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第九章 モンスターが生まれる日(四)

 ホテルに潜伏して、三日後に左近がホテルに晴れやかな顔でやって来た。

「軍曹だけど、日本からいなくなったわ。軍曹の行先は、バハマよ」

 バハマ? なんでイラクではなく、カリブ海の楽園に行ったのだろう。

 もう、ファントムを追う仕事が馬鹿らしくなって、遊びに行ったのだろうか。遊びでも仕事でも、追って来ないなら問題はないが、少し気になる。


 等々力が不思議に思っていると、左近がガニーを哀れむような表情を浮かべて説明した。

「軍曹は組織から、立て続けに行った仕事の報告を求められたわ。軍曹が関わった事件と、ファントムの正体について、真面目に報告したそうよ。報告書の内容は不明。だけど、軍曹の報告書を見た組織の上層部が、軍曹は働きすぎで頭がおかしくなったと判断して、バハマのサナトリウムに送ったわ」


 納得がいった。確かに、俺の話を真に受けて報告書を書いて、アメリカにいる組織の上の人に見せたら、狂人扱いされるだろう。

 予定通りに進まなかったが、作戦は成功したといっていいだろう。

 軍曹がサナトリウムで「俺は日本の重大な秘密を知った」「日本を影で操る一族が存在する」「俺は正気だ」と声高く主張すればするほど、重症扱いされるに決まっている。


 全ては終った。金は潤沢に入ったので、あとは仕事を辞められればいい。だが、左近は簡単には離さないだろう。

 左近がさっそく話を切り出してきた。

「等々力君には、次の仕事を頼みたいんだけど」

 しょうがない、あと二、三回ほど付き合ってから、終わりにしよう。

「なんですか、次の仕事って? あんまり危険な仕事は嫌ですよ」


 左近が真顔で発言した。

「次の仕事は大物新興宗教教祖の影武者よ。天命により二百歳まで生きるって豪語していたんだけど、愛人宅で怪死したのよ。それで教団幹部が大慌てで依頼してきたわ」

 教祖の名前は等々力でも聞いた覚えのある人物だった。

 政治家にも強い影響力があり、総理大臣でも迂闊な言葉は口にできない。公表されていないが、教団の資産は十兆円を優に超えると言われている。


 ただ、教祖が興した宗教団体は、他の宗教団体から信者の引き抜き問題を抱え、政教分離の理論で、野党からは敵視されている。教祖の家族も、一癖も二癖もある。

 味方も多いが、敵も多い人物。葬儀の席に名探偵がいれば殺人事件が起こり、元詐欺師がいれば後継者を決める殺人ゲームが起きても不思議ではない。


 今の日本を裏で動かしている凄腕の人物といえるだろう。

 ハッキリ言えば、今までの仕事が安全に思えるほどの仕事だ。しかも、成り済まし対象が怪死となれば、なんとも曰くつき仕事だ。


 最初は左近がふざけているのかと思った。

 けれども、左近から冗談を言っている空気は微塵もなかった。

 嘘から出た誠という言葉があるが、まさか等々力自身の壮大な嘘が現実味を帯びて、身に降りかかろうとは思わなかった。

 やはり、「世の中、正直に生きるべき」との教訓を得たのに、破ると禄な目に遭わないと、思い知った。

【了】

©2018 Gin Kanekure

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