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夜空を見上げて  作者: 森中満
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その調整のために、こんなにもたくさんのレンズが必要になるそうだ。しかし、ルーカスが言うには、これでもまだ少ない方で、研究分野が多岐にわたる人の中には5、60枚持っている人も少なくないらしい。そのルーカスも、今回レンズ製作者から、新たに追加で30枚買うつもりだと言っていた。それを付属しているレンズを入れる袋に一つ一つ入れて、ドーラン中のゴミ捨て場からかき集めてきた新聞紙で梱包するのだから、本当に大変だった。残暑も厳しくなって来て、嵐も頻繁にやってくるものだから、夜中に観測もできずにルーカスの機嫌は日増しに悪くなっていった。


ミスティアーノへの出発の日はありがたいことに、秋晴れだった。ロイスと、私でレンズを分担して背負い、私たちは家を後にして秋の気配が漂う山をゆっくりと下山していった。所々紅葉を始める山の木々は、夏のように他の木々に溶け込めていない。なんだかとてもちぐはぐな風景に思えるのは私だけだろうか。


「季節の変わり目の風景って、どっちつかずで嫌いです。」

「そうですね。」


溶け込めていない、ということがお互い気にくわないのかもしれなかった。


町までの目印にしている色あせた赤いリボンも、山頂付近のブナや白樺の紅葉に覆われ、風景の一部になってしまっていて、目を凝らさないと見つけることもできなかった。私が随分前に結びつけたこのリボンも、私がここに越して来た時からのものだから、もう10年以上は雨風にさらされ続けていることになるらしい。表面のリボンの繊維がボソボソと毛羽立ち、ところどころ擦り切れているのも頷ける。

色あせたリボンを目印に、一歩一歩、落ち葉で滑らないようにかさかさと忙しない森のあいだを進んで行くと、ようやく麓の橋のたもとについた。古びたレンガでできた橋をわたる2つの影が、一瞬たりとも同じ姿をとどめないままに川に流されて、岸に近い清流は、もみじやぶなの色づいた葉を洗い、水に浮かぶ紅葉の葉の赤の深みを増している。

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