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翌朝、最近の吹雪が嘘のように透き通った青空が家のうえに広がっていた。澄み渡った冬の青空をみると、ルーカスは、どこまでもこの青空が広がっているような気になるのだ。
「冬は本当にいい季節ですね。今日はさぞかし星が綺麗でしょう。」ルーカスは一人呟く。
少年はあれから一度も話さない。ただ、食事だけは自分で取るようになった。黙ったまま、私の方をじいっと見つめているのだ。その目には、私しか写していないかのように。
「しもやけはもう治りましたか?」
彼は私の方を見つめたまま、こくりと頷いた。
「良かったですね。」
ルーカスはそういうと、別館へ向かった。ルーカスの家の別館にはルーカスより大きな望遠鏡がある。これも老眼に合わせて、いい加減調整しなければいけないのだが、どうにも面倒臭くてここ数年補修すらできていない。この望遠鏡は、ルーカスが大学の教員を辞めた後、一人でなんとか作ったものだった。木でできた、ささくれ立つ鏡筒に、透明でつるりとしたレンズが2枚はまっているだけの単純なものだったが、私よりも大きい精密な機械だ。これは私自身の命よりも大切で、何度も自分の視力に合わせて調整を行なっているから、今では自分の目の一部のようになっている。いつか自分が死んだら、きっとこの望遠鏡も一緒に朽ちていくのだろう。