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「僕のいただいたこの時計にはカインさんの真っ直ぐな性格が表れているきがするんです。きっと僕ではこんな時計は作れない。物は人が作る以上、ほんのすこしはその人自身を反映してしまうのだと思います。僕が物を作れば、きっと綺麗なものは作れない。そう思った時、ルーカスに教えてもらった星空の美しさを思い出しました。星は人の手が入らないとても綺麗なものです。きっと、ルーカスの目に映る夜空は僕が見たこともないほど美しいものなのだろうと思います。それと、そうですね...僕が天文学が好きな理由はそれだけではなくて、根本的な理由は、夜空を観測するルーカスがとてもかっこよかったからです。」
ロイスは、最後の一言を恥ずかしそうに俯いて、語ってくれた。自分のことをそんな視線で見てくれる人など、今までいなかったから、なんだか私まで照れ臭い。
「そうですか。」
ルーカスは、この子も、自分の奥深くに何か小さな黒っぽい生き物を飼っているのだと思った。生き物というよりも、暗黒星雲のようなものと言ってもいいかもしれない。いや、おそらく人は誰しもそれを持っていて、それを自覚するかしないかは人によるのだと思う。ロイスの奥深くに棲む黒っぽい生物は、しょっちゅう彼自身に干渉するのかもしれない。暗黒星雲は、星雲の中のどんなに明るい光でもほとんど通さない。自分の見ているものだけでなく、考え方までも、何かに影響されているかのような感覚は私にもよくあることだった。歩むことを知らない彼が歩き出すための道しるべが、天文学になるかもしれないということは嬉しいものだ。私の後見人も、こんな感覚だったのだろうか。
「そうですよね。先生?」
「え?」
目の前で勉強していたロイスがキョトンとこちらを見上げた。
「いえ、なんでもありません。」




