どうも、ヒロインです。悪役令嬢に惚れました。え、攻略対象者?知らんがな。
一途な悪役令嬢って可愛いですよね
私、何故女性に言い寄られているのかしら…。
はじめまして、こんにちは!私、しがない男爵家の末っ子、ユーナリア・ハーミットです!そして、この「百合恋」の世界のヒロインです!
私には前世の記憶があります。前世の記憶では、私は地球の日本に住む極普通の女子高生でした。趣味は乙女ゲーム…の、悪役令嬢を愛でること。いやぁ、正直言って婚約者がいるのにヒロインに気が移るようなろくでなし共より、そんなろくでなし共に健気に愛を誓う可哀想な悪役令嬢の方が好きなんですよね。
で、そんな私は不幸にも不慮の事故に遭い、気付けば一番のお気に入りだった「百合恋」のヒロインに転生していました。といっても赤ちゃんの状態で転生したわけじゃなくて、ちょうど私が学園に入学する一週間前に記憶を取り戻したんですが。
ということで、今日も今日とて悪役令嬢、公爵令嬢リオナ・オルティス様に愛を伝えに行きます!
ー…
ご機嫌よう。私、リオナ・オルティスと申します。公爵令嬢ですわ。最近私には悩みが二つありますの。それは婚約者である王太子、アルフォンス・アルカンシエル様との仲が上手くいっていないこと。そして、そのアル様が真実の愛に目覚めたと仰る相手、男爵令嬢ユーナリア・ハーミット様に言い寄られていることですわ。
ええ、はい。ユーナリア様は女性なのですが…。そのことで更にアル様は私を邪険に扱われます。私がお慕いしているのは、アル様お一人なのに…。ですが、曰く氷の妃と評される、あまり感情表現の得意ではない私にとって、唯一の友達とも呼べるユーナリア様を蔑ろにする気は起きません。
そんなこんなで、今日も今日とて、ユーナリア様は私に愛を囁きます。
「リオナ様!好きです、愛しています!」
「ユーナリア様、ありがとう。貴女のおかげで、私は孤独を感じずに済みます。でも、私の心はアル様のモノなのです。どうかご理解なさって」
「もちろん、リオナ様に迷惑をかけるつもりはありません!…でも、正直あの男はどうかと思います。それでなくても優秀で美しいリオナ様に劣等感剥き出しな上、自分は顔だけしか取り柄がない癖にリオナ様の揚げ足をとるし。しかも私のようなしがない男爵令嬢に『真実の愛』とか気持ちの悪いことを言ってくるし。リオナ様の悪事をでっち上げて私を婚約者にすげ替えるつもりみたいだし」
「…え?」
「あ、もちろん私がそんなことさせません!あの顔だけ王太子の周りのバカ男共も私狙いみたいなので、その人達に王太子の動きを抑えてもらってます!」
…アル様が、私の悪事をでっち上げる?
「…それは、本当なの?」
「はい、もちろんです。リオナ様に嘘は吐きません」
たしかに、ユーナリア様はいつも正直です。たまにオブラートに包んで欲しいこともありますが…。
「じゃあ、本当にアル様は…」
私を、邪魔だからと言って無実の罪で貶めようと…?
「はい。証拠もありますよ」
「え?」
これを、とユーナリア様が差し出してくださったのは魔法石。魔力を込めることによって映像を収めたり、映し出したりできる物です。
「これに、リオナ様がやってもいない私へのいじめ…例えば、この魔法石の場合私の教科書に罵詈雑言の落書きをしたりとかですね。そんな映像が映っています。もちろん映像を改竄した魔力はあのアホ王太子の魔力です。…周りのバカ男共に命じる頭もなかったみたいですね。これを教会や王家に差し出せば、自ずとリオナ様の置かれた今の状況がわかるかと」
「…」
「それでも、あのアホ王太子を庇われますか?」
…私は、ずっとずっとアル様が好きでした。幼い頃、感情表現が苦手な私が、他の貴族の子供達から遠巻きにされていた時、唯一私に手を差し伸べてくださったアル様。婚約者に決まった時、嬉しいと言って「これからは僕が君を守るよ」と誓ってくださったアル様。段々と私を邪険にされるようになってからも、いつかは昔のアル様が戻ってきてくださると、それだけを信じて仕打ちにも耐え、頑張ってきたのに。…アル様は、そんなにまで私がお嫌いでしたのね。
「…。これ、私が預かってもいいかしら」
「ダメですよ?」
「…え?」
ユーナリア様ならすぐに預けてくださると思ったのに。
「だってリオナ様、これを持って自首するおつもりでしょう?リオナ様が私を虐めた証拠だって」
「!」
「そうすれば晴れてあのアホ王太子の望み通りですもんね。でも、それってリオナ様の幸せは?私の意思は?…そもそも、本当にそんなことであのアホ王太子の望み通りになりますかね?」
「え?」
「だって普通、『真実の愛』ごときのために男爵令嬢を国母にします?」
「…あ」
「リオナ様。リオナ様は今疲れているんですよ、そんなこともわからないくらいに。…私で良ければ、側にいますよ。リオナ様の、心の支えになります。…ですから、ね、リオナ様。少し学園を休みませんか?」
「でも…」
「どうせ王太子の婚約者としてのお立場を捨てるおつもりなら、いいじゃないですか。私もご一緒しますから。ね?」
「…いいのかしら」
「もちろんです。さあ、早速校長室へ乗り込みましょう!」
ー…
結論から言うと、私とリオナ様の休学申請はあっという間に受け入れられた。どうもリオナ様とアホ王太子の仲が上手くいっていないこと、私がアホ王太子に付き纏われていることは公然の秘密だったらしい。上手く逃げ切れと校長先生がウィンクしてくれた。私とリオナ様はそのまま公爵家に向かって、馬車を走らせた。
それから月日は流れてはや一年。私はリオナ様の希望でリオナ様と一緒に、公爵家で人目を避けて暮らしてきた。アホ王太子の浮気…って言っていいのか微妙だけど、まあ心変わりがあったのは事実で。しかもリオナ様を陥れようとした証拠も私が持っていたため、公爵様がカンカンに怒ってアホ王太子有責で婚約破棄してくれた。国王陛下からリオナ様へ謝罪の言葉もあったらしい。公爵様はアホ王太子を王太子の座から引きずり下ろし、第二王子殿下をアルカンシエルの新しい王太子とした。その後のアホ王太子の話は耳に入って来ないから、多分それ相応の報いは受けたんだと思う。リオナ様を第二王子殿下の婚約者に、という話もあったらしいけど、第二王子殿下には相思相愛の婚約者がいたためなかったことになった。リオナ様は、いくらアホ王太子の有責とはいえ、『王太子に棄てられた公爵令嬢』になってしまったため、この一年まともな婚約者候補が上がっていない。ただ、傷モノの娘をもらってやる、とか上から目線のバカ男共は公爵様に叩きのめされていたので私としてはすっきりだ。
「ユーナリア様、今日のおやつはスコーンよ」
「ありがとうございます、リオナ様!」
リオナ様は、アホ王太子との婚約破棄が確定してからというもの、私を溺愛し始めた。多分、心の隙間を埋めたいんだと思う。リオナ様、あのアホ王太子のこと本当に好きだったからなぁ。無理もない。
「リオナ様」
「なあに?ユーナリア様」
「大好きですよ」
「あら、嬉しいわ。私もよ」
ともかく、今日も今日とて私はリオナ様に愛を捧げます!
はたしてリオナはこれで幸せなのか微妙なところ。ごめんねリオナ。