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第六章 世にも困った共同戦線(三)

 スタッフは完全に気押されて退出した。

 ガニーが真剣な顔で切り出した。

「組織の上の連中が、停戦だというなら、停戦でいい。俺もプロだ。私情で戦争はしない」

 左近が澄ました顔で「賢明な判断です」と返した。


 ガニーがすぐに不機嫌な顔で棘のある口調で口を挟んだ。

「今回の食事会の目的は、なんだ? 俺とリーを集めて、組織の代表として仲良しパーティを開くのが目的ではないだろう。組織からは今回の停戦は次の仕事のためだと聞いている」

 初耳だった。なし崩し的にリーの影武者として仕事をするなら、御免だ。


 左近がセカンドバッグから二枚の写真を取り出した。写真をテーブルに載せると、テーブルを回して、等々力とガニーの前に置いた。

 写真には全身が黒尽くめで、頭からすっぽりと頭巾を被った人物が写っていた。頭巾には、デフォルメされた白い兎がプリントされていた。


 左近は手を組み合わせ、肘を突いて切り出した。

「怪盗グローリー。お二人とも名前くらい聞いた記憶があるでしょう。実現不可能と言われる盗みを何度も成功させている、凄腕の泥棒です。お二人には、協力して怪盗グローリーを始末していただきたいのです。怪盗グローリーは、お二人が所属する組織の敵でもある」

 ガニーは写真を受け取ると眉間に(しわ)を寄せて、辛辣な言葉を口にした。


「グローリーには、俺の組織も何度か煮え湯を飲まされた。こいつを逃したせいで責任を取らされて、メキシコ湾に浮いた奴もいる」

 等々力も「ウチのお客も被害に遭っているね」と適当に話を合わせた。


 左近が話を進めた。

「グローリーから、五日後に、日本の美術館に貸し出し予定のファルマ氏のコレクションを狙うと犯行予告が届いています。ファルマ氏としては、確実にグローリーを仕留めたいので、両方の組織に依頼を出した次第です」

 和睦は二つの組織に一人のターゲットを狙わせるための一時的な協定と見ていいだろう。


 ガニーの組織は、アメリカを中心に活動している。

 リーの組織は中国を中心として活動している。

 日本は中国の隣国だが、アメリカの影響力が強いので、両組織にとっては、どちらの組織が強いといった明確な優劣がないのだろう。


 インドも日本と似たような状況だから、ファルマは両組織と付き合いがある。

 少々困った事態になった。ガニーと一緒に行動すれば、ガニーに正体がばれるリスクが高くなる。

 ガニーが渋い顔して、写真を胸のポケットにしまった。


「話はわかった。仕事は俺だけで充分だ。それに、グローリーは、そこに座っているリーの組織と繋がりがあると噂がある。内側から裏切られては、始末できるものもできない。俺はメキシコ湾に浮くのは御免だ」

 グローリーについては、さっぱりわからなかった。グローリーとリーの組織がどんな関係かも不明だ。

 等々力はここで「これ、ひょっとして利用できないかと」と思いついた。


 強気にガニーを非難した。

「あいやー、ひどい言いがかりね。軍曹の組織のほうこそ、グローリーと利用していると噂あるね。こっちも、信用できない人間に背中は預けられないよ」

 ガニーが鋭い視線を向けてきたので、睨み返した。

 ガニーが等々力を睨みながら提案した。

「じゃあ、こうしよう。俺たちは互いに相手の邪魔はしないが、協力もしない。標的は早い者勝ちで、どうだ」


 等々力は心の中で小躍りした。思った通りの展開だ。これで、リーの影武者をしても、ガニーと一緒に行動しなくていい。

 もっと狡猾に考えれば、ガニーにだけ仕事をさせて、等々力自身は怠けていればいい。ガニーなら怪盗だろうが、怪人だろうが、一人で始末してくれるはず。


 等々力は本心を隠して、挑戦的に言い返した。

「望むところね。軍曹に足ひっぱられるより、身内だけでやったほうが、よっぽど上手くいくね。ただし、絶対、邪魔はするなよ」

 左近が憂いた表情で発言した。

「弱りましたね。ファルマ氏としては、確実を期すために、両組織に人の派遣を依頼したのです。これでは、意味がない」


 ガニーが不満も露に口にした

「だったら、最初から俺のところにだけ頼めばよかったんだ」

 等々力も、ここぞとばかりに煽った。

「それ、こっちのセリフね。ウチの組織だけで充分、軍曹は不要ね」


 ガニーが席を立った。

「決まりだな。ミスター・ファルマに伝えてくれ。仕事は必ず俺が遂行する、とな」

 ガニーはそのまま出て行った。

 等々力はガニーが戻ってこないか確かめるために、しばらく待つ。

 よし、もう来ないと思った時に、左近がスタッフを呼んで、ビールを頼み、料理を持って来るよう注文した。


 前菜とフカ鰭を美味しそうに楽しむ左近に確認した。

「これで、リーさんからの仕事は、終了と考えていいですよね」

 左近はいつもの調子に戻って「多分ね」と答えた。

 等々力は曖昧にしないように喰ってかかった。


「ちょっと待ってください。左近さん、多分って、どういう意味ですか。はっきり、終わりって言ってくださいよ」

「それは、リーさんに確認しないとわからないわ」

「じゃあ、早く確認してくださいよ」


 左近が少しだけ怒ったような口調で抗議した。

「食事くらい、ゆっくり楽しませなさいよ。それに、リーさんだけど、組織のトップの一人、チョウ大人が来ていて、護衛の仕事が臨時で入っているから、携帯に出られないわよ」

(組織の御偉いさんの来日だと。波乱の予感がする。早めに仕事終了の確約を取っておかないと、危険だ)


「リーさん、携帯を持っているんですよね。だったら、メールはできるでしょう」

 左近が運ばれてきた車海老とタラバガニの野菜炒めを取り分けながら意見した。

「等々力君、メールで仕事の終了を知らせるって、失礼でしょ」


 等々力は料理に手を付けずに話を詰めた。

「こういうときだけ、常識人にならないでくださいよ。俺、もう、三度も死ぬ目に遭っているんですよ。もし、メールしてくれないなら、金輪際、仕事を引き受けませんよ」

 左近は渋々といった感じで、片手で箸を使い、料理を食べながら、片手でメールを打った。

 等々力は左近がメールを打ち終わって、やっと美味しい上海料理を満喫できた。


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