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第1話その9 『テミスの審判』

「ささ、どうぞお乗りください。我が国自慢の一番馬になりますので」


 どうぞどうぞ、と王様が俺に促すのだが、いかんせん俺は根っからの車乗り。馬? になど一度も乗った試しがないのでどうにも初めの一歩が踏み出せない。


「あー、大変お恥ずかしい話なのですが、私は馬? には一度も乗った試しがなく、一人で乗って操縦しろとおっしゃられても慣れるまでに時間を頂くとこになると思うのですが……。何か他の移動手段はありませんか」


 そもそも、こうして迎えに来る場合は普通は馬車でくるものではないのだろうか、となど考えてしまうのは俺がまだこの世界の常識についていけていないからなのだろうか。


 すると王は笑った。


「はっはっは。どうぞご安心を転生者様。天馬の導きは我々が勤めますので、それにコイツはとても賢い奴ですので暴れ回ることはありません。どうぞ跨り手綱を握りください」


 それでも俺が少し戸惑うと、るしはーちゃんが背中を押してくれた。


「安心しなよ優流男。王の言う通りに試しにまたがってみるといい。コイツは天馬と言ってこの世界の貴族御用達の人を運ぶ事に特化している生き物さ。地球で言うところのリムジンみたいなモノだね。操縦についてはあっちのお付きの彼が魔法で導いてくれるから何も怖がる必要はないぜ。ぜひ道中を楽しむといい」


「そ、そう言うモノなのね。わかったよ、今生初の馬乗りチャレンジしてみるよ」


とは言ってもやはり生き物と車とではギャップって奴があると思うのだが。しかし跨ってみるとがっしりとしていて物凄く落ち着いた。


よく手入れもされているのだろう、毛並みもすべすべで触り心地がいい。匂いはどこか土臭さを感じさせるが悪いものではない、生き物だ。確かに生き物の匂いがした。


「うむ。どうやら気に入って頂けたようですな。では出発を頼む」


「はっ!」


 王の号令と共に、天馬は翼を羽ばたかせ空を舞った。


「うぉおっ! と、飛ぶぅ!」


 流石に飛び始めると手綱に力強く引っ張られ体制が崩れる気がして冷や汗がでる。バサバサと羽ばたく音が強い。向かい風の圧も感じ、若干肌寒い。


 同じ飛ぶ魔法とは言っても、るしはーちゃんとの飛空デートとは格が違うのだろうか。


「なあ、るしはーちゃん。これもただ乗ってるだけではなくて魔法が掛かった飛行方法なんだよな?」


「んー? そうだね。基は同じ飛行魔法だぜ。どうしたい優流男」


「いやさ、言っていいのかわからんけども、随分と質が違ったモノでよ。なんて言うか肌寒かったり騒音がしたりと……あんまり悪く言っちゃならんけどもね、ははは」


 腕の中に収まるるしはーちゃんは俺を見上げると、得意気にふふんと鼻を鳴らした。


「まあ伊達に女神してないからね。その通りさ、私と彼とでは格、つまりレベルって奴が違うのさ。私としてはこの不出来な未熟さが結構好ましいものではあるけどね」


「不出来って、結構言うね……。それにレベルか。それはどう言ったモノなんだい?」


「んー、この場合の違いは熟練度だね。魔法って最初から何から何までできるってモノでもないからさ。その魔法をどこまで理解しているかって違いだね」


「へー、この場合ってことは他の違いもあるんだ」


「────ですなぁ!」


「悪い、るしはーちゃん。ちょっと王様に応答するぞ」


「もちろん構わないよ優流男。また後で続きを話そう」


 るしはーちゃんとの会話に夢中になっていると、また王様の話を聞き逃してしまったらしい。もとより風のせいであまり聞き取れるモノでもないからやむなし。俺は声を張り上げて返事をした。


