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ゆっくりと揉みながら、水中で動かしてやれば、ピクピクしながら、それに耐えている。少しだけ面白い。
「痒いでしょう?」
相変わらず彼は何も言わない。やっぱり、痛かったのだろうか?人の負の感情は、僕にはいつも見抜けない。大学にいた時だってそうだった。僕は、あの時自分に向けられた感情であることにも、その種類にすら気づかずにのうのうと研究に勤しんでいたのだ。ああ、今もかもしれないが。
「痛っ」
「おや。痛かったですか?ちょっと手に力が入りすぎましたかね。」
外の風はますます強くなる。彼はせっかくお湯に浸かっていた手をわざわざ窓ガラスの方へ持って行った。窓ガラスの表面は彼の手の形に透明になる。外は、さっきよりもひどく吹雪いている。白すぎて向こうが見えなかった。彼はひりつくような痛みを感じていることだろう。
「君。窓ガラスに触るんじゃない。せっかく良くなってきた霜焼けが治らないだろう?」
「別に治らなくても。」
「さあ、もういいだろう。早く暖炉の火であっためてきなさい。」
彼はゆっくり、ふらつきながら暖炉の方へ歩いてゆく。あんな足では橋の下まで行く前に倒れ込んでいただろう。燃え盛る暖炉の火がチロチロと彼の足と手を舐めているようで、ビリビリと痛むようだった。
「痛いですか?生きててよかったですね。」
彼は翌日も、足と手の痛みでうまく歩けないようだ。