そういうことだな」
やがて、幹隆たちの食事が運び込まれ、何となく食べながらの話となる。
「ユージはもうお腹いっぱい?」
「ヘジの実があったら二、三個食いたいな」
「ん、じゃあこれ」
ユージがテーブルの上でコリコリ食べ始めると日本人たちが注目する。
「……そんなに見つめられると食べづらいんだが」
「いや、なんて言うか……」
「うん」
「食べ方が」
「かわいいよな」
「中身がおっさんの域にいる俺としてはかわいいと言われるのは何か微妙なんだけど」
「でも、その見た目だもんな……」
「バカ、それを言ったら、ほれ」
「ん」
「村田もなかなか」
「え、俺?!」
モグモグしながら幹隆が周囲を見る。
「狐耳美少女がものを食うだけ、とか金取れるレベルだろ」
「くっそ、なんでこっちにはネットもスマホも無いんだ!」
「賑やかな連中だな」
「それなりに深刻な状況のハズだが、この明るさはある意味救いだな」
長谷川とユージ、二人の大人に高校生たちは少しまぶしく見えていた。
「さて、何から話そうか」
落ち着いたところで長谷川が切り出す。
「異世界からの召喚。生贄があること。召喚によって色々起きるらしいこと。魔王のこと……」
指を一つずつ立てていく。
「はい!」
ユージが必死に前足を出す。当然だが上に上がらないので、プルプル震えているが。
「えーと、ユージ、意見をどうぞ」
「まずは自己紹介しないか?」
そう言われれば、自然な流れで一緒のテーブルに着いているが、互いに「誰?」という空気が漂っている。
「それもそうだな」
「じゃ、言い出しっぺの俺たちから。詳しくわからないが気付いたらここでこんな格好になって二ヶ月ほど暮らしてる近藤雄二。ユージと呼んでくれ。こっちは色々あって一緒に行動している、エルフのリディだ」
「ども」
長谷川が続く。
「長谷川昭文だ。三年前にこっちに召喚され、色々あって城から脱走。ちなみに、どこにでもいる普通の錬金術師だ」
「オーガを一刀両断するだけじゃなくて、二、三時間で七十匹以上倒せるのは普通の錬金術師とは言わないと思うが」
「自覚はあるからスルーしてくれ」
自覚はあるんだな。
「どこぞの街で日本の風景を絵に描いて残したのも長谷川さんだろ?」
「ああ、あれか」
「絵?」
「うん。追っ手を撒きながら魔族の国に行く方法を知っているらしいと聞いてね。絵と引き換えに情報をもらった。これでも一応小学校の頃に絵のコンクールで賞をもらったこともあるんだ」
「アルタスの領主ですか?」
「そうだ」
ティアの問いを肯定する。
「何て言うか……お互いに結構近くでウロウロしてたんだな」
「みたいだな」