第1話その3 『転生開始』
「女神……? 次の世界への入り口???」
(何を言ってるんだろうこの姉ちゃんは)
俺が目を覚ますと目の前には美女がいた。
周りはとても真っ暗でどこが上かも下かもわからない。どうやら無重力空間いるようだ。だけど目の前の美女はその後ろから神々しい光に当てられて俺の前に姿を曝け出している。
美女の姿は、髪は金髪で若干ウェーブがかかっていて睫毛も長くてお目目もキラキラで吸い込まれそうになる。
服はワンピースか? 女性物の名前はよく知らんからわからんがカーテン生地みたいな柔らかさを感じさせる一枚布っぽい。
加えてハリウッド女優とか一流モデルとかやってますって言いたげな感じの抜群のスタイル。
マジでずっと見続けたくなる様な容姿端麗を絵に描いたべっぴんさんが俺の前で足をパタパタと遊ばせていた。なるほどこれは女神だわ。
俺を見下げる位置にある彼女が足を動かすたびにスカート部分の奥の世界が気になってしょうがない。
「……どうしたのかなずっと私を見つめて。まさか妻がありながら他の女性に一目惚れしましたとか言うんじゃ無いだろうね」
あはは、と笑って見せる彼女の一言で我に帰り、俺は現状を思い出す。
「……いないんだ、もう。俺は妻とは離婚済みだ、それに娘も…………」
(そうだ、俺の記憶が確かなら事故を起こして妻と別れて…………)
「あ!? そういえば死刑だろ俺は? なんだよこれ、なんかのドッキリか? 死んだんじゃ無いのか俺は???」
美女に見惚れてまともな思考回路も機能を停止させていた様だ、いかんいかんと首を振る。
「うーん、話が全く進まない。仕方がないから私が強引に話を進めよう。ここからは聞き流しちゃあダメだからね☆」
(ウインクと一緒に星が溢れた気がするんだが突っ込んだ方がいいんだろうか)
女神さまは俺を無視して話を続ける。
「君の、華桜司 優流男の現状を簡単に説明をするとね。君は24時間365日、日本中の隅から隅へ誰かのためにお国の為に誰よりも精一杯にそれこそ身を削る思いで、粉骨砕身、不眠不休で働いて居たんだけれど、ある日の夜、高速道路を走行中に自転車に乗った少年を轢き殺してしまったんだね。それを機にそれまでの37年間の華やかな活気溢れる生活が嘘のように一転して、誇りを失い、社会的地位を失い、家族すらも失って、そして耐えきれなくなった君は自ら死刑を望み、それが実行されたと言う訳だ。わかったかな」
「じゃ、じゃあ俺は確かに死んだんだな? これはなんかのドッキリ番組とかじゃなく、マジで死んで、ここに居るんだな?」
「そうともさ、君は死んだ。罪の意識に耐えきれず、いやいや、償いきれない罪を少しでも償おうと君は立派に刑に処されたのさ。罪を償ったのさ。これは当たり前の事なんだけれど、それでもなかなか他の人間に実行できるものじゃないよ? 意外とこういうものって最後の最後まで自分の非を認めずに足掻くのが多いもんさ。それに比べて君は立派な人間さ、人間だったさ。よく頑張ったよね、私は認める」
「ぐすっ……、あ、ありがとう、ございますっ!!! ありがとうございますっ!!!!!!」
自分よりも見た目が若い女性に絆されて俺は無様に泣きじゃくった。
(ああちくしょう。なんだよこんなの、どうして生きてる間にコレが貰えなかったんだ。ああちくしょう、ちくしょう……)
女神は最後に締めくくる。
「罪人、華桜司 優流男。 汝は見事罪を償った。それをここに、女神ルシフェルの名の下に認めよう。汝の罪は赦された、よって魂の転生をここに認める」
「はぇ、た、魂の転生? ってなんすか」
「ふふ、ようやく追い付いたね優流男。それが私の用件だったって訳さ」
ルシフェルは俺の頭をそっと撫でた。人? ヒトに撫でられるなんていつぶりだろう、その優しさにまた涙が溢れてしまう。
「おやおや泣き虫さんなんだね。ふふふ、それは優しい心を持ってる証拠さ、恥じる事はないからね。存分に誇りにすると良い」
ルシフェルは俺を優しさで包みながら話を続けようとする。
(いかん、このままじゃ赤ちゃんベイビーまで退行してバブみを求め始めてしまう! 女神さまのご用件を聞かねばなるまい!)
