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最近、季節が夏になり、夜になっても晴れていることが多くなって、ロイスは夜観測へと行ってしまうから、僕はロイスの大きな望遠鏡を窓越しに見ながらロイスの本を読んでいることが多かった。今夜はその勉強が役に立つ初めての日だと思うと、ぞくぞくして仕方がない。
「ロイス、これが私の望遠鏡です。」
先に別館へと入っていたロイスが示してくれた先には、あの日見た大きな望遠鏡がどっしりと鎮座していた。その望遠鏡の大部分は木製で、ところどころに使われている金属の表面は、月の光に照らされて、美しく七色に揺らめいていた。初めて別館へ入った時は、僕にとってあまりにも普通すぎて気がつかなかったのだが、居住スペースの本館とは違って、別館の床や、ロイスが小物を置くために使っている机など、こまごましたもののどこにもホコリひとつ積もっていなかった。少し黄色いスケッチ用紙も整然と積み重ねられ、インクのツボも、羽ペンも綺麗にインクの汚れが拭き取られていて、ルーカスが毎夜使っていると思われる羽ペンも先っぽを触ると血が出そうなほど尖らせてあった。
「綺麗すぎて驚きましたか?」
ロイスは、右目に器具を装着しながら、静かに笑っていた。カチリ、カチリと歯車同士が擦れてはまって行くような機械的な音が響く。
「恥ずかしいことに、私もカインと同じでね。望遠鏡にはちりや、ホコリは禁物だから、ここだけは、どんなに面倒臭くても掃除するようにしているのですよ。ただ、別館を掃除するだけで疲れてしまって、本館の方は掃除する気にならないのです。」
「僕がここも掃除するようにしますね。」




