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「きたよ。」
「おお。」
じじいは早くも赤くなった顔をこっちに向けて、私に座るようにジェスチャーを出した。
「お前さんには色々聞きたいことがある。あの子はどこで拾ったんだ。」
「私の家に死にかけながら来たんだ。あ、親父さん、林檎酒一つ」
「は?」
「吹雪の日に私の家まであの山を登って、私の家の光を頼りに来たんだと。この時点でもうあの子は普通じゃない。」
「そうだろうな。しかもあの子の視力は、わしが今まで見て来た中で一番高かった。こんな視力の持ち主が普通の庶民の生まれであるわけがなかろう。視力は一つの才能で、それを持つかどうかは遺伝に寄るところが大きい。お前だってそうだろう。もしかしたらあの子は…。」
ドンと大きな音を立てて、ルーカスは立ち上がった。反動で吹っ飛んだ椅子が彼の後ろに転がっている。ドーランで作られた林檎酒がこぽこぽと細い飲み口から流れ出て、しゅわしゅわとカンテラに照らされて山吹色に輝きながらルーカスの白いシャツを黄金色に濡らしていく。黒い目がカンテラの光をぎらりと映し、ショーンを睨みつけている。
「あの子には、大学の、社会の汚さなんて知らないまま、純粋にただ夜空を見上げて過ごして欲しいんだ。もうあの子は十分社会の汚さを見て来たはずだ。他のことになんてとらわれて欲しくない。あの子はただの天才児、ロイス・ヴィクトールでいいんだ。もしじじいがその先を言えば、どうしたってあの子はあの平穏な町から、くそみたいなこの大学へ行かなければならなくなる!それでも続けるつもりか?」




