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ロイスが言っていたようにミスティアーノは、本当に長い軒で人々の光を閉じ込めているようで、少し高台にあるこの宿から、夜のミスティアーノを見下ろすと、軒と軒の間から漏れ出す細い光の筋がいたるところに走っていた。その情景は、光の小道が宙に浮かび、本の中の妖精がミスティアーノ中で踊って、遊びまわっているかのように儚くて、美しい光景だった。
私とロイスが宿の食堂で夕食をとっていると、宿のおばあさんが奥から出てきて、こちらへゆっくりと歩いてきた。私がまだ大学にいた頃の女将さんだろう。10年以上経ってもその柔らかな雰囲気は変わらないままだった。
「ルーカスさんね?」
「そうです。」
「お久しぶりね。急に引き払っていなくなったものだから、びっくりしたのよ。そちらは息子さん?」
「そうです。」
「必要最低限しか話さないところはあいかわらずね。でも少し雰囲気が柔らかくなったわ。息子さんのおかげかしら?」
「おそらく。しばらくここに泊まらせてもらいますので息子共々よろしくお願いします。」
簡単な食事を済ませ、ロイスを部屋に送り届けてから、私はあのじじいが待つ飲み屋へと向かった。
その飲み屋は十数年前よりもいくらか古ぼけた姿で変わらずあった。店内は昔と変わらない喧騒に包まれ、人でごった返して、様々なお酒から発せられるアルコールの香りが充満していた。私よりも先に入っているじじいを探すと、じじいは奥の方のテーブル席で私が来る前から一人で始めていた。




