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「そうですか。私の名前はルーカス・ヴィクトールです。君に私の苗字をあげましょう。大切にしてくださいね。」
ロイスは驚いたように目をみはる。今までロイスに名前をくれた人は、院長先生しかいなかった。それでも、ロイスが院長先生と会ったのは3回程度しかない。挨拶を交わしたこともほとんどない。挨拶をしたのは、ロイスが孤児院に来た時だけだった。どこに行ってもなかなか会うことのできない存在。それがロイスにとっての親だった。
「ヴィクトールですか?じゃあ、僕はロイス・ヴィクトールでいいんでしょうか。」
彼は私の膝から降りてそう私に問いかける。その目には私がぐわりと歪んだようにまあるく写っていた。
「その通りです。よくできました。そろそろ日も落ちてきたので、私は家に入りますが、君はどうしますか?」
「僕も入ります。」
扉へ向かう彼らの背を柔らかな日が照らす。真っ白に輝く雪も、この瞬間だけは、夕日に照らされてオレンジ色に光るのだ。彼らの頭の上からだんだんに夜はやってくる。オレンジ色を飲み込みながら、だんだんと上から下へ夜は訪れる。
いつもの野菜スープを2人で飲み干して、今日の本題へと取り掛かる。
別館の望遠鏡のファインダーをのぞいて、今日の目標天体へ向ける。天体観測は、何を目標とするかで大きく難易度は変化する。惑星を探すときは比較的容易いが、星雲を探すとき、難易度は格段に跳ね上がる。星雲を探すときには、観測者の目の感度が重要だ。感度が高くなければ、一つの星雲を探すのにもとても長い時間がかかり、作業効率が大幅に落ちてしまうのだ。これのおかげで、天文の研究職に着くには才能が99%分必要だと言われている。だが、例え目の感度が一般人のそれよりも良かったとしても、本当に小さな星雲は灰色にしか見えない。