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「今年もまた回ってきましたか。ロイス、そろそろ天体についての知識も人並みについてきた頃でしょう。どうですか、自分でも手応えがあるのではないですか?」
ロイスは、嬉しそうに頭上に広がる空に目をやった。彼の目線は、私の観測用の青いインクを垂らしたかのような天頂付近から地平線の方までゆっくりと移っていき、山の向こうへ沈みつつある白っぽい夕日に目を細めている。
「そうですね。星や、星座の名前を覚えるたびに自分の世界が広がっていく気がして。」
「どうですか、そろそろ望遠鏡を覗いて見ませんか。」
「あ。あ…はい。」
ロイスは、前に見せたような狼狽は見せなかったが、彼の耳は相変わらず真っ赤に染まっていた。人によって、感情がよく現れる部位は異なるもので、皆がみな目が感情を語るわけではない。ロイスの場合は、耳らしい。随分と可愛い耳である。
「そうですね…。覗くだけなら、今夜でもできるのですが、観測をするとなるとすぐにはできないですね…。それでもいいですか?」
「はい。大丈夫です。」
そう言ったロイスの目は、夕闇の中でもきらりと光って見えた。
ロイスといつものように野菜スープとポテトサラダを作ってもらい、一緒に夕食をとった。ポテトサラダは、最近ロイスが、ドーランの八百屋のおじさんから教えてもらったらしい。私の恩人が好きだったものだ、とロイスに伝えたら、ロイスは嬉しそうな顔をして少し目を細めて笑った。
「さて、空も暗くなってきた頃ですから、望遠鏡のある別館の方へ行きましょうか。」
「はい。」