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第六章 世にも困った共同戦線(五)

 等々力は座り直した。

「わかった。助けを求めたのは、事実だ。でも、結果より困難な場面に直面しているのも、事実。俺が怪盗グローリーの影武者を引き受けるとして、俺が助かる作戦はあるのか」


 アントニーは完全に他人事として見解を述べた。

「さあ、どうなんだろうね。僕は君を助けるところまでしか、知恵が回らなかった。この後のプランはないんだ」


 等々力は即座に提案した。

「なら、決まりだな。予告を撤回しろ。もしくは、盗みにいかなかったとすればいい」

 アントニーは悪戯子鬼のような微笑を浮かべて、簡単に等々力の案を否定した。

「却下だね。せっかく作った、怪盗グローリーのイメージが台無しになる。怪盗グローリーは死ぬ状況になっても逃げない」


 アントニーは怪盗を辞めた。怪盗を辞めた理由は、どうでもいい。問題なのは、怪盗を辞めたが、暇になって何か新しい遊びを探していたら、俺と出会った状況だ。

 アントニーには、なまじ純粋な悪意と大量の資金があるだけに厄介だ。だったら、さっさとケリを付けて、もう関わらないに越したことがない。

「よし、わかった。怪盗は死なず、ただ消え去るのみ、となるなら、OKなんだな」


 アントニーは意外と素直に話に乗ってきた。

「それならいいかな。でも、具体的には、どうするの」

「リーさんに手伝って貰おう。つまり、リーさんとグルになって、ひと芝居うってもらって、グローリーがリーさんに殺されたように見せかける。死体は上がらない。盗まれた品物は持ち主に、気の利いたメッセージの一つも添えて、謎の人物から返還される」


 アントニーが冷静に問題点を指摘した。

「面白い着想だけど、無理だね。これは、リーが個人的に動ける話ではないよ。決定はもっと組織の上で決まっている。リーが作戦に参加すると、リーが組織の裏切者になる。リーがOKしないよ」


 等々力はすぐに解決策を提示した。

「なら、リーさんの組織のトップに許可を貰えばいいんだろう。今、日本にはリーさんの組織のトップのチョウ大人が来ているから、話をつけるよ」

「チョウ大人は、リーの組織の最高幹部、七老頭の一人だから、チョウ大人が許可すれば、リーは問題なく動けるね。でも、リーの組織にも面子がある。チョウ大人は依頼人を裏切る真似は、簡単にはしないよ」


「そこは面子と利を天秤に掛けさせる。以前、アントニー部屋で見た偽の横山大観の富士の横にあった、一番高そうな名画。あれを売ってやると持ちかけて、交渉のテーブルに乗せる」

 アントニーが顔を曇らせて、腕組みした。アントニーは、できれば避けたいといわんばかりに発言した。

「フェルメールの『窓辺で手紙を読む女』を僕が手放すのかい。『窓辺で手紙を読む女』は気に入っているんだけどな。どうしても、『窓辺で手紙を読む女』でなければダメかい」


 フェルメールは聞いた覚えがある。等々力ですら知っている画家なら、いけるかもしれない。

 フェルメールほどの画家の作品なら、市場では流通しない。

 金で手に入らない物ほど、権力者は欲しがる。七老頭に欲しがる者がいなくても、中国の権力者で欲しがる人物がいれば、中国系の組織なら食指が動くはず。


「フェルメールは譲れないな。こうなったんだから、アントニーにも協力してくれ」

 アントニーが渋ると、等々力は即座に「じゃあ、この話は、なしだ」と席を再び立とうとした。

 アントニーは「やむなしか」とすぐに折れた。だが、アントニーは即座に挑戦的な態度で条件を追加した。

「ただし、フェルメールを手放すんだから、危険なチョウ大人との交渉は、君に一人でやってもらうよ」


 嫌な条件だ。相手は、いってみればチャイニーズ・マフィア。交渉に失敗すればば死亡だ。最悪、等々力を襲って名画を手に入れた上で、ファルマ氏の仕事を実行される危険がある。

 とはいえ、アントニーがフェルメールを手放す条件に同意したのだから、後には引けなくなった。

「わかった。では、本作戦を『怪盗は死なず』作戦と命名して実行する。ただし、ファルマ氏のコレクションを盗む行為の立案、実行はアントニーがやって欲しい。さすがに俺に、盗みは難しい。逃亡が発覚して死ぬ危険なシーンだけ、俺が引き受ける」


 怪盗になりきれば、体が動くかもしれない。されど、危険な行為を分担してくれる人間がいるのなら、分担してもらうに越したことはない。

 アントニーはまだ、怪盗グローリー引退には未練があるはずだ。働きたいに決まっている。

 アントニーは快諾した

「OK、じゃあ、『怪盗は死なず』作戦を実行しよう」


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