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第六章 世にも困った共同戦線(二)

 等々力が席に着いた。スタッフが入ってきて「ファルマ氏は遅れるそうなので、先に始めていて欲しいそうです」と伝えられた。

 ガニーと部屋で二人っきりになる。もちろん、共通の話題はない。

 リー本人なら裏社会や、使用する武器の話で盛り上がれるかもしれない。

 だが、等々力は全く知識がなかった。昨日まで殺し合っていた人間が二人っきりで、しかも相手は男。なんて、嫌な食事会なんだろうと心底、思った。


 ガニーはさっきから等々力をじっと「やっぱり、お前が本当にリーなのか?」と胡散臭そうな目で見ていた。ガニーの目は、まるで刑事がスリの犯行現場を押えようとしている目だ。

 沈黙に耐えられずにいると、スタッフが飲み物のリストを持って注文を聞きに来た。

 ガニーがリストを一瞥もせず「俺はコーラでいい。瓶を口の開けないまま、持って来い」と注文した。ガニーは完全にアウエーにいる雰囲気だ。


 等々力は飲み物のリストを見た。

 メニューには上海料理屋らしく、漢字の後に日本語が記載されていた。お茶や酒の種類が豊富にあった。リーならお茶を頼む。ただ、リーが話していたのは広東語。広東語と上海語は違う。

 リーは上海語も話せるだろう。でも、リーの上海語の発音は聞いていないので、発音には自信がなかった。


 もっとも、烏龍茶ですら、正式にはなんと発音すればいいのかすらわからない。烏龍茶ですらわからないのだから、他のお茶や食前酒なんて、発音しようがなかった。

 メニューを前に困っていると、救いの主がリストにあった。

「わたし、海洋深層水にするね」と頼む。


 ガニーが険のある雰囲気で「どうした、食前酒を頼まないのか? 遠慮するなよ」と聞いてくる。遠慮するなというより、きちんと発音できるかのと聞かれている気がした。

 軍曹の言葉をさりげなく躱した。

「酒類、頼まない理由は、軍曹と同じよ」


 等々力は普通に会話を続けた。

「でも、最初からコーラは、やめたほうがいいね。前菜の繊細な料理の味が変わるよ。水が無難。日本の海洋深層水、最近は中国でも見るけど、まだ飲んでないね。軍曹、飲んだ経験あるか」

 ガニーは「いや」とだけ口にして口を閉じた。


 会話が続かない。というより、続ける気がないのが明白だった。

(嫌な雰囲気だ。これで、ファルマさんが、二時間も遅れてきたら、どうしよう)

 前菜七種の盛り合わせが運ばれてきた。等々力は気を使ってガニーの分を取り皿に取り分けようとした。ガニーが「俺は、残ったほうでいいと」とテーブルを廻して、皿に残った料理をガニーの前に持ってきた。


 等々力は呆れた態度で「毒なんか入ってないよ」と口にした。だが、ガニーは何も言わなかった。

 フカ鰭の白湯煮込みが一人分ずつ皿に入ってきて、目の前に置かれた。ガニーは露骨にテーブルを廻して、またも等々力とガニー皿を交換した。

 等々力は黙って、フカ鰭を口に運んだ。フカ鰭のぷりぷりした触感が心地よかった。蕩けるような舌触りと白湯スープの味も絶妙だった。


 正直いって、フカ鰭料理がこれほど美味いとは思わなかった。

(料理は最高だけど、雰囲気は最悪だな)

 話題はなかった。非常に気まずい。

 扉が開いて女性が入ってきた。最初、女性の正体がわからなかった。

 女性が空いている席の前に立ち「お待たせしました」と発言して正体がわかった。女性の正体は左近だ。


 左近はウィッグで髪をセミロングに変更しており、化粧もいつもの中性的な感じから、色気のある印象に変えていた。女性は化粧を変えただけど、印象ががらりと変わると言うが、正に左近は別人だった。


 ガニーが不審も露に「ミスター・ファルマは、どうした」と尋ねた。

 左近が席に着き、凍ったような表情で微笑み、説明した。

「ファルマ氏は事情により、来られません。私が代わりに接待させて頂きます」

 ガニーは左近に飲み物の注文を聞きにきたスタッフに怖い顔で命令した。

「今から大事な商売の話をする。気を散らされたくない。誰も入るな」


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