32
「ルーカスは、夜空を見ていて楽しいですか?」
ロイスは、静かに物思いに耽るルーカスに語りかけた。ルーカスの話を聞いていると、天文がなんだか計り知れないもののように思えてきたのだ。ルーカスが文字通り命を削って取り組んでいる一生のものが、そのようにとりとめのないものだとは思っても見なかったのである。もしかしたら、遠い未来、ルーカスがやっていることが、嘘だと認定されてしまったら、ルーカスの一生はどうなってしまうのか。ロイスにとって、ルーカスはすべての憧れだと言ってもよかった。天文の不安定さのせいで、憧れのルーカスを構成する一つの大きな軸が崩れてしまうような気がした。
「はい、楽しいですよ。楽しくなかったら、ここまでして夜空を観測してはいません。私も君と同じでもともと学問なんて修められる立場の子供ではありませんでした。そんな私に学ぶことの楽しさとその機会を与えてくれたのが、私の後見人の知り合いの天文学者だったのです。私も君にとってそうでありたいと願います。」
「そうですか…。ルーカスは僕にとってお父様に当たる方です。」
そんな話をしながら幾夜も更けて、春の朧月夜は過ぎていく。その間に、ロイスは時計を与えた時とは比べ物にならないほどに賢くなり、私の資料室に入ることを許可してからは、空いた時間にはひたすら、私の蔵書を読み漁っているようだった。ほこりを被っていた私の本から、一冊一冊と、ほこりがなくなっていくのは見ていてなんだか嬉しかった。