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第四章 誘拐事件決着(三)

 等々力は左近の大胆な行動に驚いたが、驚いたのはガニーやランスも同じだった。

 おそらく、本来のガニーなら対応できたかもしれない。されど、左近の秘書を思わせる態度と等々力に対する怒りによってできた隙が、左近の動作を綺麗に決めた。


 等々力は驚きをコンマ数秒で消した。まず、札を数える手を止めたランスに向かって「Keep countつづけろ」と指示を出した。ランスがしかたなしに残りの札を数え続けた。

 等々力は足を組んでソファーに座り直し、勝ち誇った年配の悪役を気取って話した。

「軍曹、私も少し言い過ぎたようだ。私たちは、実にうまくやったと思うよ。途中までだけどね」


 少し間をとってから言葉を続けた。

「まあ、途中で色々あったが。終わりよければ、全て良しとするのが、私の流儀だ。君たちの組織とは今後とも、うまくやっていきたい。そこで、選んで欲しい、軍曹。ここで友好的に別れるか、それとも死体を二つ転がすか、だ」


 ガニーが下手な動き一切しなかったが、脅すように忠告してきた。

「俺たちを殺せば、組織は黙っちゃいない」


 等々力は笑った。等々力の笑いは、まさにいやらしい中年男そのものだった。

「そうだね、黙っちゃいないだろうね。では、私は武器商人として学んだ真実を一つ君に教えてあげよう。世の中の九十九%の問題は金で片がつく。まあ、少々高くつくだろうが、君が駄々を捏ねるなら、仕方ない。コストとして割り切ろう。金は武器を捌けば、いくらでも手に入る。世の中から殺し合いはなくならないからね」


 ガニーが等々力を軽蔑の眼差しで見ていた。ガニーの眼差しは既に金持ちの子息を見る目ではなかった。ガニーの目は貪欲な武器商人の男を軽蔑する目だった。


 ガニーの目を見て、今回の影武者も成功したと確信した。

 等々力はさらに嫌味に付け加えた。

「それに、君は忘れているようだね。誘拐した対象者が逃げない限り危害を加えない、との条件を破ろうとしたのは、軍曹のほうだ。つまり、君たちが契約違反をした、違うかな」


 ランスが緊張の面持ちで金を数え終わった。

 等々力は軍曹を軽く指差し、わかりきった答を尋ねた。

「それで、どうする。軍曹。私は帰ってもいいかね」

 ガニーが穿き捨てるように「Suit yourself(勝手にしやがれ)」と言い放った。


 等々力はどこまでも憎らしく表情を作って、友好的に言葉を添えた。

「どうやら、やっとわかってもらえたようだ。嬉しいよ。本来なら握手の一つもして別れたかったが、どうも、そんな雰囲気ではないようだ」

 等々力はランスに余裕綽々で「key please」と鍵を要求すると、ランスが部屋の鍵を投げて寄こした。後は、ガニーとランスを部屋の隅に行くように左近が指示した。


 二人が部屋の隅に行ったところで、ガニーが捨て台詞を吐いた。

「いいだろう。これで、俺の仕事は終わりだ。今を持って、俺たちとお前の間になんの関係もない。だが、覚えておけ、ジョルジュ、もし、お前を殺す仕事が来たら、真っ先に受けて、お前を地獄に叩き落してやる」


 ガニーは等々力を「ジョルジュ」と呼んだ。完全に等々力の纏った空気に飲み込まれた証拠だ。でも、等々力は別の心配をしていた。

(あれ、これは、マズくないか。依頼人が報復を怖れて影武者を依頼してきたのに、結局、依頼人が恨みを買う展開になったぞ。まあ、いいか、銃を取り出したのは左近さんだし、あとは左近さんにフォローをお願いしよう。まず、俺の安全が大事だ)


 等々力は笑顔を作って「では、ごきげんよう」と扉を閉めて、素早く鍵を掛けた。あとは、左近と二人で階段をゆっくり下りて、左近が乗ってきた車に乗り込んだ。

 車を出す前に左近が携帯電話をどこかにかけて「いいわよ」と指令を出した。

 意味が全然わからなかったが、別に気にしなかった。


 車はすぐに逃げるように急発進した。

 左近がカー・オーディオのスイッチを入れると、クラシックの音楽が流れた。

 等々力は本当に久々に疲れたと感じた。左近が無言だったので、まだシーン・ドランカー・モードから帰ってきてないのかもしれない。


 正面からヘリが飛んできた。民間のヘリではなかった。

 自衛隊のヘリかと思ったが、はてな? と思う。近くに自衛隊の基地はない。しかも、ヘリは、かなり低い高度を飛んでいた。 

 等々力は振り返った。小さくなっていく、隠れ家の二階から十数m離れた場所にヘリがホバリングしていた。等々力は危険を感じて声を出した。


「左近さん、まずい。ガニーとランスを救出しに、やつらの組織のヘリが来た。早く逃げないと」

 左近は何も応えなかった。左近が乗っているのは普通の一般的な国産車。とてもではないがヘリを振り切れると思えない。でも、少しでも距離を稼がないと危険だ。


 等々力は焦った気分で後方を見ていると、ヘリが隠家の二階に機銃掃射を懸けた。等々力が「エッ」と思っていると、ヘリが上昇し、視界から消えた。

 さっきまでいた隠家の二階が、火を噴いて吹き飛んだ。

 よく、見えなかった。おそらく、ヘリが上昇して安全な距離をとって、空対地ミサイルを撃ち込んだのだろう。


 運転席の左近さんが「ミッション・コンプリート」と口にしたのが聞こえた。

 等々力は唖然とした。

(何、左近さん。最初からランスと軍曹を消すつもりだったの。さっきの電話って、殺人依頼!)


 ランスとガニーが死んで、ガニーの組織に誘拐失敗の一報が入れば、全ては闇の中だ。

 ジョルジュも誘拐は失敗したとして組織と話をすれば狙われない。でも、これは酷すぎる気がする。


 それより驚きなのは、日本の上空に戦闘ヘリを飛ばして、ミサイルを撃ち込む行為が可能な存在がいる事実だ。日本の防空網はどうなっているんだと、疑問に思う。

 等々力は気が付いた。戦闘ヘリを出撃させて、攻撃可能な存在が一人いる。

 三島・ジョセフ・ウリエルだ。戦闘ヘリはウリエルの屋敷から出動して、攻撃を終えて戻っていったのではないだろうか。ウリエルの屋敷から隠家が離れていなかったのが災いした。


 ジョルジュはガニーの組織と敵対できない。だが、アントニーの父のジョセフなら、息子の誘拐犯に報復する力も名分もある。ジョセフを動かしたのは、息子のアントニーかもしれない。

(アントニー、なんて恐ろしい奴なんだ。武器商人のウリエル一族って、皆こんな奴ばかりなのかもしれない。今、見た光景は忘れよう。それと、もう、ウリエル一族絡みの仕事は断ろう。ウリエル一族の影武者は、危険すぎる)


 等々力は左近に家まで送ってもらった。家に着いた時には少し暗くなりかけていた。等々力は久々の我が家で寛いだ。

(よし、しばらく、アルバイトを休ませてもらおう。お金も入ったことだし)


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