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第一章 ああ素晴らしきはニッチ産業(六)

 等々力は不信感を隠さず、率直に尋ねた。

「その道のプロって、具体的に言ってもらえませんか」

 左近は流すように発言した。

「PMCの人間よ」


 等々力はPMCが何を意味しているか知っていたので、すぐに喰いついた。

「ストップ。PMCって、Private Military Companyの略ですよね。彼らは、スペシャリストです。だけど、民間軍事産業の人間が出て来るって。まさか、舞台はアフガンとかイラクなんですか。だったら、お断りですよ。僕は、まだ死にたくないですからね」


 左近は宥めるように声を出した。

「大丈夫だって。舞台はちゃんと日本よ」

 舞台が日本なら日本で疑問もあったので、突っ込んだ。

「舞台が日本なら、PMCを使わないで、警察に協力してもらえばいいでしょ。依頼人はお金持ちなんですよね。だったら、政治家経由で警察くらい動かせるでしょう」


「それがね。依頼人は警察嫌いなのよ」

 状況が見えるに従って、段々危険な仕事にしか見えなくなってきた。

「ありていに言えば、堅気の人間じゃないって意味ですね。ひょっとして、金持ちの依頼人って、ヤクザの親分か、マフィアなんですか」


 左近がすぐに心外だといわんばかりの表情で言い繕った。

「違うわよ。ヤクザやマフィアじゃないわ。ただ、警察や税務署で嫌な思いをしたから、公務員が信用できないって人間なのよ。だから、PMCを使うの」

(なんか臭いな。嘘臭すぎる)


 等々力は少し考えた。

(これは左近さんが酔っていてよかったかも知れないな。普段の左近さんなら教えてくれない仕事の背景を、お酒が入っているせいか、少しだが話してくれている。今回の仕事については聞けば、まだ色々と喋ってくれるかもしれない)


 等々力は普通の口調に努めながら、それとなく聞いた。

「そのお金持ちの職業を、詳しく教えてくれませんか?」

「貿易商よ」


 さっきから、左近は教えたくない事柄については、簡単な単語で誤魔化そうとしている。短いセリフほど、要注意だ。

「依頼人の仕事ですが、具体的に取り扱っている商品はなんですか」

 左近が目を泳がせて、小さな声で発言した。

「それはまあ、貿易商だから色々よ」


「ごまかさないでください。ぶっちゃけ、薬ですか。まさか、麻薬組織のボスの息子の身代わりなんですか」

「ち、違うわよ、麻薬なんて売っている人間なんかの仕事は引き受けないわ。私にだってプライドはあるわ」


「じゃあ、正直に答えてくださいよ。何をメインに扱っている貿易商なんですか」

 左近は考えるような仕草をしながら言葉少なく語った。

「うーん、難しいけど、正義かな」


 正義を商品として堂々と店頭に並べて売っている店があるなら、覗いてみたい。

 正義と言えば聞こえはいい。ただ、正義を主張する人間が正統な政府の側にあるだけとは限らないのが、今の御時勢だ。


 等々力は頭に思い描いた考えが当りだろうと思ったが一応、尋ねた。

「もしかして、武器商人なんですか」

 左近が今度は、あっさりと認めた。

「そうとも言うわね」


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