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「君はまだ死ねないのではないですか。早くこっちにきなさい。ここに今日から住みなさい。」
彼は何も言わなかった。彼を家に入れたときは、もうさっきのような目は失われていて、どんよりと曇った目とはもう視線が交わることはなかった。じっと古びた床を見ながら、私が促さなければ歩き出そうとはしない。私の家の赤いレンガの石造りの壁は、よく隙間風を通すし、がたつく窓にかかったカーテンだって、ここ何年か洗ってない。ほこりとすすが積もった床も拭き掃除をしたのは何週間前だったかすら思い出せない。
「ねえ、早く入ってくださいよ。また殴り飛ばさなければならないのですか?」
「閉まりません。」
「気合を入れて閉めてください。」
とりあえず私は彼のしもやけを治療してみることにした。
「とりあえずお湯につけて見ますね。手を貸しなさい。」
彼の手は赤黒く腫れていた。幸いにもまだ、指先にまで感覚は残っているようだった。ゆっくりと彼の手をお湯につける。お湯から立ち上る柔らかな熱気が、彼の赤くなった耳や手を包み込んでいく。
「熱すぎたりはしませんか。」
彼は何も言わない。ただ、ふるふると手をお湯の中で揺らめかせるだけだった。よくあることだが、言葉よりも動作の方が本人の今の状態をあけっぴろげに物語ることがある。隠そうとしても隠しきれないのが人間だ。
「熱いのですね?」
とりあえず少年の手を15分くらいつけたら、そのまま足をお湯につけさせる。