「はい!? 申し訳ない、今なんて?!」


「本日は全くの快晴でありますなぁ! 我が国2000年を迎えるに実に相応しい晴々とした気持ちの良い日であります! 転生者様は如何ですかな!」


「ええ! とても良い日だと思いますよ! そして良い国なのでしょう、先ほどから国の人たちがこちらに手を振って歓迎してくれていますよ!」


 飛び始めてからずっと、下の方で旗を振る人々があちらこちらに見えていた。世界が変わっても人の基本も変わりはないらしい。


「うむ! それは良かった! さて眼前に見えて来ましたアレが我が城になりますぞ!」


「おお、アレが……」


 それは絵に描いたような城だった。どこぞのテーマパークやら偶にテレビ番組で見るような、そんな城だった。外見は石造で屋根はとんがっている。


「ははは、んなコテコテなマジもんの城ですって顔してる奴があるのか。ははは」


 俺がツボに入って笑っていると、王様は剣を掲げて合図をした。


「開門ー!」


 号令に続いてガラガラと音を立てて門が開いたのだが、その光景に俺は驚いた。なんと人の20倍は超えるだろう大男が2人で門を開けたのだ。巨人だ。巨人がいたのだ。


「おおお!? なんだアイツら! でっけー!」


「アレは巨人族だね。日本で言うとダイダラボッチって呼び名が有名かな?」


「あ、ああ。流石にボッチでも巨人でも何でもそこはわかるけど、でっけー! こんな奴もいるんだなるしはーちゃん! ていうかそこは人力なのかよ! はははは!」


 空を飛ぶ魔法はあるくせに門の開閉を行う魔法はないモノなのか。地球とくらべ、便利なのか不便なのかよくわからん世界観であると思う。


 そんなことを考えていると、王は天馬から降り俺の方へと寄って来た。

 

「さあ着きましたぞ転生者様。どうぞ中へお入りください。式典の用意は整っておりますゆえ」


「式典?」


「はい。魔王討伐参加への式典にございます。ささ、どうぞ中へ」


「魔王討伐!?」


 どうなってるんだこの国は。転生して間もない人間に魔王を倒せ? 桃太郎じゃあるまいし馬鹿を言うんじゃない。魔王っていや悪の大王、魔物の王様。命懸けの旅路になることは容易に想像はつく。


「なあ、るしはーちゃん。これは一体どういうことなんだ? このまま先に進んでも俺は大丈夫なのか?」


 俺は入り口の前に立ち止まり、るしはーちゃんに答えを求めた。ここまで彼女は全てを知る素振りを見せてきた。きっと彼女に尋ねればこの問題は解決するだろうと思って。


「大丈夫だよ優流男。ここまでは本来どの転生者もが通る道さ。式典に出て魔王討伐の旅路へ出ろと命じられたとしても、それが君の願いを固定させることは無い。絶対だ、私が保証する」


 そういうと、るしはーちゃんは俺の頭の上に乗っかった。


「……そっか、わかったよ。それなら前に進むとしようか」


 彼女が力強く言うものだからそこは疑わずに身を任せることにした。


 城の中には巨大な女神像が2つ階段を挟み、そこを登って王様と並んで席に着く。眼下にはなにやら甲冑に身を包んだ兵士たちが剣を構えている。音楽隊が動き出し、式典が始まった。


 俺は引き続き小声でるしはーちゃんに相談をした。なるべく俺が話しかけられた時に対応できるように細心の注意をはらって。


「何か気をつけた方がいい事とかあるのか? 今のうちに確認をとっておきたいんだけど」


「ふふ、随分怖がらせてしまったようだね優流男、ごめんよ。いきなり魔王討伐なんて話になればそれも無理はなかったね。しかし安心して欲しい。これは一種のレクリエーションとでも言おうか、この国なりの転生者を迎え入れる為の儀式なのさ」


「ほら、アレ」と言われた先を見ると、天秤を持った人物が膝をついた。


「アレは正義と悪を推し量る魔法の天秤さ。アレの決定に従って、晴れてこの国が優流男を迎え入れられるのさ」


「正義と悪か。……まあ大丈夫なんだろうけど悪の方向に傾く気がして不安だな」


────俺は人を殺してこの世界へとやってきた。地球では人を殺す事は、なにより未来ある若者を殺す事は"絶対悪"であるから俺はやはり"悪"なのだ。それは世間が認め家族が認め、そして何より俺自身が俺を"悪"だと認めた。


 法の下に従って定められた罰を受け入れた。世で決められた最大限の償いをしたつもりではいる。けれども俺には償った後の世間の声が届く事はなかった。


そんな俺が正義と悪を決める魔法にかけられれば、もちろん"悪"であると決定されるに違いないはずだ。少なくとも俺が俺の善悪を決定するなら"悪"とする。



 でもるしはーちゃんは、女神ルシフェル様は俺に微笑んだ。俺を抱きしめ赦しの言葉をくれた。



 ありがたかった。暖かかった。



 今だって俺の膝の上にのり、震える両手に優しく手を重ねてくれる。押さえつけてくれているのだ。俺がここから逃げ出したい気持ちに負けないように。


 支えてくれているのだ。俺が天秤の決定に押しつぶされないように。


「────大丈夫さ優流男。この世界は君を受け入れる」


「……っ! ありがとう…………ありがとう………………っ!!!」


「女神テミスの審判の下、いま決定は下された! 此度の転生者様は"正義なる者"であると! よって魔王討伐軍参加への認定を王より賜る!」


「うむ! 認めよう!!!」


 魔法の天秤は正義の方へと傾いた。

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