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「君は学問の中では一番何が好きですか?」
「天文学です。」
ロイスはきっぱりとルーカスの目を見て言った。
「そうですか。」
ルーカスはしばらく目を閉じて思案すると、うっすらと目を開けた。
「君も私の天体望遠鏡を覗いてみたいですか?」
「え。」
ロイスはしばらくなにも言わずに、呆けたようにこちらをじっと見つめている。さっきから何か言おうと口を動かしているが、その開いた口からは、母音しか生まれない。いつの間にか、曇天も晴れて、おぼろげな月の光がぼんやりロイスを照らしている。
「え、あ、はい。見たいです…。」
ロイスはしばらくして小さな声でそういうと、耳まで真っ赤に染め上げて俯いてしまった。そして、心臓よりももっともっと深い深い場所から絞り出すように、いいんですか、と呟いた。ロイスは、かつてないほどの興奮を感じていた。なんだか、こう、頭の中がいっぱいになって、溢れ出して目まで潤んでくるようなそんな感覚。本当に望遠鏡が覗けるのだろうか。本当に?
ルーカスはそんな僕を、一つの星の光のように見つめている。
「そうですか。天文に興味を持つ人は90%以上天体を望遠鏡で見てから興味を持つのですよ。君の順番が変わっているだけで、それは当然のことですから。どうして天文に興味を持ったのですか?」
「もっと綺麗な変わらないものが見たかったからです。」
ルーカスは虚を衝かれたようにロイスを見た。ルーカスが天文の世界に入ろうと思ったきっかけとまるで同じだったから。不思議なこともあるものである。
「時計職人とか、ほかの職業ではダメなのですか?」