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僕は、買ったもらったレンズの整理や久しぶりの別館の雰囲気に包まれたくて、2階でルーカスと別れた後、別館へと向かった。落ち葉の積もった別館への道をカサカサと音を立てて歩きながら、さっき別れたルーカスの様子について思い起こす。
ふと雑誌の部屋にいたルーカスの様子がいつもとは少し違う気がしたが、それも別館について、自分の観測器具を見ていると、やがて忘れてしまった。明日から始まるであろうルーカスとの久しぶりの天体観測はさぞかし楽しいだろう。
僕はいても立ってもいられなくなり、ドームを開けるハンドルをガラガラと回して、一面の夜空を見上げた。
ミスティアーノでは見られらなかった一面の夜空が僕の頭上に広がっている。秋の星々は微かな光しか放てないものが多いから、ここにこないと出会えない星々がたくさんあって、無機物に対して抱く感情ではないのかもしれないけれど、天頂の星、その一つ一つが懐かしかった。手を伸ばしても届かない、どこまでも続く空のような溶けていくその捉えようのなさが僕を強く引きつける。星は、旅の途中のどんな珍しいものよりも、何度その姿を見上げても、いつも僕にとっては新鮮だ。
望遠鏡はルーカスの分身のようなもので、僕は勝手に触ることは許されていなかったから使えなかったが、この目さえあれば今は十分すぎるほどだった。埃の積もった別館の床に寝転がり、明日、観測器具を使って観測するとき、一番初めに視野に入れたい天体のことや、天文について考えていたら、そのまま僕は寝てしまった。
どれくらい時間が経っただろうか。身に沁みるような寒さのせいで、ぼんやりと目を開けて正面の掛け時計を見ると、まだ真夜中だった。寒過ぎて目を覚ましたのも頷ける。僕はドームを開けっ放しにしていたのだから、外で寝ているのと何も変わらない。雨が降らなくて本当に良かった。僕は慌ててドームを閉めて、寝室へと向かった。
僕をさっきまで照らしていた無垢な月は、もう見えない。




