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第1話その2 『女神ルシフェル登場』

高速道路にて自転車の少年を即死させた日、あの日を境に俺の人生は大きく変わった。


 俺の人生の全てであった配達業の命とも言える運転免許の取り消し、華桜司社長の座……いや華桜司グループからの追放、妻との離婚、もちろん娘の親権も妻へと渡って娘との面会は金輪際(こんりんざい)永久的に拒否された。


 事故の報告をした翌日には荷物が全て(まと)められており、離婚届けも既に俺の印鑑を押すだけであった事が更なる嫌気を俺に(もたら)したが、妻の気持ちを考えると俺は何もいえなかった。それに娘の今後の事もある。



 誇りを失い、家族を失い、社会的地位の全てを失った俺は事故調査の聞き取りの際に自然と「死刑にしてください」と口にした。当たり前だろ。


 日頃の事故のニュースを見れば『こんな奴の免許はすぐに取り消せ、こんな奴は二度と社会へ出させるな』とテレビに向かって呟く自分だ。仲間とも話し合ってたさ。


それが自分が同じ立場になった時にだけ"許してください" は虫が良すぎる、望んではならない事だ。



 "命を奪った" のだから罪を償うほかに無い。



『人殺し!』少年の遺族が俺に物をなげ罵倒した。当たり前だ。我が子を殺されたのだからそうするのが人間だ。俺だって子持ちの父だ、同じ事をする。



 ネットでもテレビでも俺は人殺しとして扱われた。



『華桜司死すべし』『死んで詫びろ』『死ね』『居眠り運転の犯罪者』『トラック運転手に強い規制を』



 俺の招いた不祥事が他の同業者にまで被害が及ぶと、彼らも同じく俺の死を強く望み始めた。



『責任をとって』『お前のせいで』『消えてなくなれ』



 そうして皆が皆一様にして口を揃えて最後に言うのは、


『まだ若かったのにかわいそう。自転車の少年がかわいそう』



 言うまでもなく俺は彼に対してとてつも無い程に懺悔の気持ちで一杯だ。それは第三者である周りを超えて当事者としての気持ちだから絶対に誰よりも、だ。


悔やんでも悔やみきれない、謝っても謝りきれない、償いたくとも償うべき相手がこの世には居ない。


だからこそ俺もこの世から消えて無くなるんだ。この世に残っていたら駄目なんだ。世界は俺を許してくれない。俺も俺を許せない。


娘のこれからを見たかったけど、同じ望みを奪ってしまったのだから……。そう何度も思った。



 もう一つ変わった事があるのだが、毎晩に変な夢を見るようになった。



 その夢の景色は、選ばれし存在『勇者』と呼ばれる少年が異形の化物達を片っ端からやっつけて魔王を倒しにでもいかんとしているのだろう、旅をしている。


 少年の周りには絵に描いたような美少女が常に数人いて勇者を囲っている。勇者が何かをしようものならすぐに顔を赤らめたり勇者に抱きついたりと、少女達はとても不思議な行動をとる。


露天風呂に似た地に訪れたと思ったら混浴をし始めすぐに勇者の脇を固める。食べ物を手に入れたと思えばどうにかして勇者と口移しをしようと試みる。訳がわからない。


 なぜ俺がこんな夢を見るようになったのかはどうしてもわからないままであるが、夢の中の勇者の顔はどことなく自転車の少年を思わせる形をしている。



 彼への罪悪感が見せる幻だろう、そう割り切って俺はその日を迎えたのだった。



 死刑実行までは早く、通常は事故を起こしてから1ヶ月ほど経って裁判まで事が運ばれそこからさらに実刑までの期間が開くらしい。詳しくは知らない。


ただし俺の場合は家族も社会も俺自身でさえ望んだモノだからか、たったの1週間で全てが決まり、そして今日がついにその日だ。



 絞首刑となった俺の視界は目隠しによって(さえぎ)られ、この世とも別れを告げる時が来た。



 いよいよ死ぬともなれば、人と言うのはそこで初めて本当の自分を知るものだ。



『なんで俺が……?』死刑台に立たされて漸く俺の頭に今回の件に対する不満が湧いてきた。



(そもそも"高速道路"だぞ? 軽車両なんか侵入禁止だろうがよ。何がかわいそうだ? かわいそうに値するのか? 何か間違っていないか??? 確かに俺も悪かったけど、どうして誰も奴を責めない? 俺は物心ついてから30年間近く人の為に、国の為に尽くして来たんだぞ? それが1人のルールを破った馬鹿のせいでどうして俺が!!? どうして誰もそれを言ってはくれないんだ!!!??? 俺だけじゃなく奴も罰せよチクショウが!!!)



 ガシャンと足元が消える音がして俺は間もなく死体となり果てる。


 俺が最後に願った事は愛娘の今後の事でなく、謝罪でもなく、自転車少年への罪の請求だったとは最後まで救えない男だなと自分でも思った。


……と、考えていた事を思い出したのか?



「あ? ここは一体……?」



「……やあ、気がついたかい優流男(するお)。ここはあの世とこの世の狭間(はざま)、次の世界への入り口さ。私はルシフェル、女神だよ。君は次にどんな世界を望むかな」



 絶世の美女が微笑んだ。

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