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第九章 モンスターが生まれる日(二)

 等々力は象がいなくなった展示スペースに、アントニーと一緒に入った。

 アントニーは大きな紙袋を持っていた。アントニーが紙袋から黒い革靴を取り出し「靴を履き替えてくれ」と命令してきたので、素直に従った。


 靴を履き替えて、アントニーに誘導されながら移動した。ある場所に来ると、靴底が磁石になっているかのように、床に吸い寄せられる場所があった。

「足が地面に引っ張られるようになる場所があるだろう。そこが、トリックを使える位置だよ」

 アントニーが次に、紙袋から小型のナイト・ビジョンのような機械を取り出して装着すると、空中にある何かを掴むような動作をした。


 等々力に前を向かせて、サスペンダーを装着している背中に触ると「カチッ」という音が三回した。

 背後で作業するアントニーから注意された。

「気を付けて欲しいのが、軍曹に真横より後ろに来られた場合だ。真横より後ろに来られると、いくらロープが黒く細くても、見つかる怖れがある」


 等々力は直ちに解決策を思いついた。

「トリックが使える位置にいる状況が自然に見えるように、後で園内のベンチを持ってこよう。ベンチに座って待機位置で待てば、ベンチが邪魔になって、軍曹は俺の後ろに移動できない」

 アントニーがすぐに賛成した。

「それが無難だね。では、仕掛けが上手に作動するか、一度テストしよう」


 等々力が答える前に、等々力の身体がものすごい勢いで空中に引っ張られた。思わず声が出そうになった。等々力の体は後方にジャンプするように園内の通路まで移動した。

 注文通り、飛び上がれた。でも、姿は消えていない。

 アントニーから「右手を横に伸ばして、布を引いて」と指示が来た。布らしき物体は見えなかった。けれども、言われた通り手を伸ばすと、絹のような布の手触りを感じた。


 等々力が布を掴んで引っ張ると、体の上に布が落ちてきた。布を被った状態なので、周囲がよくわからないが、アントニーから「成功だ」の声が聞こえた。

 象の展示スペースからは姿は見えなくなっているのだろう。肩を軽く叩かれたので布をどけると、真っ黒な姿で暗視スコープをつけた柴田がいた。


 柴田は等々力に背中を向けさせると、背後で仕掛けを外してくれた。仕掛けを外すと、時計で時間を確認して、象の展示スペースまで戻った。

 等々力の足で十一分ジャスト掛かった。アントニーから仕掛けを片付けるまで六百秒と聞いていたので、象の展示スペースに入ったときに外から鍵を掛ければ、軍曹が展示スペースから出てきて等々力が消えた場所まで来たときには、痕跡は全てないだろう。


 仕掛けが問題なく作動する確認が終った。後は、アントニーと柴田に手伝ってもらって、園内にあるベンチの一つを象の展示スペースの中まで一緒に運んだ。

 ベンチを運ぶのは、少し苦労した。薄っすら汗を掻くと、すぐに柴田が気付いて拭いてくれた。軽くメイクもしてくれた。


 柴田はアントニーの怪盗業を手伝っているので、準備も手際も良かった。

 アントニーと柴田が隠れた。等々力も空気を消してスタンバイしていた。

 背後に夜の動物園は意外と静かだった。やがて、動物たちが少し騒がしくなってきた。

 ガニーが来たのだと、何となく理解した。象の展示コーナーの扉が開いた。


 ガニーと後藤老人が入ってきた。ガニーはスーツ姿だった。スーツ姿のガニーを見たが、予想以上に似合っていた。いつも見せるような危険な空気は、体の内側にでも押し込めたように隠していた。

 ガニーの姿から想像するに、身分を記者と偽って、後藤老人に接触してきたのだろう。


 等々力は空気を消すのを止めて、立ち上がった。

 途端にガニーが気が付き、いつもの荒々しい空気を醸し出した。

 ガニーがゆっくりと、等々力に向かって歩いてくる。打ち合わせどおりに、後藤老人が入口からすぐに戻って、鍵を閉めた。


 鍵が閉まった音がしたが、ガニーは慌てたりしなかった。

 ガニーが等々力から五歩ほど離れた位置で停まった。ガニーが険しい表情を浮かべつつも、懐疑的な口調で「お前が等々力か」と尋ねてきた。



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