俺は残りカスの成人男性の意地を振り絞り、何とか手を挙げてこれ以上の甘やかしから逃れる。
「ふふ、そうだね、男の子だもんね。なら話を続けようか」
(ええいそんなお天道様の様に暖かい笑みを浮かれるなママよ! これじゃあマジでずっとこのままで居たくなる!)
頭から離された女神さまの柔らかい手に惜しみつつ彼女の話を黙って聞くことにする。
「『転生』とはね、君たち地球人が不慮の事故等により寿命を迎えられずに死んだ時、私たち上位の存在……まあ君たちの言葉を借りて『神様』がね、死者の魂を別の世界へと移してやって、もう一度人間として生きる事を許可するって物なんだ。転生先はもちろん君たち死者が好きに選んで良いのさ」
(はぇー、そんな事をやってるんですねぇ)
「とは言え死者の全てではないんだよ? 生きてる間に罪を犯した極悪人共をまさか転生させる訳にはいかないから、そうした悪い魂はもちろん地獄行きさ」
(罪人は地獄行き……)
「ああ、君は大丈夫だよ心配しないで。今さっき私が許可を出したから」
(なるほど? お母さまは俺の事をお許しになってくださったのか、俺に転生をさせてくれる様だ)
「で、その次の世界? って奴を好きに選べって一体何からですか」
ここで社会へ出た人間として俺からのアドバイスだ。いつか来るかも知れん後輩転生者たちよ聞け!
契約事? かはわからんがとにかく上手い話には気を付けろ、必ず裏があるって身構えて相手と対等な条件になる様に話を進めろ。
その為には絶対に『気になったらその場ですぐに聞く』これだけは忘れるなよ。これができない奴は社会へ出たら食い物にされるだけだからな!37のおじさんとの約束だぞ!
「……で、いいかな?」
「あ、はい。続けてもらって」
よくわからん独り言を脳内で呟いて居たらボケっとしてたのか、女神さまに迷惑をかけちまった。すまんすまん。
「好きな世界っていうのは言葉の通りさ。君も読んだことくらいはあるだろう? いわゆる魔法や伝説のドラゴンが存在する世界だったり、科学技術が大いに発展したSFチックな世界、どちらも未発展の原始の世界。漫画やアニメ、ドラマや映画で一度くらいは非現実を体験した事くらいはあるだろう? それらの中の好きな設定がある世界を君が選んで、新しく生まれ変わるのさ」
「何のために?」
「やり直す為さ。天寿を全うせずして死んだ魂にはとても強い悔いが残るのさ。その悔しい想いを私たちは何とか忘れさせてやろうと、転生という手段で君たちに手を差し伸べるのさ。神々と言うものはね、すこし言い方が悪くなるけど君たち地球人よりも上位の存在だからさ、君たちを見ているとその不出来さが余りにも可愛くて何でもかんでもお世話して、『少しでも幸せを味わって欲しい』、そう強く思ってしまう者なのさ。だから難しく考える必要はないよ」
女神さまは笑顔で続ける。
「優流男、君は本来100まで生きて仲間たちに囲まれて最幸の死を迎えるはずだったのさ。なのに何の因果か不慮の事故を起こし大きすぎる罪を背負って1人孤独にそれを償ったんだ。早死にもいいとこさ。だから君は報われるべきなのさ。君は次の世界で報われて、味わう筈だった幸福をたっぷりと堪能し、そして天寿を全うするべきなのさ。さあ、だから望んでご覧? 君が次に生きたい理想の世界。大丈夫、私は女神。アナタを救う為にいる存在。なりたい自分を心に思い描いてご覧」
俺は自然と目を閉じて、なりたい自分をゆっくりと思い描いく。転生先は毎晩の夢の世界。あの勇者の姿が気になったのでせっかくだから俺も向かって見ることにした────────、
『汝に神の御加護があらん事を』 女神の声が最後に届いた。