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「ああ、じゃあな。」
カインはだるそうに手を振り、短いやりとりをかわして、私たちは店を出た。荷物を分け合って持ち、ゆっくりと私たちの家へ向かう。
「あの、どうして僕は時計をいただけたのですか。」
もうすぐ山の入り口へ差し掛かるかという頃、ロイスが早口で私に問うて来た。この子はこの国の生まれのはずなのに、古くから伝わる時計の習慣を知らないようだった。とは言うものの、私自身も、初めてこの国に修行に来た時は、この習慣に驚いた。私は異国の民だったから、私の後見人の親方が私に時計を贈ってくれて、その時一緒に、この国に伝わる時計の習慣について教えてくれたのだ。
「私も受け売りなのですがね。この国の人々はみな異国の人々に比べてはるかに目がいいそうです。ですが、目が良いということは、必ずしも良いことではありません。時として、目は人々に見たくないものを見せてしまうことがあります。物事には必ず、良い面と、悪い面があるのです。ですが、人が作った物は違います。きちんと作られたものは、その作り手がどのような人物であれ、壊れるまで、人の感情と違って変わることがありません。そんな物の中で、いつも変わらず時を刻み続ける時計の音は、人間の心臓の音にも似ているためか、とても縁起の良いものとされて、長生きの象徴とされるようになりました。そして長寿を願って、時計を子供に贈る習慣が生まれて、それが今でも続いています。これがこの国の時計の習慣です。」




