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第九章 モンスターが生まれる日(一)

 夕方の団体客に紛れて、等々力と左近は動物園に入った。

 入園すると、動物販売業者用のネーム・カードを付けて、まっすぐ従業員用の建物に向かった。

 従業員用の施設を歩いている。誰もが二人を見る。けれども、ネーム・カードをチラリと見ただけで、二人を気に留めなかった。


 左近と等々力は堂々と『商談中につき関係者以外出入禁止』の紙が張られた部屋に入った。

 部屋の広さはそれほど大きくなく、パイプ机と椅子が十脚置かれていた。部屋の隅にはホワイト・ボードがあった。窓にはクリーム色の遮光カーテンが下がっていた。


 カーテンを少し開けてみた。象の展示スペースの少し後に工事中のフェンスがあり、黒いクレーンのような機械が置いてあった。

 部屋の扉が開いて、工事業者に化けたアントニーと柴田が入ってきた。


 アントニーが晴れやかな表情で報告した。

「準備は終った。いつでも、象の展示スペース内から飛び上がって、園内通路に移動できるよ」

 左近を見ると、左近も準備万端といった様子で答えた。

「軍曹は等々力君について秘密の話があると、後藤さんを使って呼び出してもらったわ」


 策は整った。等々力は作戦の概要を説明した。

「まず、誰もいない象の展示スペースで、俺が一人で軍曹を待ちます。そこに、後藤さんが軍曹を連れてきます。後藤さんには、軍曹を象の展示スペースに入れたら、鍵を掛けて帰ってもらってください」


 ホワイト・ボードに簡単な図を書きながら説明した。

「俺と軍曹は、象の展示スペースで話し合います。俺は軍曹を適当に丸め込もうとします。でも、おそらく、軍曹は簡単には納得しません。話し合いは決裂します。俺が片手を高く上げたら、アントニーはトリックを発動。俺は象の展示スペースから脱出。脱出後、姿を消します」

 アントニーからも左近からも問題点の指摘はなかった。後は四人で、いつどの場所で配置に就くか。各自がどの経路で園内から逃げるか作戦の細部を詰めた。


 作戦の細部が決まると、左近、アントニー、柴田が最後の下見に出かけていった。

 午後九時になり、園内の電気が落ち始めた。象の展示スペースだけが、中を照らされていた。展示スペースの外は灯りを意図的に落としたので、真っ暗になり、クレーンは見事に闇に紛れた。

 アントニーがズボンを差し出した。ズボンは、一見すると、サスペンダー付きのジーパン。

 けれども、サスペンダーはズボンとしっかりと固定されており、取り外しはできず、ベルトの部分も、かなりの強度があった。


 背面に来る部分には金具があった。

 ズボンを観察しながら感想を述べた。

「金具部分に紐を通して、一気にクレーンで空中に吊り上げるわけか。でも、サスペンダーは細いし、ズボンと固定してある部分も、それほど頑丈には見えないな。失敗してサスペンダーだけ壊れるっていう間抜けな事態には、ならないのか?」


 アントニーが得意気な顔で流暢に説明した。

「サスペンダーがあんまり大きいと、疑われるだろう。問題ないね。この世の中には蜘蛛の糸より細く、鋼鉄より丈夫な繊維があるんだよ。強度計算したけど、君の体重が二百㎏以上ないと、君が心配する間抜けな状況には断固ならないよ」

 等々力は、アントニーが用意してきたズボンに穿きかえた。



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