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「ロイス、知っていますか。今よりもずっと昔、この私たちの上に広がる夜空は、今の夜空とは全く別のものだったのですよ。」
「どういうことですか?」
「遥か昔、我々人類はこの空の星々が天井から吊るされているというように考えていたんです。それだけではありません。私たちの住む大地は、想像を絶するように大きな亀の甲羅の上にあると信じていた時代もありました。おそらく、その頃の空と、今の空では、人間たちの見方は大きく異なっていたことでしょう。私も、まだ若い君すら死んでいる遥か未来には、星空への見方はまた大きく変わっているかもしれませんよ。」
ロイスはふっと考え込んだ。天文の世界の時間の単位は恐ろしく大きい。
「はい。とても長い時間ですね。」
「そうです。天文というのは、人一人だけではとても学び尽くすことのできない、壮大な学問なのですよ。」
そう考えた時、「見る」という行為がどれほど頼りないことかがわかる。今見ているものは、気の遠くなるような未来には嘘かもしれないのに、私たちは今それを事実だと信じて生きている。それはとても楽なことであり、また、とても危険なことでもあるだろう。今よりも遥か遠くで誰かがその嘘に気がついた時、その人が異端だの、変人だのと罵られようとも、嘘が嘘であると認められた時、その見方は大きく変わり、夜空はまた姿を変える。一人の学者として、その転回の時代にいたいと願うが、おそらくそれよりも早く私は死んでしまうに違いない。